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第7章  厄災

214. プチお茶会と学生たちの討論会

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「魔素があったところが砂漠になった。おそらく国は先々王が斃れた後で荒れていたと思うから、あった所だけでなく魔素は引き続き現れて、砂漠は広がっていくという状況だったんじゃないかと思うんだ。それを先代の王が食い止めた。先代は魔力持ちだったそうだよ」

僕の言葉にミッチェル君が顔を顰めながら口を開く。

「皮肉なものだね。魔力持ちを戦の道具に使って殺して、呪詛返しで死んだ先々王の後始末を魔力持ちだった先王がするなんて」
「うん。本当にね……」

確かにそうだ。でもそうでなければ、魔力を持たない民は、魔力持ちの事が恐ろしくて仕方がなくなるだろう。そうして時が経つうちには先々王の記憶よりも魔力持ちが暴走を起こしたせいで国が滅びたと言われていたかもしれない。そう言うと皆はまたシンとしてしまった。

「先王は何かの加護を持っていたとも言われているみたいだけど、さすがにそれがどんな加護なのかまでは分からない。でも魔素から変わった砂漠に囲まれ、ジリジリと死を待つだけとなった自国の中で、僅か十八歳で王位を継いだ先王が最初に行ったのは、前王の封じ込めと使い捨てられた魔力持ち達の弔いだったそうだ。先々王は死して尚、彷徨ったと言われている。それを封じて、念を残してしまった魔力持ちを出来うる限り弔ったそうだよ。そして先王自身も断ち切れない呪いを受けて、半身に酷い痣が浮き、痛みに悩まされたという記録が残っている」

ミッチェル君とトーマス君が顔を歪めて泣いているのが見えた。それでも僕は話を続ける、

「そうして少しずつ砂漠化が止まり、他国との不可侵条約も結ぶ事が出来た。砂となった土地は戻らなかったけれど、国の混乱は治まり始めて、おかしな病もいつの間にか消え、砂漠以外の懸命に耕した畑にも作物が実り始めた。今、シェルバーネで祀られている神の一人はこの先王なんだって。彼は五十年ほど前に亡くなり神となった。叔父上曰く今代はある意味凡庸で穏やかだと。民に対して無茶な事は言わず、未だ国同士の関わりはないけど、商人たちには他国との交易を認めている。でも野心を持つ家臣には苛烈なんだって。そろそろ次の代に譲る事を考えていらっしゃるらしい。これが話したかった西の国の事だよ」

しばらくは何の言葉もなかった。
それはそうだろう。初めて聞く西の国の話。しかもルフェリットに今起きている事と似た事。
どう考えればいいのか。もしかしたら王国はこのまま衰退して、他国から攻め入られてしまうのだろうか。
それとも魔素が湧いている所が西の国のようにどんどん砂漠化していくのだろうか。
けれど西の国が砂漠化をしたのは先々王の行いのせいだ。ではなぜルフェリットは砂漠化をしているのか。
結び付けて考えだせばキリがないのは自分自身で確認済だ。
でも、それでも聞きたかったのだ。他の意見を。自分たちが歩いている所が間違っていないか考える為に少しでも色々な意見が聞きたい。
それは僕の我儘なのかもしれないけれど。

「何をどこから話していいのか分からないけれど、西の国に起きた事が今王国で起きている事と似ている事は理解できた」

やっぱり一番に話し出してくれたのはレナード君だった。

「ただ、本にしても西の国の話にしてもどうしてそうなったのか始まりが分からないなという印象がある」
「うん。そうだね。どうして奇病や天候不順などが起きたのかは西の国もルフェリットも分からない。西の国は戦いによる荒廃から魔物が湧き始めたけれど、王国は今一つ分からない」

レナード君の言葉にエリック君が頷いて同意をするとミッチェル君が割り込んだ。

「ハーヴィンでしょ?」
「え?」
「ハーヴィンによる領主の跡目争いにから始まった荒廃が原因で魔物が湧き出したんじゃないの?」
「それは一つのきっかけなんじゃないかな。だって、最初の想定外と言われる魔物が出現をしたフィンレーも別に領が荒れていたわけではないし、カーライルだってこれと言った原因は判っていないよ」

トーマス君が硬い表情をしたまま声を出した。

「うん。魔物がどうして湧いたのかはよく分からないけど、でも確かにハーヴィンは気にはなっているんだ」

ルシルも口を開く。

「待って、どこから話しをするか決めよう。王国と西の国の共通点から見ていくのか。それともピンポイントで魔物とか砂漠化について話をしていくのか」

スティーブ君が皆を見回して声をかける。

「思いつくままだと煩雑すぎるか……」
「そうだね。ただ、始めから決めてしまうと見逃す事もあるかもしれない」
クラウス君とレナード君がそう言って、スティーブ君が「じゃあ」と口を開いた。

「それぞれが気になったところを挙げていってみようか。それでどこがどう気になっているのか確認をしてからまとめていく方がいいかな」
「そうだね。それでまとめきれないようならその時点で分けて行こう。どちらにしてもここで答えが出るような話ではないしね。そうだな。本を絡めるのか、それとも王国と絡めるのか、その視点だけでもいいのかもしれない」

スティーブ君とレナード君がそう言うとミッチェル君が「難しい事は二人に任せるよ。とにかく気になった事とこうなんじゃないって事を挙げていく。それでいいかな」という。こういう時にミッチェル君の存在は本当に大きい。

「そうだね。そうしよう。その方が受け取った感覚に近い意見が出るかもしれないし、話しやすいでしょう?」

僕の言葉にトーマス君がホッとしたような顔をした。

「ね、話しながら食べようよ。だって今日はお茶会だもの。温室で実ったナシのコンポートのタルトはお勧めなんだよ」

それから僕たちはお茶とお菓子を食べながら色々な話をした。

やはり気になるのは始まりのきっかけ。それは王国も西の国も同じだ。なぜ急に始まるのか。
奇病、天候不順による不作、魔素の変化……そんな風に似たような事が起こるのはなぜか。
120年の時差があるのには理由があるのか。

「やっぱり何かあの本の事が気になる。ねぇ、エディ。王国の本には三つ首の名前があったじゃない?ええっと『呪い』と『死』と『絶望』だったかな。西の国の五つ首には名前はなかったのかな」
「え?」
「だって、もし五つ首の中に『呪い』と『死』と『絶望』があれば、あの話は西の国の話からきているものだって想像できるじゃない。そうしたら後の二つは何だったのか気にならない?」

うん、やっぱりミッチェル君の視点って面白い。

「例えばですが、ああ、本当に想像ですが、五つ首のうち三つがルフェリットの領地となったところに封じられた。そして他の二つは西の国、あるいはどこか違う国に封じられたとして、それが解き放たれてしまったらどうなるんでしょうね」
ユージーン君が考えながら口を開く。それにスティーブ君が確認をするように

「王国の中に存在しているかもしれない首塚のようなものの封印が解かれたという事ですか?」
「あくまでも仮説です。例えば、封印が解かれたとしたらどうなるのかという、言い方は悪いけれど、好奇心。そして、どうして首には名前がついているんでしょう。やはりそれも気になります」
「なぁ、もしもその首についている名前の禍が封じられているとしたら。ああ、でもそうしたら同じ事は起きないか」
クラウス君が自分で言い出して、自分で完結させた。

「え?クラウス待って。今クラウスが言ったのってさ、西の国の始まりとルフェリットの始まりは封じられた首の封印が解かれて始まった事って仮定した?」
「ああ、うん。それも考えられるかなって。でも封じられているものが違うのに、始まりは同じっていうのも変な話だよな」
「でも、同じような始まりである事も考えられるよね。だってさ、元は同じなんだから」
「ミッチェル、雑に言うなよ」
「え? そういう事じゃないの?」
「まぁ、いずれにしても仮説っていうよりも、想像っていうか、おとぎ話っていうか、そんなものだけどな」
「となると、やっぱりあの本の混沌の国がどこからどこまでだったのかっていうのがやっぱり気になるな」
「気になるっていえばさ、単なる数合わせなのかもしれないけど、五つの首が現れているのが、五つの種族がいる世界っていうのもなんだか意味深だよね」
ルシルがそう言って皆がえ? という顔をした。

「ルシル、それって」
「え? それはわざとなのかなって思ったよ。だってあの世界には人と、魔物と、精霊と、エルフと、ドワーフの五種族が暮らしていたんでしょう? そこに五つの首の化け物が現れる。そして争いが始まるんだ。その話を聞いた時僕は覇権争いが発端なのかなって思ったよ?」

ああ、そうか。そういうシンプルな見方もある。確かにそうだ。どこかで小さな諍いがあれば、すぐさま領土の問題へと広がっていく可能性だってある。

「ただ、それが本当に起きた事なのか、単なるおとぎ話なのか分からないのが一番つらい所だよね」
「確かに」

皆で小さく苦笑いをした。
話をした事はスティーブ君とユージーン君がノートに書き留めていた。
僕は後から思い出しながら書くタイプなんだけど、二人はその場でまとめていくタイプなんだね。
休み中に届いた、きちんとまとめられているノートを思い出して、僕は胸の中で二人にありがとうって言った。


こうしてプチお茶会という名の討論会が終わり、やっぱり色々な人の意見を聞くのは大事だなって思った。

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