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第7章  厄災

212. 学園復帰

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「くれぐれも注意をして。学園内は強い結界があるけれど、人の中に潜む魔素までは対応できない事が前回で証明されているからね。ルシルがそれを見られるようになっているから、出来るだけ彼を含めた仲間たちと一緒に行動するように」
「はい」
「決まった事とは言え心配だよ。エディ」

珍しくそんな事を言う兄様に、僕はにっこりと笑った。

「気を付けます兄様。何かあればすぐにお知らせします。それに洋服にまで魔法陣を組んでありますから」

そう。結局9の月になっても公爵子息の魔人は姿を現さなかった。このままでは進展もないし、オルドリッジ公爵自身を処罰する事も出来ない。
おそらく父様とお爺様が話し合いをしたのだろう。そしてきっと最後まで兄様は反対をしていたに違いない。
でもね、さっき言ったようにお祖父様は僕が着ている服の背中にまで魔法陣を付けたんだ。
学園に制服は替えもあって5着用意がしてあるんだけど、全部魔法陣が付与されている。
なんていうか僕自身に結界?
その他に聖神殿の護符も持たされているし、僕が言うのもなんだけど過保護だ。

あれから僕は結構忙しい日を過ごしていた。
お爺様の魔法と、薬草の勉強会は週に1度ずつになった。
毎週になったから無理かなと思ったけど、トーマス君とスティーブ君もやってきて、学園の事や二人が感じている王都の状況なども聞く事が出来た。
ルシルも元気にしている事も分かった。
なんだかミッチェル君とよく話をして気が合うみたいって。ミッチェル君ってあの話の時も思ったけど、口で言っているよりも実際は面倒見がいいよね。

そして、ポツポツと皆からの報告も届いていた。
まだ決定的なものはないけれど、皆が諦めずに調べてくれているって分かって嬉しかった。

「エディ、そろそろだよ」
「はい、アル兄様行ってきます」
「うん。気を付けて。本当は送って行きたかった」
「ふふふ、大丈夫です。護衛も増えましたから」

そうなのだ。今日から護衛が二人になる。ルーカスとブライトン先生。
なんとゼフの代わりにブライトン先生がルーカスと一緒に僕の護衛になってくれたんだ。しかもブライトン先生ではなくて、ジョシュアと呼んで下さいって。ジョシュア……慣れない。

あ、ゼフは別に辞めさせられたわけじゃないよ。ゼフにはあの本の話の事やそれに似たような話がないか、ゼフの実家のある故郷の方で、もう一度調べてきてもらう事になったんだ。あと、何度か話題に上がってくるモーリス領が近いから、ダンジョンを含めた現状についても調べるように父様から言われて、数名の仲間たちと一緒に数日前に旅立った。

「僕が学園にいる間はずっと控えに居てくれるって言うし」
「そうだね。では二人ともよろしく頼む」
「はい」
「じゃあ、ルーカス、ジョシュア、行こう」
「はい」


こうして僕たちは夏季休暇を含めると約3ヵ月ぶりに学園へと向かった。


-*-*-*-*-*-


久しぶりという事もあって、ルーカスが僕の教室まで一緒についてきた。
高等部になって従者が教室まで付いてくるというのはほとんどない事なので、少し目立ってしまったけれど仕方がない。
教室を覗くとすぐにスティーブ君が気が付いてくれた。僕はルーカスに大丈夫だと言って教室の中に入った。

「おはようございます」
「おはよう、スティーブ。ようやく来られたよ」
「はい、でも」
「うん。そうなんだけどね」

二人で言い淀んで席に着くと待っていた仲間たちが声をかけてきた。

「おはよう、エディ。元気そうでホッとしたよ」
「エディ、お久しぶり」
ミッチェル君とルシルだ。

「おはよう、エディ。来られて良かった」
「おはようございます、エディ」

トーマス君もユージーン君もみんな変わらない。良かった。

「今日から来ると伝えたらお昼に会おうとレオンたちからも連絡が来ています」
「わぁ、嬉しい。ありがとう」

しばらく近況報告みたいになって、それから講義を受けて、お昼になっていつもと同じように空き教室に移動をすると「エディ」と声が聞こえた。

「クラウス、また大きくなったの?」
僕がそう言うとミッチェル君がニヤってしながら口を開いた。

「もうさ~、でかいし、日焼けもしているし、ボアみたいだよね」

ミッチェル君ってば。

「悪かったな。ボアで。まぁ、それはそうと来られるようになって良かった」
「うん。一応ね。でもいつまでもフィンレーにこもっても居られないし」
「ああ……」
「さぁ、とりあえずは時間も限られているから食事にしよう」

レナード君がそう言って僕たちはテーブルを食事の支度を始めた。



「それにしても、どこに行っちゃったんだろうね」
「自分自身が出入り口になっているんだとしたら厄介だよね」
「……それってやっぱりどこにでも出てくることが出来るって事なのかな」

相変わらず遮音の魔法をかけた中で僕たちは食事をしながら話をしていた。

「一応僕が人の中の魔素を見られるようになったから、注意をして出来るだけエディと一緒にいるよ。でもなるべくみんなで一緒にいる方がいいと思う。それはエディの為だけじゃなくてみんなの安全の為にも。あれだけ魔素に侵されて瘴気を放つようになっていたんだもの。一人でいない方がいいよ。クラウスもね、出来るだけ誰かと一緒に行動するようにした方がいいよ」
「分かった」
コクリと頷いたクラウスを見ながらレナード君が口を開いた。

「あの魔物化した子息は消えてしまってから本当に誰も見ていないのかな」
「とりあえずそうなっているみたいだね。まぁ、見たとしても死んでしまっているのかもしれないし。どちらにしてもかくまうというのは難しいだろうね」

エリック君が淡々とそう言った。
それはそうだろう。魔人を匿うなど出来る筈がない。瘴気にあたれば魔素につかれ、その魔素に取り込まれれば魔人化する。どれほど公爵家に恩義があったとしてもそれを留め置く筈がない。

「匿ったら自分が魔人化してしまうものね」
トーマス君がポツリと言った。

「うん。そうなんだよね。だからさ、ほんとに消えちゃったんじゃないって思ったんだけどさ。それは在りえないんだって聖神殿の神官様が言ったんだって。もうさ、早くすっきりしたいよね」
「ミッチェルの言う通りに早く収束をしてもらわないとね。そう言えばトムたちから聞いたんだけど、王都では魔素の被害が減っているって?」

僕が訊ねるとスティーブ君がコクリと頷いた。

「正確な数と言われるときっとエディのお兄様の方がきちんと把握をされていると思うけど、出たという話をあまり聞かなくなってきたのは確かだよ」
「ああ、そうだね。確かに」とレナード君が頷いた。
「他領はどうなんだろう?」
「差があるみたいだね」

僕の問いに答えたのはユージーン君だ。

「というと?」
「粛清を受けて領がごたついている所には出やすい。反対に粛清を受けなかったところや粛清を受けてもその後の対応がスムーズで荒れなかったところは落ち着いている」
「まるで人の心を映しているみたいだ」

ユージーン君の答えをエリック君が短くまとめる。

「それは……やっぱり人の中に魔素が潜むという事に関係あるのかな」
「分からないけれど、人の中に魔素が潜むようになったのは確かだし、関係がないとは言えない。もっとも魔素の事がなかった時代から、上の者が荒れれば領も荒れると言われていたからね」

レナード君がそう言うとクラウス君がいぶかしそうな顔をして口を開いた。

「っていう事は昔から、本当は魔素は人の中に巣食うような事があったって事か?」
「いや、でも少なくとも魔素の中からこんなにも魔物が湧いたり、人が魔素に取り込まれて魔人になるなんて言う話はなかった」

スティーブ君の言葉にみんながコクリと頷いた。

「結局、何が先かみたいな話になってくるね。この話も、あの本についてもさ」
珍しく溜息をつきながらミッチェル君がそう言って、僕は大事な事を思い出した。

「そうだ本の事で思い出した。あの事を調べる上でやっぱり知っておいた方がいいと思って父様に聞いておいたらやっと認められたんだ。ちょっと面倒な話になるから、近いうちに僕のタウンハウスで以前みたいにプチお茶会はどう?」
「……それは、僕も行ってもいいの?」

ルシルがおずおずと訊ねてきた。

「うん。ハワード先生から本の話は聞いたでしょう?」
「聞いた。その……とりあえずう、上にはまだ内緒って事も」
「じゃあ、そう言う事で」

早めに日程をって言ったら、調整するって事になって、なんと明日の学園後という事になった。なるべく早めに話した方がいいって思ったみたい。
良かった。シェフに頼んでおこう。

「そろそろ午後の講義が始まるね。じゃあ、エディ。明日はよろしく」
「うん。急でごめんね。よろしくお願いします」

そう言って解散しようと思っていた途端。

「あ、エディにあれを知らせてないじゃない」
「え? あ。別に明日でも」
「ええ! せっかくエリックがいるんだしさ」
「? なに? エリックがどうかしたの?」

僕は言い出したミッチェルとエリック君を交互に眺めた。

「あ~……実は、他の皆には休み明けに報告をしたんだけど、その、婚約をしました」
「え!!」

僕は思わず大きな声を上げてしまった。良かった、まだ遮音を解いていなくて。

「以前からほとんど決まってはいたんだけれど、彼女が18歳になったので。きちんとしようと」
「そ、そそそれは、おめでとう」
「ありがとうございます」

エリック君は初めてみるような照れた顔をして頭を下げた。
お相手の事はなぜかミッチェル君が教えてくれた。
エリック君がさっき言った通り、学園に入る前からの約束で、お茶会の友達のお姉様だったとか。
侯爵家の人なんだって。彼女が成人の年齢になったので、婚約をして、エリック君が卒業をしたら結婚をするって。それまでは領も近いから花嫁修業がてら行き来をするって言っていた。

「今度エディからカメラを借りて写真を撮って見せてよ」
「いや、いいよ。そういうのは」
「ええ~、いいじゃない。見たいよ」
「ミッチェル」
「だって、本当は皆も見たいでしょう?」
「エリック、見せる見せないはともかくカメラはいつでも貸すし、良ければ在学中に一緒に作ろう?」
「! それは、ぜひ」

嬉しそうなエリック君を見て、僕も自然と笑みが浮かんだ。。
僕らの仲間の中から出た、初めての婚約。
きっと卒業に向けてそんな事が増えてくるんだろう。

婚約、結婚…………そうだね。エリック君はマクロード伯爵家の嫡男だから。
そう考えたら何だか胸の奥がツキンと痛んだような気がしたけれど、僕はそれに蓋をした。


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エディサイドもじりじりと(#^.^#)
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