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第7章  厄災

207. 大人たちのお茶会②

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「さて、ではその事についてはケネスとマックスに任せよう。私の方からはオルドリッジ公爵の方を。公爵自身は現在蟄居という形で屋敷に軟禁状態になっているのは知っての通りだが、逃亡する手引きをしようとしていた者を押さえた。こちらも直ちに王命で捕らえて、粛清の中に入れる。領地持ちではないが、爵位は没収だ」
「家柄だけは古いし、高いからいざとなると思わぬところから伝手つてが出てくるな」

うんざりとしたようにそう言うケネスに、ハワードが「この際、後が面倒でないように根こそぎにして終わらせたいですね」と言い放った。
大人たちも十分に疲れているのだ。

「子息の方はどこかに引っかかったのですか?」

アルフレッドが訊ねると、デイヴィットは渋い顔をして首を横に振った。

「大きな魔素が湧き出た所はあるが、そこまでで、魔人やアンデッド騒ぎはない。フィンレーの結界には近づいた者があればそれを記録するようになっているらしいが、その痕跡もない。今回の逃亡騒ぎのように、あの状態の子息を匿ってくれるような所はさすがにないだろうしね。下手をすれば自分が魔人化をしてしまう。さすがに公爵家にどのような恩義があってもそれはないだろう」
「魔素の中で、あるいは、あの聖神殿の近くに作られた結界の中で消滅したという事はないのでしょうか」

今度の問いかけにはハワードが口を開いた。

「聖神殿の大神官にも確認しましたが、あの状態で自ら浄化をしたり、どういう方法かは判りませんが、消滅をするという事は考えられないと。いきなり王都の街中に現れでもしたら大事ですからね。何か探し出す手立てがあればよいのですが」
「大きな魔素が湧き出したり、大きな魔力が現れたりというのはある程度は把握できる。それだけの手を放っているからね。だが見えないものまでも把握するというのは難しい」
「はい」
「とにかくこうなると根比べのようなものだね。本来であれば相手が何をしたいのか、またはその標的が判ればという話になるが、今回は論外だ。何としても守り通す」
「はい」

アルフレッドは大きく頷いた。そう。二度と、あの瘴気に満ちたものをあのグリーンの瞳には映させない。

「とりあえず私の方は進展がない。アルフレッドの方はどうだい?」
「はい。殿下の帰還は先ほどレイモンド卿がお話下さった通りで、これから詳しい検証などあればその都度お知らせを致します。今回の殿下不在時の王城では特には大きな動きはなかったように思えます。妨害も、状況を確認するような動きも。ルシルに関してはまた殿下との話し合いになるかと。これについてもまだこれからです。話が変わりますが、先日ハロルドが妖精の夢を見た事をエディに話しました。妖精自身がエディにコンタクトを取ったようです。ですがうまくいかずに場を設けてみたというような形になりました。おそらくはエディ自身が持つ加護の力もあるかとは思いますが、妖精との話し合いに成功しました」
「妖精と話をしたのか?」

マクスウェードが呆然とした声を出した。

「はい。途中怒らせてしまったようですが、考えると色々繋げられる事を言っていたようです。話は片言で抽象的ですが、まとめると、入ったらいけない所に約束を破って入った者がいる。その為に崩れそうになっている。塞いであったのに、崩したから? または、崩したら? 違う所と繋がって壊れてしまう。助ける力はあるけれど、うまく使えない? または使わないと? 直らない。そして、壊れたらもう直せない」
「……まるで謎解きだな」

ケネスが唸るように言う。

「入ったらいけない場所はどこなのか。幾つあるのか。それを知っている人はいるのかと訊くと機嫌を損ねて話さなくなってしまったとか」
「なかなか難しいものですね」
ハワードが相槌を打つようにそう言ってデイヴィットは小さく溜息を零した。

「とりあえずはハワードの調べている禁区が判ると繋がってくる可能性があるかもしれない。また気が向いたら話してくれるかもしれないので、その辺は期待をあまり大きく持たずに待とう」
「そうだな。何だか頭を使う事ばかりで俺には向かないな。いっそこいつをばっさりやってくれって言う方が性に合う」
「それで解決するならとっくにやっていますよ。さて、では今回はこれくらいですかね」
「ああ、そうだ。うちの三男坊が魔法使いが封じたっていう話の事を書庫にこもって調べている。そっち関連でまた何か判ったら知らせるよ。そう言えばデイブ、西の国の方はどうなっているんだ?」
「今の所あれ以来連絡はないね。まぁ色々と難しいんだろうな」
「それにしても公爵家の人間と結婚をしていたとはな」
「私も聞いた時は驚いたよ」
「まぁ、今は国交が認められている商人以外はないような状態だが、王国内が落ち着いたらまた変わってくる可能性もあるだろう」
「ああ、そう願っているよ」

そうして、大人たちのお茶会は解散をした。


-*-*-*-*-*-


「エドワードの様子はどうだい? なかなかフィンレーに行っても、会って話をする事が出来ずにいるんだが。結界もあるし、父の講義などは行ってもいいかとは思っているんだ」

他の当主たちが帰ってしまったその部屋で、デイヴィットが少し疲れたような顔で口を開いた。

「ああ、それは喜びますね。この中で自分で出来る事をと色々探しているようですが、以前のようにそれが重荷になってしまっても可哀想なので」

アルフレッドがそう言うとデイヴィットは頷いて言葉を続ける。

「そうだね。では父上に話をしてみよう。それからエドワードからも連絡のあったフィンレーの精霊の森の事ももう一度よく調べたいと思っている」
「はい。その辺りはお祖父様からお話をしていただくのはいかがでしょうか。お祖父様にも定期的に現状報告はしているので、おそらくは独自にお調べになっている事もあるのではないかと思っているのですが」
「ああ、そうだね。きっとあの人の事だからそうしているだろう。本来であれば私も聞きたいがさすがに少し手が足りない」

苦い表情を浮かべる父にアルフレッドは「代わりにはまだまだ至らない所が多いですが、きちんと話をお聞きしてご連絡致します」
「うん。頼んだよ。それと、その、エドワードの事なんだけれどね」
「はい」
「前回話をした時に公爵子息の執着について話をして、その際に茶会の誘いを何度も断っていた事や、学園に入ってから釣書が届いた事を話したんだ。あまりにも驚いていてね、どうして自分に? というような表情をするので、披露目会の後は茶会の誘いだけでなく、釣書も山のように届いていて片っ端から断っていた事、さらにもう隠しても仕方がないかと思ってね、その後に届いたものに関しては卒業してから自分で考えさせるので保留になっているという事を伝えたよ。勿論、すぐに答えを出さなくても良い事とフィンレーに居たいというならいくらでも手はあるという事も伝えてある。が、君が名乗りを上げている事は触れていない」
「分かりました。ありがとうございます。教えられた事でエディが何をどう考えるのかは、時々想定外の事を考えるので良くは判りませんが、伝えるのはきちんと自分の口で思っているので。それに」
「それに?」
「父上を倣っておりますので、出来ればエディの在学中には婚約。卒業と同時に結婚出来ればと思っています。よろしくお願い致します」
「ああ……そう。もう何か言っているのかい?」
「いいえ、言ってもまだ「大好きな兄様に大好きと言われた」の範囲を出ないかと思っているので。これでも色々と詰めているのですが、やはりなかなか手ごわいです」

そう言ってふふふと笑う嫡男に、やはりこの子は自分の子供だなと今更ながらに思いながら、デイヴィットは小さく息をついた。

「まぁ、万が一何かあれば、手を貸すよ」
「ありがとうございます。とりあえずはお約束した通りに無理強いをすることはありませんので。ああ、それから私の方に来ている釣書などは今まで通りに全て拒否でお願いいたします。あの子に変な勘繰りをされる事も不安な気持ちにさせるのも嫌なのでお願いします」
「わかった。では、まぁそういう事で。父には講義という名のエドワードの発散をお願いしよう」
「よろしくお願いします」

そうして二人はそれぞれの部屋へと向かった。


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