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第7章  厄災

205. ハリーの夢 ---騒がしい妖精---

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学園が始まった。
皆からは色々な話が届き始めている。

スティーブ君は早速オックス領に聞きに行ってくれたらしい。どんな風にうまく言ったのかは分からないけれど、その話は子供の頃に聞いた事があるとお祖父様がおっしゃっていたらしく、また改めて聞きに行くとの事だった。
やはり結構記憶に残っている人がいるんだな。

ミッチェル君は最初にお父様に話をしてしまったそう。それで改めて書庫とか調べられる所は調べていいと許可をもらったとか。うん。とてもミッチェル君らしい。魔法に詳しいお年寄りにも聞いてみるって言っていたけど、なんとなくすごい人のような気がするな。だって、ミッチェル君だから。

トーマス君は元ハーヴィンに知り合いがいて、トーマス君の領に移ってきているので聞いてみるって。魔物が一番多く出て一番荒れて、砂漠化している土地だから何だか気になるって言っていた。

レナード君の所はフィンレーと同じくらい古い家なので、王国とか近隣の歴史のようなものを調べているって。レナード君の領は西の国との境の領だから何かこちらでは伝わっていないようなものがあるかもしれないな。

同じくもう少し南寄りの西の国の境に領があるエリック君も歴史関連や地図、それから古くからある伝承話のようなものを調べるって連絡が来た。

ユージーン君は交易の関係者から西と東の英雄譚を集めてみるって言っていた。
そして、数日分のノートも送ってくれた。なんでも西の国の魔道具で紙に書かれたものを写し取るというようなものがあるらしい。すごいなぁ。その魔道具を見てみたいな。

そして、クラウス君は曾祖父様とお話をしたそうで、王家が代々守っている所は複数あるという事を確認したらしい。でも詳しい事は言えないとか。う~~~~ん。なんとかもう少し粘ってみるような事が書かれていたけれどクラウス君ってあんまり交渉みたいなことは得意じゃないんだよね。が、頑張ってもらいたい。

それぞれがそれぞれに持ち帰ったものを元に動き出してくれているのがとても嬉しいと思う。

「僕も負けないようにがんばろう」

あえて口に出してそう言って、僕は部屋を出てルーカスに書庫へ行くことを伝えた。そして階段を降りると。

「エディ兄様、少しお話をしてもよろしいでしょうか」

ハロルドが居た。


-*-*-*-*-*-


再び部屋に戻ってマリーにお茶を頼む。
持ってきてくれたのは手でもつまめるような小さなお菓子と紅茶だった。
マリーが出て行ったのを見て僕は遮音の魔法をかけた。

「一応念のためにね」
「はい」

僕がそう言うとハリーはコクリと頷いた。
それにしてもいつもはほとんど温室での作業とか、お祖父様と外での魔法の勉強とかだったからあんまり意識をしていなかったけど、ハリーって随分大きくなったな。
剣術をメインにしているウィルの方が体格がいいから気がつかなかったけど、ハリーも結構大きい。

「あのさ、なんか全然関係ないけど、ハリーって今身長いくつなの?」
「身長ですか? そうですね。150ティンくらいですね」
「そ、そうなんだ。この前十歳になったんだよね?」
「ええ、7の月に十歳になりました」

うん、そうだよね。だって十歳の誕生日おめでとうってプレゼントを渡したもん。

「何だかサロンで水まき魔法を見せてもらったのがついこの間のようだよ。はぁ……」
「エディ兄様?」
「ううん。何でもない。何だか周りがどんどん大きくなるから、ちょっと悲しくなっただけ」
「ふふふ、そうですね。でも大丈夫ですよ。エディ兄様はいつまでもエディ兄様で居て下さい」
「ええ? もう少し伸びるよ。ハリーに負けないように頑張らなきゃ」
「はい」

ハリーは楽しそうに笑った。

「さて、ごめんね話を逸らして。ええっと、ハリーの話を聞かせて? もしかして夢を見た?」

僕がそう言うと笑みを引っ込めてハリーはコクリと頷いた。

「そうか。どんな夢?」
「それが、兄様の所に行ったけど話せなかったって」
「え? 僕の? 妖精が僕の夢に来ようとしていたの?」
「はい。何度か試したけどダメだったって」
「そ、そうか。それで、何を言いたかったんだろう?」

ハリーは普通にしていても妖精と話は出来るけれど、夢の中の方が姿も声もはっきりするんだって。
それで大事な事とか、ちゃんと伝えたい事があると夢に出てくるんだね。

「何だか最初はいつも美味しいのをもらうから話してみたかっただけみたいな感じだったんですが」
「う、うん」
「そのうちに何かお知らせをしたくなったとか」
「ええ! 何のお知らせだろう」
「それが、僕では今一つ要領を得なくて」

うう~ん、それは困った。
僕の部屋は沢山の結界があるし、妖精王の愛し子でもないからなかなか来て話をするというのは難しいんだろうな。だって、ハリーが来ているっていう時も、光さえ感じないし。
そう言うのはやっぱり加護の力なんだろうな。

「4.5人で入れ代わり立ち代わり喋るから余計分からないんですけど、何か伝えたい気持ちはあるみたいなんです。順番にっていうと順番を争う方に気持ちが行っちゃうみたいで」
「ふふふふふ、何だか可愛い」

僕は思わず笑ってしまった。妖精かぁ。本当に話せたらいいのにな。

「夢で伝えるのはどうしても難しいから、僕が言われた事を伝えるからって言って。今この辺に居るんです。僕にもう少し力があれば妖精の言葉をもっとちゃんと兄様に伝える事が出来るんですけど」
「大丈夫だよ。ハリー。今までにも妖精さんには色々とお世話になっているからね。また何かを教えてくれるっていうのはとても嬉しい。ああ、そうだ、ちょっと待っていて?」

僕はマリーを呼んで、小さなミルクピッチャーと蜂蜜を持ってきてもらう。

「これね、この前王都で見つけたの。蜂蜜の専門店なんてあるんだよ。はい。よかったらどうぞ」

僕は見えないけれどピッチャーに少しずついれた蜂蜜を5つ、ハリーの隣に出してみた。

「わぁ! 大喜びだ!」
「そう。それなら良かった」

妖精は見えないけれどピッチャーが揺れたり転がったりするから何だか楽しい。

「では、そろそろお話をいいですか?」

僕がそう言うと転がっていたピッチャーがピタリと止まった。そして

『……ねー、き……あ……ねー」

うん? なんだろう?

「兄様、今凄く頑張って話しています。聞く気持ちになってみて下さい。僕的にはものすごい大音量です」

ハリーが耳を押さえるようにしてそう言った。ええ? 聞く気持ち? う~~~~ん……耳を澄ます感じでいいのかな? 聞こえろ、聞こえろ、聞こえろ……

「あの、ねー、きこ……る? 」
「!! き、聞こえた!」

途端に子供のような、少し違う様な不思議な声がキャッキャッと笑った。

「……大喜びですね」
「みたいだね」
「きちんと聞こえない所は僕が補います」
「うん。では、お話したいことを教えてください」

すると微かな声が、けれど確かに聞こえてきた。

『あのねー、かんがえてるの、しってるー」
「しってるのー、ばらんすー」
「はいったらいけないのにやくそくやぶったー」
「いけないーやくそくやぶるの」
「くずれるー」
「ちがうよ、くずれそうなのー」
「ちがうー、ふさいであったのに、くずしたから、ちがうところとつながってこわれるんだよ」
「たすけるちからーうまくつかえないとなおらないの」
「こわれたらもうなおせないのー」
「たいへんなのー」

僕は聞こえてくる小さな声に、顔が引きつっていくような気がした。

「ま、待って、教えて。どこに入ったらいけなかったの?」
「いけないところー」
「どこかな?いけない所はどこにあるの?」
「しらないー、いくとだめなところー」
「そ、それはいくつあるの?行ったらいけない所はいくつあるのかな」
「……しらないー」
「知っている人は誰かいるかな?」
「おおきいひとはしってる。でもいないー」
「どこに行ったら会えるかな」
「しらないー、もうおしえてあげないー」

「兄様、この子達が話したいから来ているんです。この子達に聞かないとダメですよ。まって、まって、ハリーに言って」

それからは子供のような声は聞こえなくなって、ハリーの声だけが聞こえていた。
僕はそれを悲しく思いながら、先ほどの転がったミルクピッチャーを戻して再び蜂蜜をそこに入れた。

「無理に聞こうとしてごめんね。でもバランスの事はとても気になっていたから教えてくれてありがとう。入ったらいけない約束を破った事を調べてみるね。あと、塞いであった所と、崩れそうになっている所も探して、直すように考えてみるよ。助ける力の事もちゃんと考える。嫌な気持ちにさせてごめんね。教えてくれて嬉しかった。ありがとう。また温室にも遊びにきてね。あ、僕の事はエディってよんでね」

すると少ししてから再びピッチャーが動き始めた。

「お話出来て嬉しかった。ありがとう」

「えでぃー、またきていい?」
「!! もちろん。メロンがもうじき採れるから食べに来て?」

小さく弾けるような声が聞こえた気がした。

「こわいのは、こられないのー」
「やくそくやぶったらだめなのー」

「うん。わかった。こわいのが来られないのは嬉しい。あと、約束は破らないようにいけない所を頑張って見つけるね」
「わかるひと、こんどつれてくるー」
「! ありがとう。じゃあ、今度は美味しいクッキーを焼いておくよ」
「はーちーみーつー」
「蜂蜜も用意をしておこうね」

しばらく歓声が聞こえて、はしゃいだ気配がふっと消えた。

「帰ったみたいです。ご機嫌が直ってよかった」
「ありがとう。ハリー。でもまさか僕にまで声が聞こえるなんて思ってもいなかった」
「エディ兄様の温室を気に入っていたのと、妖精たちが話をしたいと思っていたのと、あと、多分兄様の加護のお陰もあると思います。妖精と精霊は異なる存在ですが、兄様にはグランディス様の加護がありますから。それのお陰かもしれません」
「うん。でも気になる事が沢山あった。教えてもらった話はすぐに繋げていかないとね。僕が聞いた以外でハリーが聞こえた事があったら教えて?」
「はい」


そうして僕は今度は父様と兄様に魔導書簡を送った。


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