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第6章  それぞれの

183. 帰還

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ハワード先生の言葉を聞いて、いったい誰が西の国に居たのか考えてみたけれど、僕には全く見当がつかなかった。
そもそも僕がフィンレーに来てからまだ12年経たない。
父様ではなく、お祖父様が連絡をとったというのであれば僕が知らない人だろう。

そしてそれから数日たった頃に、父様から話があるので応接室に来るように呼ばれた。
兄様も一緒だった。

書斎ではなく、応接室。
兄様と何があったのだろうと扉をノックすると、中からフィンレーの家令であるチェスターが顔を覗かせた。これもとても珍しい事だ

「二人とも入りなさい」

奥から父様の声が聞こえて、僕たちは部屋の中に入った。
すぐに遮音の魔法がかけられる。

「急に呼び出してすまなかったね。予定よりも少しお客様の到着が早くてね」
「お客様はずいぶんだなぁ」

聞こえてきた知らない人の声。

「はじめまして、アルフレッド君、エドワード君」

名前を呼ばれて顔を上げると、父様の隣に、父様に似ているけれど、父様よりも大きな男の人がいた。
ジェイムズ君のお父様位、ううん、もしかするともう少し大きいかもしれない。

「ああ、二人とも会うのは初めてだね。アルフレッドは生まれた時には会っているんだが」
「もうそんなに経つかい?」
「ああ、その間に一度も戻らないと言うのはどうかと思うよ」
「まぁまぁ、生きているという知らせは送っていたじゃないか。ああ、ほら、ちゃんと紹介をしないから二人が挨拶をいつしたらいいのか分からずに困っているよ」

大きな男の人はそう言ってにっこりと笑った。

「アルフレッド、エドワード、私の弟のダリウスだ」
「改めて、ご挨拶をさせていただきます。ダリウス・フィンレー・エルグランドです」
「ご挨拶有難うございます。アルフレッド・グランデス・フィンレーです」
「はじめまして。ご挨拶有難うございました。次男のエドワード・フィンレーです」
「ああ、そんなにかしこまらないで。何と言っても20年以上も前に家を出た身ですから。とりあえず立ったままではなく座りましょう」

そう言われて僕たちは椅子に腰かけた。

「それにしても、そうか、あの赤子が彼なのか。ああ、俺も年を取るはずだ」
「やめろ、ダリウス。父上を見習え」
「! ああ、驚いたよ! あまりに変わらなくて。いや勿論年はとっているけれど、変わらない。相変わらず我が父ながら化け物だ」

ええっと、お祖父様の事だよね。

「ほら、エドワードが引きつっているじゃないか。父上は今エドワードの土魔法の師だ。滅多な事を言うなよ」
「はいはい。さて、兄弟で馬鹿をやっていないで本題に入るか。ええっと、私がいない間にルフェリットに色々起きているらしいね。それで、何が聞きたいのかな。父上から君たちの問いに答えてやってくれと二十年ぶりに帰還命令が来たんだよ。何事かと思ったけれど、聞いた話と実際に君の瞳を見て納得した。とりあえず、君の加護の事、それから君たちが所謂『記憶持ち』だという事、今ルフェリットに起きている『バランスの崩壊』というものの事、そして、『光の愛し子』と呼ばれる聖魔法の使い手がいるという事は昨日聞かされている。西の国から呼び戻された俺に何か聞きたい事があるなら遠慮なく聞いてほしいな。答えられる事は答えよう」

父様とはまた違う、どこか自由な感じがするダリウス叔父様。
まずは何を聞いたらいいんだろう。
そう思っていると兄様が口を開いた。

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えまして、叔父上は現在西の国で何をなさっていらっしゃるのでしょうか」
「まずは身上調査か! うん、いいね。この感じ。フィンレーの嫡男だなって感じがするな」
「ダリウス」

こめかみに指をあてた父様と嬉しそうなダリウス叔父様。

「私は西の国で騎士団に所属をしているんだよ。最初は冒険者になって色々な国を回ろうと思っていたんだけれど途中で厄介な者に捕まってしまってね。結局西の国で暮らす事になってしまった。私が持っていたものはルフェリット王国の侯爵家の次男という何とも中半端な肩書だけだったから、お断りはしたんだけれど、結局西の国の貴族に取り込まれた形かな」
「大変不躾ですが、確かエルグランドは西の国の公爵家ではなかったかと」
「ほぉ、知っているのか。西の国、シェルバーネの貴族など分からないと思ったが、さすが兄上の子だ」
「ありがとうございます」
「まぁ、そういう事だ。自由を求めて旅立ったというのに、わずか七年で無茶苦茶な公爵家に囚われた。もっとも籠の鳥になるつもりはないけれどね。さて、身上調査は大丈夫かな」
「はい。では、改めまして、西の国、シェルバーネで起きた、先々王のご崩御に関する事を知る限りで教えていただけないでしょうか」

兄様はそう言って頭を下げた。
ダリウス叔父様はそれを見つめて一言「ふむ、最初から食い込んでくるね」と言ってから、一口紅茶を飲んで、ゆっくりと口を開いた。




西の国シェルバーネはルフェリット王国の西側にある王国だ。
元は緑豊かな王国で、近隣国にはない珍しい植物がある事から、他国との交易も盛んに行われていたという。
しかし120年ほど前から何かが少しずつおかしくなってきたという。
まずは奇妙な病が流行り始めた。ある日突然眠るようにして人が亡くなるのだ。
そして天候が不順になり作物の収穫量が落ちた。
更に害虫が大量に発生して被害が広がる。
不安が広がる中、何かのわざわいが起きているのだと、神に供物を捧げて怒りを鎮めなければならないと言い出したのが先々王だった。

「国内が荒れ始めているにも関わらず、他国に攻め行ってを捧げたのだと聞いたよ。シェルバーネは元々は軍神を祀っている国だからね。けれど状況は悪くなる一方だった。それはそうだろう。そんな状態で戦争して国の体力が持つ筈がない。国の中には魔物が湧くようになった。混乱を見て他国が攻め返してくる。シェルバーネは元々魔法を使える人間は少ないんだ。魔物が湧いた上に他国が攻め返して来ればどうなるかは火を見るより明らかだっただろう。そこで彼は禁呪を使った。魔力の有るもの達を捕らえてね、意図的に魔力暴走を起こさせた」

僕は恐ろしさに声を失った。
魔力暴走の時の事はあまり記憶にないけれど、それでも身体の中のどこかにある恐ろしさ。
あれを意図的に起こさせるなんて。

「ああ、怖がらせてしまったかな。まぁ、そんな事があってね、一時的に侵略は防げたものの、禁呪というものには返しがある。しかも、媒体は魔力の高い者たちだ。呪詛返しで先々代の王は死に、国は魔素が湧いていた所が全て砂となった。何も育たない死の土地だ。それが神が下された報いだったとされている。それを先代の王がどうにか食い止めた。先代は魔力持ちだったそうでね、何かの加護を持っていたとも言われている。砂漠に囲まれジリジリと死を待つだけとなった自国の中で、僅か十八歳で王位を継いだ彼が最初に行ったのは、前王の封じ込めと使い捨てられた魔力持ち達の弔いだ。死して尚、彷徨ったと言われている前王を封じ、念を残してしまった魔力持ちを出来うる限り弔った。先王自身も断ち切れない呪いを受けて、半身に酷い痣が浮き、痛みに悩まされたという記録も残っている」

奇妙な病。天候不順。禁呪。魔素が砂に。加護。死して尚、彷徨った…………。

「けれど、少しずつ、少しずつ砂漠化は止まり、他国との不可侵条約も結ぶ事が出来た。砂となった土地は戻らなかったけれど、国の混乱は治まり始め、おかしな病もいつの間にか消え、懸命に耕した畑にも作物が実り始めた。今、シェルバーネで祀られている神の一人はこの先王だ。彼は五十年ほど前に亡くなり、神となった。今代はある意味凡庸で穏やかだとされている。民に対して無茶な事は言わず、未だ国同士の関わりはないが、商人たちには他国との交易を認めている。しかし、野心を持つ家臣には苛烈だね。そろそろ次の代に譲る事を考えていらっしゃるようだよ」

何だか一度に沢山の情報が入って来たけれど、気になる事も沢山あった。


--------------
ダリウス(〃∀〃)キャ♡


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