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第2章 少年期

【エピソード】- 可愛い子2

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「デイヴィット・グランデス・フィンレー侯爵が次男、エドワード・フィンレーです。初めての参加なので、皆様仲良くして下さい」

ぺこりとお辞儀をした可愛らしい顔立ちの小柄な少年。
フィンレー家の次男は、お茶会の招待を送っても断られることで有名だ。
また、彼主催のお茶会もごくごく少人数で、招待されることはとても難しいというのも有名な話だ。

侯爵家が溺愛をしているという次男は、家を出てハーヴィン伯爵家に婿入りをして亡くなった、フィンレー当主の弟の忘れ形見で、ハーヴィン家から引き取られたとされている。
その経緯については様々な憶測が飛んでいるが、彼の瞳の色が関係しているというのが有力な説だと言われていた。

確かに………。
他では見たことのない明るい綺麗なグリーンの瞳。
そして髪もふわふわと柔らかそうな薄いクリームブラウンに少しだけピンクを混ぜ込んだような、ああ、そうだ。ミルクティの色だ。背中にかかるような長さのそれをエドワード様は明るい水色のリボンで束ねていた。
どの子息たちも興味を持っているようで、エドワード様の周りにはほとんどの参加者が集まっていた。
僕もその輪の中に入る。

レナード・トールマン様の開くお茶会には何度か招待を受けていた。
今日来ているメンバーも何度も会ったことがある者たちばかりだ。
その中に初めてのエドワード様の参加。
これは事前には知らされていなかったが、もしかしたらフィンレー家の秘蔵っ子がくるかもしれないという話はあったらしい。でもまさか本当にお会いできるとは思ってもいなかった。
レナード様のお話を笑いながらエドワード様が聞いている。

「わぁ、そうだったのですね。僕も見てみたかったです」

ニコニコと話される姿が可愛くて、もっと話を聞いていたくなる。

「そう言えば西の方では魔物が出たような話もありましたね」
「え?そうなのですか?どんな魔物が出たんでしょう」

庭に遊びにきていた子リスの話から、興味を引きたかったらしい子息が西の魔物の話を出した。
エドワード様が少しだけ不安そうな顔をしながらも、そう訊ねてきた。

「コカトリスという鳥と蛇が混ざったような魔物だと聞きましたよ」
「鳥と蛇………」
「ええ、目が合うと石になってしまうとか」
「!!!!!こここわ」
「エドワード様、解呪をすれば大丈夫なんですよ。ラスティン様、恐ろしい話はそこまでに致しましょう。皆さん、温かいスープが冷めないうちに召し上がってください」

レナード様がそう言って食事のテーブルの方に誘導をする。
今日のお茶会の人数は7名。いつものお茶会よりも少ない。
スープの方に列が出来ていたため、僕は少し待つようにテーブルの上にあった小さな揚げ物に手を伸ばした。

「それは何ですか?」
「え?」

いつの間にかやってきていたのか、僕の隣にエドワード様がいた。

「あ、えっと鳥の肉を揚げて白いソースをかけたものです。すごく美味しくて、レナード様のお茶会にくるといつも食べているんです」
「そうなんですね。あ、はじめまして、エドワード・フィンレーです」
「はじめまして、ご挨拶ありがとうございます。ユードルフ侯爵家次男のブライアンです」
「ユードルフ様はよくレナード…様のお茶会にいらっしゃるのですか?」
「はい。よく声をかけていただいています」
「そうなのですね。じゃあ、他にもおすすめのお料理はどれですか?」

近くで聞くと声も本当に可愛らしい。
確かもうすぐ6歳になると聞いているけれど、少し幼いような、けれど耳に心地よい声色だ。

「そうですね。どれも美味しいのですが、フィンレー様はどのようなものがお好きですか?」
「僕は……う~んと、お芋を揚げたのも好きだし、とろとろに煮込んだスープも好きだけど、やっぱりマカロンかなぁ」
「マカロンですか?」

意外なところが来た。

「そう。赤いマカロンが好きなんです。あとは栗のお菓子と、それからチョコレートも美味しかったです!」
「お菓子がお好きなんですね?」
「あ、はい。でもちゃんとご飯も食べますよ?」

少し顔を赤くしたエドワード様に僕は思わず微笑んでしまった。
本当になんて可愛らしいんだろう。

「お菓子ですと、そうですね。今日ですと、ああ、チョコレートマフィンなども美味しかったですね。中にとろりとしたチョコレートが入っていて」
「チョコレートマフィンですか?どれでしょう?」

キラキラとお顔を輝かせているようなエドワード様に僕は「あちらのカップケーキのようなものです」と説明をした。

「わかりました。後で食べてみます。貴重な情報をありがとうございます。ユードルフ様」
嬉しそうにそういうエドワード様に僕は「お役に立てて良かったです」と言った。

その後はまたバラバラといつものように集まったところで話をしながら、何となくエドワード様と同じ話の輪に加わったりしながらお茶会は終了した。
終わりに近づいた頃にエドワード様が「ユードルフ様」と僕を呼ばれたので、どうしたのかと近くに行くと
「さきほどチョコレートマフィンを食べてみました。本当に美味しかったです!こんどうちのシェフにも作ってもらおうと思います」と嬉しそうに言った。
「それは良かったです。あの、もしよろしければ同じ侯爵家ですし、ブライアンとお呼びいただけますか?」
そう言うと「ありがとうございます。では私の事はエドワードとお呼び下さい。今日は本当にありがとうございました」
とにっこり笑った。
こうして僕はブライアン様と呼んでいただき、エドワード様と呼ばせていただき、ほわほわとした気持ちで家に帰ったのだった。




だが、しかし、この後にとんでもないことが起きたのだ。
この日の話を聞いた父がフィンレー家に僕とエドワード様の婚約の打診を送った…………らしい。
馬鹿か!馬鹿なのか!!!
当然、フィンレー家からは「まだ5歳なので考えてはいない」という実質お断りの返事がきた。
レナード様のお茶会への誘いもなくなった。
そして僕は、フィンレーの秘蔵っ子にプロポーズをした馬鹿なガキというレッテルが貼られた。
本当にどうしてうちの父親はこうも短絡的なのか。
『またお会いできるといいですね。ブライアン様』
そう言って笑っていた可愛い子。

「はぁぁぁぁぁ」

不名誉なそれは、いずれ時が過ぎれば笑い話になるだろう。
友人も、侯爵家という家柄があれば、そこそこ戻ってくるに違いない。

「まったく、あのくそおやじめ」

それでも文句が口に出る。
いつか、また会える日が来るだろうか?
その時にエドワード様は「ブライアン様」と笑いながら呼んでくれるだろうか。
そう思いながら、僕はもう一度大きな大きなため息を落とした。


fin
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