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44 普通の転生者、噂を聞いて落ち込む

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 「どうしてそんな事になっているの?」

 そしてどうしてフィルは僕に話をしてくれなかったんだろう。

「僕はフィルにとっては頼りない人間だったのかな」

 そう思うとちょっと……かなり、落ち込んでくる。
 時計はもうとっくに帰ってきている筈の時間をさしているけれど、フィルが帰ってきた気配はない。護衛の部屋に戻った後、フィルは必ず確認をしに来てくれていたから。ただ最近は年末の警備の関係で遅い日が続くと聞かされていたけれど、もしかしたらそれも嫌がらせの一つだったのかもしれないと思うと、何にも疑うことなくそうなんだって思っていた自分の間抜けぶりに嫌気がさす。



 ブラッドが「噂だからね、本当の事までは私は調べようがないんだ。だからそのまま鵜呑みにするのはやめてほしい。それが約束できるなら私が聞いた噂を話すよ」という、何とも言えないような前置きがあって、それに頷いたら、更にハァッと溜め息をついてから話してくれた話は僕にとっては信じられないような話だった。

 フィルは夏以降どうやら色々と嫌がらせのような事が起きていたらしい。でもあくまでも噂だ。誰が嫌がらせをしているのか、どういう嫌がらせだったのかというのは分からない。
 そして秋以降は城内の見回りから外されている、らしい。何か大きな不手際があったらしいけど、どんな不手際だったのかも、どうしてそれをフィルだけが被っているのかも、はっきりとは分からない。

 それだけでもどうして? なんで? っていう気持ちでいっぱいだったんだけど、更にブラッドの話は僕の予想の遥か斜め上をいった。

「まぁ、その辺の事は多分フィリップにとってはある程度は想定内だったんだろうけど、ここに来て入ってきた噂がね……」
「ええ!? これ以上悪い事がフィルに起きているの?」
「噂だよ、サミー」
「分かってる」

でもブラッドが手に入れる噂はかなり正確だって事も僕は知っているよ。学生時代にブラッドが聞いた噂はほとんど当たっていたもの。

「フィリップが養子に入った伯爵家の当主の具合が悪くなってしまったようでね、どうやら爵位を息子に譲るという話が出ているらしいんだ。そこでフィリップが難しい立場になりそうだという話が出て来ていると聞いた。実際にどうなるのかはまだこれからの話らしいけどね」

 それを聞いた時に僕は何となくパズルのピースがパチンて当てはまったような気がしたんだ。だって最初に聞いた時に気になっていたんだ。どうして三年なのかなって。

「ねぇ、ブラッド。その伯爵は、元々三年後……ううん、今からだと二年後とかに家督を譲る予定でいたのかな」
「さぁ、それはなんとも言えないな。ただ」
「ただ?」
「二年後には六十になる筈だからね。区切りとしてそう考えていてもおかしくはないね」

 そう言って少しだけ困ったような笑みを浮かべて帰って行ったブラッドに、僕は「ありがとう」という事しかできなかった。


 考えなきゃいけない。ううん。その前にちゃんとフィルに起きていたことを聞かなきゃいけない。
 誰が嫌がらせをしていたのか、はっきり分からなくてもその大元が分かったら打てる手があるかもしれない。
 夏以降っていうのが気になる。夏以降、もしかしたらロイヤルウェディングの後かな。それまでは相手もうまく動けなかった? 
 それに不手際ってどんな不手際だろう。もしかしたら誰かをかばっているとか、嵌められたとかそんな事なのかな。考えていてもブラッドが分からないって言うなら僕がここでいくら考えていても分からない。

 でもそれを聞いてどうするのって僕の中で誰から言っている。
 フィルは多分今まで通りに何でもないって言うだろう。
 でも三年と言っていた事は、もしかしたらなくなるかもしれない。
 『三年間。お前に振り向いてもらえるように頑張るよ。だけど、それでもお前の気持ちが俺に向かなければ諦める』
 そういう約束だって最初にフィルは言っていた。
 ねぇ、フィル。フィルは三年の約束がなくなったらどうするの?
 そして僕は…………どうしたいんだろう。

 その日、フィルは日付が変わっても帰ってくることはなかった。


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