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20 普通の転生者、試験を受ける

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 一般教養の筆記試験。
 王国の歴史についての筆記試験と形ばかりの剣術と魔法の実技試験。
 そして面接。

 家柄が重視をされるような所もあるけれど、あまりそればかりにすると、偉い人たちの溜まり場になってまったく役に立たないって事になりかねないので、こまめに動いて使える者も入れないとまずい。
 という匙加減のようなものもあるらしい。

 文官ってさ、やっぱり向き不向きがあると思うんだよね。
 地味で、コツコツと何かを書いたり調べたり、時に小間使いのような事をさせられたりする事もあるし。だから見た目が華やかで、適度に発散も出来て、文官の下っ端に比べて給金も高い騎士職を選ぶ者は多い。

 でも僕は本も好きだし、一日書き物をしていても別にどうって事ないし、その辺を分類わけして整理しなさいって言われれば勿論こだわりをもってやりたいタイプだ。これは前世の記憶とあまり変わらない。  
 そしてその辺りの事については学園の教授にもお墨付きをいただいているし、さらには計算をするのも好きだ。算術は一つしか答えがないのがいいと思っている。これも前世の記憶のお陰かもしれないな。
 しかも、数少ない転生の産物というか、恩恵というか、僕はソロバンが得意で、商工会議所の珠算検定で二段を持っていた。勿論暗算も得意だった。そしてその記憶がしっかりあるんだ。ふっふっふ。


 そうして11月の半ば。

「サミュエル、頑張っておいで。きっと大丈夫だよ」
「うん。ありがとう。ブラッド。行ってきます」

 筆記は十分に勉強をした。
 過去問題も何回も解いたし、面接試験の練習は教授とブラッドが付き合ってくれた。
 ついつい「僕」と言いたくなるところを「私」に直して頑張った。



 王都まで一緒に付いてきてくれたフィルは、王城に向かう僕に「いつも通りでいけよ。直前になってそうしなきゃいけなかったのか! って焦るのだけはやめろ。ろくな事がない。そのままでいけ」と言った。
 確かにそうだなって思ったから「判った」って答えた。

 フィルは王城に入るまで見送ってくれた。どうしてだか胸の中が温かかった。
 結局フィルが卒業後はどうするのか、僕は聞く事が出来なかった。
 だって聞いてもどうにもならないから。それはフィル自身が決める事で、僕が口を出す事じゃない。
 僕は僕が決めた事をやって、フィルはフィルの決めた事をする。
 そうする事が一番だって思ったんだ。

 何だかものすごく淋しくて、悲しかったけれど、仕方ないなって思った。
 だって、僕は家を出て、自分で暮らしていく道を選ぶんだから。そうして幸せを見つけていくって決めたから。
 その幸せっていうのが未だにどういう事なんだかハッキリ分かっていないのはなんとも頼りないというか、僕らしいけどさ。

 だから、フィルも、フィルの選んだ道に行けるといいなって思う。
フィルも、幸せになってほしいと思う。
 もっともフィルにとって何が幸せなのか、自分の事さえ分からない僕にはやっぱり全然分からなくて、その事がなんだかやっぱり淋しいなって思った。





 試験自体はそれほど難しいものはなく、きちんと出来たと思う。
 剣術はフィルが少しだけ付き合ってくれた。勿論それくらいでどうにかなるようなものではないけど、なんとか形にはなったかなって思った。そして魔法は、まぁ、それなりだよ。別に魔導師になるわけじゃないからさ。

 最後の面接は……


「サミュエル・エマーソンです。本日はよろしくお願い致します」

 そう言って頭を下げると5人の面接官たちはなぜかニコニコしていた。

「はい。よろしくお願いします。ええっとレヴィンソン教授から推薦状が届いていますね。学園に残ろうとは思わなかったの? 教授にも誘われたのでは?」
「教授には大変お世話になりましたが、始めからこちらの試験を受けるつもりでしたので」
「そうなんだ。ええっと、エマーソン家っていうと、あの、エマーソン子爵家だよね」
「は? あ、あの」

 何を言われているのか分からない! でもここで取り乱してはいけない!
 にっこりと笑って「エマーソン子爵家です」というと、一番年配の人が楽しそうに「うんうん」と頷いた。
 それからはなぜか「算術が好きなんだね。いいね」とか「片付けや分類分けが苦じゃないというのは素晴らしいね」とか、なぜか「お祖父様はお元気ですか?」と訊ねられて「お陰様で未だに馬に乗って見回りをしています」というと全員から「おお~」という声が上がった。
 え? 顔見知りですか? 聞きたいけど我慢した。

「結果は5日後にお知らせします。では本日はお疲れさまでした」
「ありがとうございました。よろしうお願い致します」

 こうして、僕の官吏試験が終わった。


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