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18 普通の転生者、傷つけた事に傷つく
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目を開いたら全く知らない所だった。
どこ? ここ、森? あの町の近くに森みたいな所なんてあったかな。
金髪だったけれど、僕の手を掴んだのは確かに黒髪の騎士のダリオンさんだった。
ダリオンさんも転移が出来たのかな。
話がしたかったのに僕がだんまりを決め込んでいたからこんな風に強引な事をしたのかな。
そんな事を考えていると……
「君は誰?」
頭の上から降ってきたような声に、僕は慌てて顔をあげた。
しゃがみ込んでいた僕を見降ろしていたのは間違いなくダリオンさんだった。
「あ……」
どうしよう。何て言おう。僕がロイだったって言ったら信じてくれるかな。っていうか僕は今ロイじゃないの? 魔法が解けちゃっているのかな。
「元の姿に戻したら、なぜか一緒にいた君の姿も変わってしまったんだ」
ああ、そういう事か。
僕はゆっくりと立ち上がった。
そしてそれ以上何も言わないダリオンさんに向かって頭を下げた。
「すみません。僕がロイです。食堂で働く時に貴族だって言えなくて、髪の色を変えて、ちょっとそばかすをちらして、ロイっていう名前で働いていました」
僕がそう言うとダリオンさんは「そうなんだ」と小さく言った。
「僕は辺境の小さな領の三男で、もうすぐ成人だから、いつまでも家にいるのは心苦しくて、その為に資金を稼いでいました。ロイだけど、本当にロイではなかったから。だから…………すみませんでした」
「………………」
「僕、誰ともお付き合いするつもりはなくて、答えられるのはごめんなさいだけだったから。逃げるような、無視するような形にしか出来なくて、ご、ごめんなさい」
どうしていいのか分からずに僕はもう一度頭を下げた。
ああ、どうしよう。どうしたらいいんだろう。これってやっぱり騙した事になるのかな。でも連れ攫われたからおあいこ?
いや、そうじゃなくて。ええっとどうしたらいいの?
「あの……」
「いや、俺も悪かった。いつまでも待つって言ったのにこんな事をして。言わなきゃよかったって思ったりもしたんだ。そうすれば避けられるような事にはならなかったって。自分でもそれが思っていた以上に辛くて、何とか話が出来ないかって思っていた所に辞めるって聞こえてきて、そんなに嫌なのかって……」
「嫌とかではなく、その、あの、ごめんなさい。でも僕、本当にダリオンさんだけじゃなくて、誰とも付き合うつもり余裕がなくて、とにかく自分の事で精いっぱいだったから。ごめんなさい。こんな事をさせてしまってごめんなさい」
何度も何度も謝った。
フィル、フィル、どうしよう。僕は真面目な人を騙して傷つけてしまったみたいだ。騙すつもりはなくても結果的にそうなってしまったよ。
「あの、今日の事誰にも言いません。ダリオンさんも誰にも言わないで下さい。そうしたらなかった事になりますよね。僕そっと店に戻りますから。だから。本当にすみませんでした」
「君は……」
「本当にごめんなさい。騙すような事になって、無視するような事になってごめんなさい。き、傷つけてごめんなさい。顔色が悪くなって気になっていたんです」
そう言うとダリオンさんは驚いたような顔をして、次にクシャリと顔を歪めた。
「君は……」
「はい」
「俺は君をいきなり転移で攫ったんだよ? そんな奴に頭を下げたらダメだ。そんな事をしていたら付け込まれてしまうよ」
そう言ってダリウスさんはそっと僕を抱きしめてきた。ええええええ! どどどどういう事!?
「ま、待って、僕ロイじゃないです! いや、ロイだけど、ロイじゃないですよ! 間違えないで」
「うん。そうだね」
「ダリ、ダリオンさん!」
「離れろ!!」
その瞬間聞こえてきた声に、僕は思わず身体を震わせた。だって、だってこの声は。
「そいつから離れろ!」
「フィ……」
そこには確かにフィルがいた。剣を構えて、見た事がないような怖い顔でこちらを睨んでいる。
「ナイトの登場か……」
呟くようにそう言ってダリオンさんは僕の事を離した。
「ほら、お行き。ごめんね。ありがとう。ロイ」
「あ……」
「サ、ロイ! こっちにこい!」
言われてそのままフィルの方に行くと、フィルはそのまま僕の手を掴んで、引っ張って、背中に隠した。
「ま、待って! 待って!フィ……っ……えっと、待って!間違いなの、間違いなんだよ!」
「お前は何を言っているんだ?」
フィルが信じられないって顔で僕を見た。
「あの、あのね、とにかく間違いなの、だからなかった事になるの、それでいいの!」
「何を言っているのか分かっているのか!? 連れ攫われたんだぞ!」
「だって! 僕も騙したもの! しかもだんまりをして無視して傷つけて追い詰めた! だからおあいこなの! それでいいの! ごめんね、さよなら、ダリオンさん。約束してね。おあいこだから、なかった事にしてね」
そう言うとダリオンさんが悲しそうな顔をして首を横に振った。
「ありがとう。でも、なかった事にすると、私がロイという青年に恋をした事もなくなってしまうから。だからなかった事にはできないよ。ありがとう。君に、会えて良かったよ」
「ま、待って! だって、ロイは、だって! それに僕はどこにも怪我をしていないよ!」
「それでも、私がロイを攫った事は事実だ。さようなら。明後日は店には行かれないからこれでお別れだ。もう行ってくれ」
そう言ってダリオンさんは背を向けて、消えた。
「どうしよう。フィル、どうしよう」
「……とにかく、帰るぞ」
フィルはそう言って転移をした。
着いたのはフィルの部屋だった。
「悪いな俺はまだ転移の魔法を取得できていないんだ。だから簡易の魔法陣を持っている。特定の場所にしか転移できない」
「え、じゃあ、どうして……」
あの場所に転移をすることが出来たのか。
そう訊ねようとしたら、手を持たれた。
「この腕輪でお前の位置が判る」
「へ?」
これは学園に来る時に父様が僕にくれたものだ。大事なお守りだからいつもつけていなさいと言われていた。絶対に外してはいけないよと。
「勘弁してくれ、サミー。生きた心地がしなかった」
「ごめん。でもフィル。どうして、僕が転移で攫われた事が判ったの? これってそんな事まで分かっちゃうの?」
すると目の前のフィルの顔がなぜか赤く染まった。
「居たからだ」
「はぇ?」
「何だか執着されているみたいで心配だったから、話を聞いてからはお前の行く日はあそこに行っていたんだ!」
まさか、フィルがそんな事をしてくれていたなんて思ってもみなかった。
「ありがとう」
「……おう」
「フィルが来てくれて嬉しかった」
「そうかよ」
「うん。でも……」
「でも?」
「ダリオンさん、どうなるんだろう? まさか死んじゃったりしないよね」
「さぁな。とりあえず、お前は店にきちんと話をしにいけ。多分大騒ぎになっているだろうからな」
「うん判った」
「俺も行く。外で待っているから」
「うん。ありがと」
店は大騒ぎで、女将さんとマルクには抱きつかれて泣かれた。
僕は何でもなかったと、何度も言った。
すでに町の衛兵に届けられていた為に、僕は必死に行き違いだったと、怪我もなく何もされていない、間違いだったのだと何度も何度も説明をした。相手の人は良く分からないけれど、こうして無事に戻っているのでどうにか穏便に済ませてほしい事。罰などは与えないでほしい事を繰り返した。
女将さんには申し訳なかったけれど騒がせた事もあって、この日を最後にしてもらった。
またご飯を食べに来ますと言ったら、泣きながら「待っているよ」と言って、半分も働いていないのに一日分の給金と沢山のお土産をもらってしまった。
こうして、僕のアルバイトは終了した。
これからは官吏の試験と卒業のレポートの作成に集中する。
10月の中頃に、フィルがダリウスさんが自主的に第二騎士団を辞めようとしたけれど、被害者が居らず、また、町の衛兵からの報告でおそらくそれと思われる被害者が被害を受けていないし罰を与えないでほしいと嘆願をしていた為、家柄の事もあり、一週間の自宅謹慎のみとなった事を教えてくれた。
「いいのかどうなのか分からないけど、良かったな」
「うん。ありがと」
一緒に夕食を食べながら僕は小さく頷いた。
思い出すのはまっすぎな瞳。
胸の中に苦い気持ちが込み上げて、泣きそうなった僕の髪をフィルはガシャガシャと乱暴にかき混ぜる。
「泣くな馬鹿、集めていた幸せが逃げるぞ」
「うん……」
そんなつもりはなかったのに、人を傷つけてしまったという事がとても、とても切なくて、悲しくて、僕の中に小さな小さな傷が残った。そして、この気持ちを忘れないようにしようと思った。
どこ? ここ、森? あの町の近くに森みたいな所なんてあったかな。
金髪だったけれど、僕の手を掴んだのは確かに黒髪の騎士のダリオンさんだった。
ダリオンさんも転移が出来たのかな。
話がしたかったのに僕がだんまりを決め込んでいたからこんな風に強引な事をしたのかな。
そんな事を考えていると……
「君は誰?」
頭の上から降ってきたような声に、僕は慌てて顔をあげた。
しゃがみ込んでいた僕を見降ろしていたのは間違いなくダリオンさんだった。
「あ……」
どうしよう。何て言おう。僕がロイだったって言ったら信じてくれるかな。っていうか僕は今ロイじゃないの? 魔法が解けちゃっているのかな。
「元の姿に戻したら、なぜか一緒にいた君の姿も変わってしまったんだ」
ああ、そういう事か。
僕はゆっくりと立ち上がった。
そしてそれ以上何も言わないダリオンさんに向かって頭を下げた。
「すみません。僕がロイです。食堂で働く時に貴族だって言えなくて、髪の色を変えて、ちょっとそばかすをちらして、ロイっていう名前で働いていました」
僕がそう言うとダリオンさんは「そうなんだ」と小さく言った。
「僕は辺境の小さな領の三男で、もうすぐ成人だから、いつまでも家にいるのは心苦しくて、その為に資金を稼いでいました。ロイだけど、本当にロイではなかったから。だから…………すみませんでした」
「………………」
「僕、誰ともお付き合いするつもりはなくて、答えられるのはごめんなさいだけだったから。逃げるような、無視するような形にしか出来なくて、ご、ごめんなさい」
どうしていいのか分からずに僕はもう一度頭を下げた。
ああ、どうしよう。どうしたらいいんだろう。これってやっぱり騙した事になるのかな。でも連れ攫われたからおあいこ?
いや、そうじゃなくて。ええっとどうしたらいいの?
「あの……」
「いや、俺も悪かった。いつまでも待つって言ったのにこんな事をして。言わなきゃよかったって思ったりもしたんだ。そうすれば避けられるような事にはならなかったって。自分でもそれが思っていた以上に辛くて、何とか話が出来ないかって思っていた所に辞めるって聞こえてきて、そんなに嫌なのかって……」
「嫌とかではなく、その、あの、ごめんなさい。でも僕、本当にダリオンさんだけじゃなくて、誰とも付き合うつもり余裕がなくて、とにかく自分の事で精いっぱいだったから。ごめんなさい。こんな事をさせてしまってごめんなさい」
何度も何度も謝った。
フィル、フィル、どうしよう。僕は真面目な人を騙して傷つけてしまったみたいだ。騙すつもりはなくても結果的にそうなってしまったよ。
「あの、今日の事誰にも言いません。ダリオンさんも誰にも言わないで下さい。そうしたらなかった事になりますよね。僕そっと店に戻りますから。だから。本当にすみませんでした」
「君は……」
「本当にごめんなさい。騙すような事になって、無視するような事になってごめんなさい。き、傷つけてごめんなさい。顔色が悪くなって気になっていたんです」
そう言うとダリオンさんは驚いたような顔をして、次にクシャリと顔を歪めた。
「君は……」
「はい」
「俺は君をいきなり転移で攫ったんだよ? そんな奴に頭を下げたらダメだ。そんな事をしていたら付け込まれてしまうよ」
そう言ってダリウスさんはそっと僕を抱きしめてきた。ええええええ! どどどどういう事!?
「ま、待って、僕ロイじゃないです! いや、ロイだけど、ロイじゃないですよ! 間違えないで」
「うん。そうだね」
「ダリ、ダリオンさん!」
「離れろ!!」
その瞬間聞こえてきた声に、僕は思わず身体を震わせた。だって、だってこの声は。
「そいつから離れろ!」
「フィ……」
そこには確かにフィルがいた。剣を構えて、見た事がないような怖い顔でこちらを睨んでいる。
「ナイトの登場か……」
呟くようにそう言ってダリオンさんは僕の事を離した。
「ほら、お行き。ごめんね。ありがとう。ロイ」
「あ……」
「サ、ロイ! こっちにこい!」
言われてそのままフィルの方に行くと、フィルはそのまま僕の手を掴んで、引っ張って、背中に隠した。
「ま、待って! 待って!フィ……っ……えっと、待って!間違いなの、間違いなんだよ!」
「お前は何を言っているんだ?」
フィルが信じられないって顔で僕を見た。
「あの、あのね、とにかく間違いなの、だからなかった事になるの、それでいいの!」
「何を言っているのか分かっているのか!? 連れ攫われたんだぞ!」
「だって! 僕も騙したもの! しかもだんまりをして無視して傷つけて追い詰めた! だからおあいこなの! それでいいの! ごめんね、さよなら、ダリオンさん。約束してね。おあいこだから、なかった事にしてね」
そう言うとダリオンさんが悲しそうな顔をして首を横に振った。
「ありがとう。でも、なかった事にすると、私がロイという青年に恋をした事もなくなってしまうから。だからなかった事にはできないよ。ありがとう。君に、会えて良かったよ」
「ま、待って! だって、ロイは、だって! それに僕はどこにも怪我をしていないよ!」
「それでも、私がロイを攫った事は事実だ。さようなら。明後日は店には行かれないからこれでお別れだ。もう行ってくれ」
そう言ってダリオンさんは背を向けて、消えた。
「どうしよう。フィル、どうしよう」
「……とにかく、帰るぞ」
フィルはそう言って転移をした。
着いたのはフィルの部屋だった。
「悪いな俺はまだ転移の魔法を取得できていないんだ。だから簡易の魔法陣を持っている。特定の場所にしか転移できない」
「え、じゃあ、どうして……」
あの場所に転移をすることが出来たのか。
そう訊ねようとしたら、手を持たれた。
「この腕輪でお前の位置が判る」
「へ?」
これは学園に来る時に父様が僕にくれたものだ。大事なお守りだからいつもつけていなさいと言われていた。絶対に外してはいけないよと。
「勘弁してくれ、サミー。生きた心地がしなかった」
「ごめん。でもフィル。どうして、僕が転移で攫われた事が判ったの? これってそんな事まで分かっちゃうの?」
すると目の前のフィルの顔がなぜか赤く染まった。
「居たからだ」
「はぇ?」
「何だか執着されているみたいで心配だったから、話を聞いてからはお前の行く日はあそこに行っていたんだ!」
まさか、フィルがそんな事をしてくれていたなんて思ってもみなかった。
「ありがとう」
「……おう」
「フィルが来てくれて嬉しかった」
「そうかよ」
「うん。でも……」
「でも?」
「ダリオンさん、どうなるんだろう? まさか死んじゃったりしないよね」
「さぁな。とりあえず、お前は店にきちんと話をしにいけ。多分大騒ぎになっているだろうからな」
「うん判った」
「俺も行く。外で待っているから」
「うん。ありがと」
店は大騒ぎで、女将さんとマルクには抱きつかれて泣かれた。
僕は何でもなかったと、何度も言った。
すでに町の衛兵に届けられていた為に、僕は必死に行き違いだったと、怪我もなく何もされていない、間違いだったのだと何度も何度も説明をした。相手の人は良く分からないけれど、こうして無事に戻っているのでどうにか穏便に済ませてほしい事。罰などは与えないでほしい事を繰り返した。
女将さんには申し訳なかったけれど騒がせた事もあって、この日を最後にしてもらった。
またご飯を食べに来ますと言ったら、泣きながら「待っているよ」と言って、半分も働いていないのに一日分の給金と沢山のお土産をもらってしまった。
こうして、僕のアルバイトは終了した。
これからは官吏の試験と卒業のレポートの作成に集中する。
10月の中頃に、フィルがダリウスさんが自主的に第二騎士団を辞めようとしたけれど、被害者が居らず、また、町の衛兵からの報告でおそらくそれと思われる被害者が被害を受けていないし罰を与えないでほしいと嘆願をしていた為、家柄の事もあり、一週間の自宅謹慎のみとなった事を教えてくれた。
「いいのかどうなのか分からないけど、良かったな」
「うん。ありがと」
一緒に夕食を食べながら僕は小さく頷いた。
思い出すのはまっすぎな瞳。
胸の中に苦い気持ちが込み上げて、泣きそうなった僕の髪をフィルはガシャガシャと乱暴にかき混ぜる。
「泣くな馬鹿、集めていた幸せが逃げるぞ」
「うん……」
そんなつもりはなかったのに、人を傷つけてしまったという事がとても、とても切なくて、悲しくて、僕の中に小さな小さな傷が残った。そして、この気持ちを忘れないようにしようと思った。
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