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10 普通の転生者、人たらしと言われる
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「ロイ、また来てるよ」
マルクにそう言われてそちらを見ると確かに黒髪の男がいた。
でも帽子をかぶったままだから顔が良く見えないんだよね。食事をするのに帽子をかぶったままっていうのはさ、本当は行儀が悪いと思うけど、人には人それぞれの理由ってものがあるじゃない?
「う~ん。言われると気になるから言わないでよ」
「ええ⁉ そういうものなの? 普通は誰なのかなとか、気があるのかなとか、または気を付けようとかそっちの方になるんじゃないの?」
「気を付けるって言っても何を? 大体僕みたいなのに何かするような人もいないでしょ。 ふつーだし、お金は無さそうだし」
「ロイ……少し自分の事を見直した方がいいよ」
「ええ? あ、ほら、テーブル空いたよ。片付けてくるね」
僕は空いたテーブルを片付けに行った。そしてかかったオーダーに返事を返した途端黒髪の男から声がかかった。
「エールとグライン鳥の焼き物を」
「あ、はい!グライン鳥今日のおススメですよ。塩にしますか? 甘辛にしますか?」
「……君のおすすめは?」
「う~ん。どっちも美味しいけど。甘辛の方がこってり目かな」
「じゃあそっち」
「は~い。5番、エールと甘辛のグライン!」
ほらね。全然大丈夫んじゃない。普通の人だよ、もうマルクったら。
「ロイ! 2番 炒めもの上がったよ」
「は~い」
何だか今日はいきなり付き合ってほしいとか言われたり、フィルの寿命を縮めて叱られたり、ゴタゴタしちゃったけど、食堂が混む前に食べさせてもらった賄いのご飯は美味しかったし、マルクが怪しいって言っていたお客様は普通の人だったし、良かった。
きっとこういうのを終わりよければ全て良しっていうんだよね。
どこで聞いた言葉だか今一つ分からないけど、なんか合っている気がするからいいか。
「ロイ!こっちには塩のグライン鳥!」
「は~い、ありがとうございます!」
「こっちは根菜とホーンラビットな」
「は~い!1番に塩のグライン、7番に根菜とホーンラビット炒め」
「はいよ~!」
いつもと変わらない食堂の風景。
よく食べ、よく飲む男達の間を細身のロイがちょろちょろと忙しなく動くのはすでにこの食堂の名物の一つだ。
「なぁ、ロイ。お前もうすぐ成人するって本当なのか?」
先程エールを注文した男がそう訊ねてきた。
「うん、もうすぐ」
「その後の予定は決まっているのか?」
隣にいた男がすぐに口を開いた。
「うん。とりあえずね。なりたいものがあるから稼いでいるんだ」
「ロイ! 甘辛のグライン上がったよ! ちょいとあんたたち、うちの大事な従業員にコナかけるようなような事をするなら出入り禁止にするよ」
「そんなつもりはないよ! 参ったな。ロイ、悪かったな」
「いいえ~。はい、甘辛のグライン鳥お待たせしました!」
ニッコリと笑って皿を置くと、黒髪の男は「ああ、ありがとう」と低い声で言って、そしてすぐに「あんたは気を付けた方がいい」と言った。
「は?」
「笑うのは少し減らしてもう少し不愛想にした方がいい」
「……えぇぇ」
接客業で不愛想????
「ロイ! エール2つだ!」
駆けられた声に僕は「は~い!」と振り返った。
ちょっと待って、えっと、何?
配膳口の近くにいたマルクの隣に並ぶとマルクが「どうしたの?」と訊いてきた。
「え、あの、気を付けた方がいいって言われて。もう少し無愛想にしろって」
呆然としたようにそう言うとマルクは目を大きく見開いて、プッと吹き出した。
「え? なに?」
今のどこに笑う要素があったの?
「ふふふふ、楽しい~、もう、ロイみたいなのを無自覚系の人たらしって言うんだよ」
コソコソと耳元でそう言われてもっと訳が分からなくなった。
それからの僕はどんな顔をしていいのか分からなくなってしまって、何だかものすごく顔が疲れてしまった。
いつの間にか黒髪の人はいなくなっていた。
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マルクにそう言われてそちらを見ると確かに黒髪の男がいた。
でも帽子をかぶったままだから顔が良く見えないんだよね。食事をするのに帽子をかぶったままっていうのはさ、本当は行儀が悪いと思うけど、人には人それぞれの理由ってものがあるじゃない?
「う~ん。言われると気になるから言わないでよ」
「ええ⁉ そういうものなの? 普通は誰なのかなとか、気があるのかなとか、または気を付けようとかそっちの方になるんじゃないの?」
「気を付けるって言っても何を? 大体僕みたいなのに何かするような人もいないでしょ。 ふつーだし、お金は無さそうだし」
「ロイ……少し自分の事を見直した方がいいよ」
「ええ? あ、ほら、テーブル空いたよ。片付けてくるね」
僕は空いたテーブルを片付けに行った。そしてかかったオーダーに返事を返した途端黒髪の男から声がかかった。
「エールとグライン鳥の焼き物を」
「あ、はい!グライン鳥今日のおススメですよ。塩にしますか? 甘辛にしますか?」
「……君のおすすめは?」
「う~ん。どっちも美味しいけど。甘辛の方がこってり目かな」
「じゃあそっち」
「は~い。5番、エールと甘辛のグライン!」
ほらね。全然大丈夫んじゃない。普通の人だよ、もうマルクったら。
「ロイ! 2番 炒めもの上がったよ」
「は~い」
何だか今日はいきなり付き合ってほしいとか言われたり、フィルの寿命を縮めて叱られたり、ゴタゴタしちゃったけど、食堂が混む前に食べさせてもらった賄いのご飯は美味しかったし、マルクが怪しいって言っていたお客様は普通の人だったし、良かった。
きっとこういうのを終わりよければ全て良しっていうんだよね。
どこで聞いた言葉だか今一つ分からないけど、なんか合っている気がするからいいか。
「ロイ!こっちには塩のグライン鳥!」
「は~い、ありがとうございます!」
「こっちは根菜とホーンラビットな」
「は~い!1番に塩のグライン、7番に根菜とホーンラビット炒め」
「はいよ~!」
いつもと変わらない食堂の風景。
よく食べ、よく飲む男達の間を細身のロイがちょろちょろと忙しなく動くのはすでにこの食堂の名物の一つだ。
「なぁ、ロイ。お前もうすぐ成人するって本当なのか?」
先程エールを注文した男がそう訊ねてきた。
「うん、もうすぐ」
「その後の予定は決まっているのか?」
隣にいた男がすぐに口を開いた。
「うん。とりあえずね。なりたいものがあるから稼いでいるんだ」
「ロイ! 甘辛のグライン上がったよ! ちょいとあんたたち、うちの大事な従業員にコナかけるようなような事をするなら出入り禁止にするよ」
「そんなつもりはないよ! 参ったな。ロイ、悪かったな」
「いいえ~。はい、甘辛のグライン鳥お待たせしました!」
ニッコリと笑って皿を置くと、黒髪の男は「ああ、ありがとう」と低い声で言って、そしてすぐに「あんたは気を付けた方がいい」と言った。
「は?」
「笑うのは少し減らしてもう少し不愛想にした方がいい」
「……えぇぇ」
接客業で不愛想????
「ロイ! エール2つだ!」
駆けられた声に僕は「は~い!」と振り返った。
ちょっと待って、えっと、何?
配膳口の近くにいたマルクの隣に並ぶとマルクが「どうしたの?」と訊いてきた。
「え、あの、気を付けた方がいいって言われて。もう少し無愛想にしろって」
呆然としたようにそう言うとマルクは目を大きく見開いて、プッと吹き出した。
「え? なに?」
今のどこに笑う要素があったの?
「ふふふふ、楽しい~、もう、ロイみたいなのを無自覚系の人たらしって言うんだよ」
コソコソと耳元でそう言われてもっと訳が分からなくなった。
それからの僕はどんな顔をしていいのか分からなくなってしまって、何だかものすごく顔が疲れてしまった。
いつの間にか黒髪の人はいなくなっていた。
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