上 下
3 / 54

3 普通の転生者、隣人に声をかけられる

しおりを挟む
「あれ、サミュエル、珍しいね。一人?」

 声をかけてきたのは学生寮の隣部屋で同じクラスのオーズリー伯爵子息のブラッドだった。伯爵家の嫡男だけど気さくで話しやすい。

「うん。フィルが剣の練習を見せてくれるって言ったけど、見ても強くならないからやめたんだ」
「ははは、どうせ何か言い合いでもしたんだろう? 相変わらず仲がいいね」
「そんなんじゃないよ。とりあえず、剣よりも座学を優先した方がいいのかなって思っただけ」

 僕がそう言うとブラッドは「じゃあ、そういう事にしておくよ」と言った。

「あ、家からお菓子が沢山届いたんだ。食べきれないからまたもらってくれる?」
「わぁ! ブラッドの家のお菓子って美味しいから大好き!」
「そう言って貰えて嬉しいよ。じゃあ後で部屋に届けるね」
「ありがとう」
「あんまり喧嘩をしたら駄目だよ。それから一人歩きも気を付けて」

 そんな事を言うブラッドに「貧乏子爵家の三男に何かするような奴もいないよ」とだけ言って僕は肩を竦めた。

「それはどうかな~。じゃあ、ちょっとこれを提出してから行くから、後で。サミーはもうこの前のレポートは提出したんだろう?」
「うん。一昨日出した」
「さすが、教授の一番弟子候補だ。でも本当に官吏の試験を受けるの? 教授ががっかりするよ」
「うん。ダメかもしれないけど受けてみる。せっかく受験の資格はもらえたし、受かれば寄宿舎に住む事が出来るから」

 そう。小さな子爵家には王都にタウンハウスを持つなんて夢のまた夢だ。それに例えあったとしても、それを三男の僕が使うのはやっぱり難しい。

「寄宿舎ねぇ。まぁいいや。じゃあ後で」

 ブラッドはそう言って人好きのする笑みを浮かべて校舎の方に歩いて行った。



 僕は別に家族の仲が悪いわけではない。むしろ少し年が離れて生まれたせいか、家族全員から甘やかされて育ったと思う。卒業後もやりたい事が見つかるまで領地の手伝いをしながら部屋住みをしていて構わないとも言われている。でもさ、そう言うわけにはいかないじゃない?

 だって、領地の屋敷には両親と一番上の兄とそのお嫁さんと、そして2歳になる長男が住んでいるんだ。
 そんなに大きくはない屋敷だし、姉と次男の兄はすでに家を出ている。それなのに学校を卒業した三男の自分がのこのこと帰って、手伝いをしながら住み続けるって、さすがにちょっと出来ないよ。

 だから僕に向いていそうな文官の道を選んだ。
 勿論受かるとは限らないけれど、それでも前世の知識がある分ちょっとくらいは有利だと思っている。
 何より王都に一人で暮らす事が出来る。それってちょっとワクワクしない?

 大変だとは思うけど、文字書きとか計算とか、文書を読むのも得意だ。好きな仕事をしながら自分の好きな生活をして、何か楽しい事を一つでも多く見つけて幸せになる。幸せになるって事が僕にとって何を指しているのかはまだ分からないけれど、それでも何の目標もなくただ毎日を過ごすよりは「幸せになろう!」って思いながら生きている方が何となく建設的な気がするんだ。
 でもきっとそんなものはフィルにとっては取るに足りないもので、つまらないものなんだろうな。

「だけどさ、幸せって言うのは人それぞれに違うから、だから僕は、僕の幸せを見つければいいんだと思うんだよね」

 そう。やってみなきゃ分からない。幸せをかき集めている姿を笑われたっていいんだ。
 それにさ、このまま何もかも普通に終わるよりも、ある意味二度目の人生だから、ちょっとくらいは夢を見たっていいじゃない?

「家族計画じゃないし、もう!」

 ふと先ほど言われた事を思い出して再びムッとすると、僕は自分の部屋のドアを開けた。


---------------
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
────妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの高校一年生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の主人公への好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

罪人の僕にはあなたの愛を受ける資格なんてありません。

にゃーつ
BL
真っ白な病室。 まるで絵画のように美しい君はこんな色のない世界に身を置いて、何年も孤独に生きてきたんだね。 4月から研修医として国内でも有数の大病院である国本総合病院に配属された柏木諒は担当となった患者のもとへと足を運ぶ。 国の要人や著名人も多く通院するこの病院には特別室と呼ばれる部屋がいくつかあり、特別なキーカードを持っていないとそのフロアには入ることすらできない。そんな特別室の一室に入院しているのが諒の担当することになった国本奏多だった。 看護師にでも誰にでも笑顔で穏やかで優しい。そんな奏多はスタッフからの評判もよく、諒は楽な患者でラッキーだと初めは思う。担当医師から彼には気を遣ってあげてほしいと言われていたが、この青年のどこに気を遣う要素があるのかと疑問しかない。 だが、接していくうちに違和感が生まれだんだんと大きくなる。彼が異常なのだと知るのに長い時間はかからなかった。 研修医×病弱な大病院の息子

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

物語なんかじゃない

mahiro
BL
あの日、俺は知った。 俺は彼等に良いように使われ、用が済んだら捨てられる存在であると。 それから数百年後。 俺は転生し、ひとり旅に出ていた。 あてもなくただ、村を点々とする毎日であったのだが、とある人物に遭遇しその日々が変わることとなり………?

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

処理中です...