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第4章

アトリエの部屋

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 十分ほど歩いた先のマンションに私たちはたどり着いた。

「本当にいいの?」
「はい。まあ、この前まで自分が住んでた部屋なんでもし気になるなら全然断ってくれちゃっていいんですけど」

 そう言って案内されたのは今は使われていない空き部屋だ。

 数年前まで創くんのお婆さんが仕事場として利用していて、そのあとは彼が大学に通うためひとりで暮らしていた。三年生になってキャンパスが変わった今は実家に戻ってしまい、誰も使わなくなったこの部屋は売りに出そうか迷っていたそうだ。

「祖母が画家でアトリエに使ってたところなんでまだ絵とか色々残ってて、寝室以外物も大してないですけど」

 そんなタイミングで私が部屋を探しているという話を聞きつけ、貸してくれようとしている。


 一応見るだけでもと案内されたが、オートロック付きの一階の角部屋で間取りは1LDKと想像したよりも広かった。

 しかしつい最近まで彼が住んでいたはずだが、本当に寝泊まりするだけの部屋として使っていたようで寝室に置かれた家具以外閑散としている。テーブルやソファはおろかリビングとされるスペースには何も置かれていなかった。

「でもタダで住まわせてもらうなんて気が引けちゃうなあ」

 いざ内覧させてもらうとタダで借りるには十分すぎる場所で、創くんが住む前に一度綺麗にしたようで絵を描いていたとは思えないほど綺麗な部屋だった。

 一通り室内を見て回りながらポロッと本音が溢れる。

「いや、水道代とか光熱費は払ってくださいよ?」
「それはそうだけど」
「どうせ瀬川さんが住まなかったところで放置してた家なんで気にしないでください。あ、でも断りづらくて住むとかだったらやめてくださいね? 親切の押し売りをするつもりはないんで」

 はっきりと言われ私は苦笑いを浮かべる。正直悩ましいところだ。

 家賃がかからずこんなにちゃんとしたマンションに住めるなんて願ってもない話だけど、さすがに遠慮すべきではないかと思う自分もいる。

「そうだ。新しい仕事探すつもりだったんですよね? バイトの給料だけじゃ部屋借りるのも大変だろうし、それまでの繋ぎでもいいですよ?」

「え?」

「もったいないから貸すだけで〝住むなら二年契約だ〟なんて厳しいこと言わないですから。まずホテル暮らしとかムダ金なんでやめてください」

 結局、最後の一押しに負けた。

 部屋探しもしていなければ、ホテル暮らしは言う通りお金がかかる。この話は私にとってひとつも損のない、むしろ得しかない話で断る理由が見つからなかった。

 今回はひとまず、甘えさせてもらうことにした。
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