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第2章
抱える闇
しおりを挟む「はぁ、終わったあ」
駐車場に戻り車に乗り込んだ瞬間、解放されたように足を伸ばす。
「すみません全然喋れなくて」
「そ? 上手くやってたと思うけど」
そう言う千秋さんは早々に車のエンジンをかけて走り出す。
「でも本当に良かったんですか? あんなにあっさり帰ってきちゃって」
式典を含め、中にいたのは小一時間ほどだ。並んでいた食事にはほとんど手をつけることもなく、最後は仕事を終えたようにさっさと歩き出してしまい、私は慌てて追いかけた。
「いいんだよ、あれで充分」
走行中の窓の外を眺めながら、彼の言葉に視線を落とす。着ているドレスには少しだけ申し訳なさを残す。
もっと着てあげたかった。これから先この子を着てあげる場はないかと思うと、ずっとタンスの奥にしまわれたままなんてもったいない。
「せっかく行ったのに」
「あの人たちは仕事があるときにしか日本に帰ってこないんだ。だから、ここに連れてくるしかなかっただけで他に用はないから」
あの人たちと急に変わった言い方には、ピクリと反応する。その冷め切った表情は、さっきまで抱擁を交わしていた人と同一人物とは思えない。あまりの変わり様に目を丸くした。
「そんな言い方しなくても」
「十五の時。俺を家政婦に押し付けてあの人たちはドイツに行った。帰ってくるのは年に数回。今更母親ヅラされてもね」
初めて彼が心のうちを聞かせてくれた気がした。
驚く私をよそに、彼は自分の話に呆れたように鼻で笑う。
「三十七にもなって独り身だと安心できないからって早く結婚させようとしてくる。どうせ周りからチクチク言われて体裁が悪いだけのくせに」
両親と久しぶりに会って気持ちが解放されたのか、彼は珍しく饒舌だ。
隣にいてどんな言葉を返したらいいか分からなかった。
「でも晴日ちゃんには感謝だな。煩わしかったそういうことももう言われないで済むし、正直ホッとしてる」
彼は無理やり笑顔を作っていた。私は何も言えず引きつった笑顔で何度か頷く。
彼からは大きな孤独を感じた。
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