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 そろそろと真っ暗な廊下を歩く私達。時折、巡回中の兵士とすれ違うが全く気付かれなかった。

「ちなみにここってどこだと思う?」
「しらね」

 先頭を歩いていた百合がクルリと振り返り、聞いてくるが適当に歩いていた私が知るわけなかった。

 そこまで思ってふと嫌な予感にギギギと音がしそうになりながら百合の肩に手を置く。

「ねぇ、もしかして道に迷ったとか言わないよね?」
「んなわけないじゃない!」

 すかさず反論してきた百合にホッとしたその時の私をぶん殴りたい。

「だって迷ったかすら分からないんだから!」
「え? 今なんて?」
「だから、迷うってのは目的地の行き方が分からない状況を言うんでしょう? なら目的地すらないんだから迷ったとは言わないでしょ?」
「つまり?」
「ただ帰り道が分かんなくなっただけよ」

 フンっと澄まし顔でそう宣う百合にチョップをする。

「それを迷ったっていうんだよ。百合さん」
「痛いわよ」
「ごめんよ」

 ここの世界に来て百合がしっかり者に思えてきていたが、百合は百合だった。つまり、何かが抜けているのだ。ああ、そういえばこの世界に来る前も百合のおっちょこちょいのせいで偉い目に遭ったな……

「あ、ねぇ! 面白そうな部屋見つけたわよ」

 過去の回想に飛んでいた私は百合に袖を引っ張られて現実に戻った。百合が指差す先には何処か物々しい雰囲気で厳重に
守られている部屋。無言で頷き、早速行動した。

「「行くか!」」

 無表情で扉の前に立っている兵士たち。手には何も持っておらず、異世界に来てから日の浅い私でもこの兵士達は魔法特化型だという事を予想できた。

「どうやって行くの? ワンチャンバレる可能性があるわよ」
「百合、聖具は加護がかかってるんだよね? なら百合が持ってた睡眠薬、アレ鑑定させてくれない?」
「いいけど……」

 スッと差し出される睡眠薬。よく百合がピッキングの作業の邪魔にならないように仕込んでいる物だ。普段なら水に溶かすかどうかしなければならないのだが……

「やっぱり! 加護で投げつければ睡眠効果を発するって書いてある」
「何そのチート薬」

 こうして私達は睡眠薬を使用して兵士たちの壁を突破した。

「失礼しまーす」

 百合のピッキングで開けた扉に手をかける。途端にビービーという警戒音がイヤホンから発した。

「え⁉︎」
「どっちのイヤホン?」
「王様の方だ‼︎」

 どうやらこの扉、生体認証魔法が仕掛けてあったらしい。

『ん……』

「百合! "ピッキング"使って解けない⁉︎」

 王様が起きかける気配を感じて慌てて百合にお願いする。

「やってみる‼︎」

 ビービーと耳元でなる警告音。それに伴い王様の唸り声も大きくなって行く。

『五月蝿いぞ』

「っ⁉︎」

 遂に王様が起きてしまった。

 終わったーーーーーーー‼︎ バッドエンドの文字が脳内に浮かんでくる。

「柚李! 解けたわよ」
「え?」

 そんなバカな! そう思い、バッとイヤホンを確認してみれば、警告音は聞こえず王様の寝息だけがまたイヤホンから流れていた。どうやら本当のようだ。

「あー怖かった」
「加護があるからって舐めてかかったらいけなかったみたいね」

 今度こそ無効化した扉に触れ、部屋に入る。

「おおう。マジか」
「お宝ね」

 目の前にはキラキラした金銀財宝がたんまりあった。ついでに私達のではない聖具なんかもある。

「じゃあ、ここに転移結界を張っておきましょう」
「え?」
「転移結界」
「は?」
「大丈夫、バレないように細工しておいたから」

 得意げに見せてくるUSBメモリー。鑑定でみればそこには転移結界の術式が埋め込まれてあった。

「なんか弄ってたら魔法が読み込まれたのよ」

 そう言う百合に向かって私は抱きついた。

「凄い‼︎ ナイス百合! これで簡単に部屋との行き来が出来るね」
「でしょ‼︎」

 ふふっと得意げにピースする百合。

 しばらく、すごいすごいと喜び合っていた私達だが必死に目を逸らしていた問題に向き合わなければならない時が来た。

「で? どうやって帰るの?」
「えっと……⁇」

 じい~と見つめ合い、2人の考えが一致した事を感じ取る。

「「ま、なんとかなる!」」

 ここに第三者がいればなんの解決にも至っていないことに気づくだろう。だが、誰もいなかった。
 結局私達はあちこちの部屋に迷い込み、夜も明けようかというギリギリの時間まで王宮を彷徨っていたのだった。

 その過程で色んなお宝やら国の重要書類なんかを入手したのはまた別のお話。
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