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「あの~、逃してくれたりは?」
「ん~無理だねぇ~」
「デスヨネ~」

 パッカパッカと心地よい馬のリズム。そして何故か俵担ぎで抱えられ移動している私。

 どうしてこうなった⁉︎









 遡ること約2時間前ーー

 王宮から逃げ出した後、私はとりあえず元盗賊で牢仲間のユーリから教えてもらったユーリ専用のアジトに向かった。男装なので走っていても怪しまれることもないし、順調にいっていたのだ。

「しつれーしまーす……おお~‼︎」

 ギィ~っとたてつけの悪いドアをなんとか開けて中に入れば、本当に先程のボロボロの家なのかと疑いたくなるような綺麗な室内が私を出迎えてくれた。早速中に入り、ユーリに教えられた棚に向かう。

「コレを引くんだよね?」

『いいか。上から2番めの棚を引け。そしたら金貨やら銀貨、銅貨なんかが入ってるはずだ。服も今の男物の服はお前に合ってない。だから俺着ていた服があるはずだからそれを着ろ。なぁに、俺のアジトにあるやつは珍しく俺がまっとうに稼いだやつなんだ。どうか使ってやってくれ』

 ニヤリとしながらアジトを教えてくれ、しかも路銀や服まで用意してくれたユーリには感謝しかない。


 棚の引き出しを引いてみれば小振りな財布のような皮袋が1つとアジトに向かう途中ですれ違った男の人達が着るような服が入っていた。

 試しに皮袋を持ってみればズシリとした重みが手のひらに伝わってくる。

「本当にユーリには感謝しかないなぁ」

 急いで服を取り出し、着替える。最後に髪を纏めて束ね、上からカツラをかぶれば完成‼︎

 変装を終え、ヒョイっと鏡をみれば自分で言うのもなんだけど美少年がいた。そして仕上げに帽子を深くかぶれば……!

「ワオ! コレなら絶対バレない‼︎」

 ナルシじゃないよ? 違うからね‼︎

「さぁてと、敵の敵は味方だって言うし? とりあえずラスボスさんに会いに行きましょう!」

 さっき見つかったスパイさんはルギア帝国という国のスパイで、勿論この王国を狙っている敵ではあるのだがラスボスさんがいる国ではない。しかも……

「あっちはさっき問題起こしたばっかだし行きたくない……」

 というのは冗談で、小説にも書いてあったけれどラスボスさんと私は従兄弟同士。小説では助けを求める暇もなくラスボスさんが従兄弟の異変に気づいた時には全て終わってフレヤは天国に行ってしまっていた。だがしかし! 私はまだ肉体的にはピッチピチの十代の女の子! それならこの人生、楽しまないと損でしょう?

「そして、もう一つ重要なのが、このままいくと私は脱獄犯になってしまうということです(←※もう既になってる)‼︎ なので、助けを求めていざ出発~‼︎」

 そう言って元気に拳を突き上げ順調に滑り出したかのように見えた旅だったはずなのだが……

「なぁんでこっち来るんだよぉぉぉぉぉぉ⁉︎」
「そりゃ君には借りがあるからねぇ? 君のせいでオレがスパイだってバレちゃったじゃないかぁ~」
「キェェェェ! 悪霊退散! 悪霊退散‼︎ だーかーらー! 俺は別人だって言ってるだろぉぉぉぉぉぉ⁉︎」
「いやいや、そんなの分かるから。髪の色と服が違うだけじゃん~」
「ノオォォォォォォォォォォ‼︎」

 先程振り切ったはずのスパイさんに見つかり、驚かせた馬に見つかり、追いかけられていた。そして、意味不明な事に、スパイさんの後ろには王子直属の騎士達。その後ろには怪しいフード集団……んん? あれ? あの集団って小説の種明かしでユリア直属の影の組織って書いてあった気がするぞ……

「おい、ちょっと聞きたいんだが……」
「ん? なぁに? オレに捕まることにしたの?」
「違う! お前の後ろにいる集団はなんだ‼︎」
「えー? アレはね~、オレってスパイってバレたじゃん? そんでぇ、1回捕まったんだよねぇ~。本当は簡単に逃れたんだけど、それじゃあ面白くないでしょ? どうしよっかな~って思ってたら王子がキミの場所知ってるかって聞いてきて、その後にユリア? って子もキミの居場所知ってるかって聞いてきたから~『うん!』って答えたの~んでぇ、オレが案内してあげるって言って今コレ」

 は⁉︎

 王子ならびにユリアちゃんよ、犯罪者をそんな簡単に外に出したらいけないだろう……
 しかもスパイよ「今コレ」ってなんだよ! 今コレって⁉︎ 

「だ~か~ら~! 俺はべつじん・・・・だっつってんだろぉがぁぁぁ‼︎」
「アザ、見せて?」
「げぇ⁉︎ な、な、ナンノコトカワカリマセン(訳:何のことか分かりません)」
「ブフッ! 声ちっちゃ‼︎ そんなの有るって言ってるのとおんなじだよ~?」
「うるさい! えーえー、ありますよありますよ‼︎ でもね、俺は捕まらねぇ‼︎」
「うんうん分かるよぉ~捕まりたくないよねぇ。でもぉ、はい、確保‼︎ オレの方に寄りすぎちゃったねぇ」

 ああああああああ‼︎ しまった! 話聞くために近寄ったのが裏目に‼︎ 







 ってなわけで最初の場面に戻る。

「お腹痛いんですけど」
「ん~? オレの愛馬驚かせたお仕置き~」

 なぁーにが「お仕置き~」だ! こっちは痛くないように腹筋必死に固めて死にそうなんだぞ⁉︎

 ぶーぶーと心の中で文句垂れ垂れ、私は全く縁のないルギア帝国に運ばれて行くこととなったのだった。その間に何度かフレヤが逃亡を企てスパイさんにお仕置きと言う名の俵担ぎで馬に乗らされたのであった。

○○○

【番外編Ⅰ~逃亡を企てたフレヤとスパイさんのやりとり~】

「ねぇ、これで何回目だと思う~?」

 6回目です。

 いつものごとく脱走に失敗して俵担ぎで馬に揺られる私。今回こそはイケると思ったんだよ‼︎ だって秘密兵器である睡眠薬(※お守り代わりに看守がくれた)を盛ったんだよ? 何でそんなにピンピンしてるのさ‼︎

 そんな私をスパイさんは面白そうに見ながら種明かしてくれた。

「睡眠薬はねぇ、匂いでわかるんだよねぇ~。しかも、アレって定番のやつじゃん。後さ、しってる? 俵担ぎって結構重心とるの難しいから大変なんだよぉ? 腕も結構痛くなるんだからねぇ~?」

 看守ちゃーん! 敵の次元が違ったヨ。それからスパイさんよ。腕痛くなるなら担ぐなよ! フレヤは痩せたとはいえ体重は多分50キロはあるぞ⁉︎ 何でそんな軽々とかつげるんだ‼︎

「でもまぁ~膨れっ面のフレヤちゃんの顔が見れるからいいけどね~!」

 この人次から変態って呼ぼっかな……





【登場人物紹介】

フレヤ:記憶が戻る前はただの色素が珍しいデブ令嬢。記憶が戻って痩せてからは、プラチナブロンドに碧眼という珍しい色合いの絶世の美少女。
身長は約165センチのモデル体型

レオン:金髪碧眼の美男子。
身長は約175センチほど。

ユリア:ストロベリーブロンドに青紫色の瞳を持つあり得ない色素の可愛い系美少女。
身長は約155センチの幼児体型

スパイさん:茶髪に角度によっては金色に見えなくもない茶色の目を持っているイケメン。
身長は約180センチの細マッチョ。

ラスボスさん:???
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