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「ふふんふーん♪ふふんふーん♪ふーふん♪」
今日の俺はご覧の通り、めちゃくちゃご機嫌である。

どれくらいかというと、自作の曲を鼻歌を奏でながら公爵家の廊下をスキップするぐらいご機嫌なのだ。

何故かって?ふふふ、良くぞ聞いてくれた!今日は!なんと!あのアラン様に剣術を見せてもらう約束をしているのだ!!


俺とアラン様の運命的な出会いから、半年が経過した。
あの日、俺の突然の「仲良くしてください」発言にアラン様は馬鹿にするでもなく、笑顔で承諾してくれた。
今では互いの家を頻繁に行き来きするぐらい仲良くなり、アラン様からカーチスと呼ばれる程の仲となっている。

因みに、俺もアランと呼びたかったのだが、尊みが溢れすぎて何度練習しても"様"を外す事が出来なかったので早々に諦めた。敬語も言わずもかな。

「ラファ、アランさま、まだかな?」
鼻歌をやめ、ふと屋敷の入り口が見える窓にへばりつく。

「先程前触れがありましたので、間もなくでお着きになるでしょう。」
「げんかんでおむかえします!!」
俺は待ちきれず、優雅な早歩きで玄関にむかった。

そして数分後、ついにメイドから馬車の到着の知らせがきた。逸る気持ちを落ち着かせ、優雅にご挨拶しようと扉が開くのを待っていたのだが…

「いらっしゃいませ!アラン様お待ちして…
へひゃぁぁぁぁぁぁ!!」

全俺が歓喜した。


目に飛び込んできたのは、腰から剣を下げ、騎士風な服を着た大変麗しいアラン様。

「お招き頂きありがとう。カーチス
出迎えまでしてくれてうれしいよ」
「あ、いや、あの!あの!アランさま!そ、そのお姿は!!」
「動きやすいようにと思って、着てきたんだ。
どうだろう?似合うかな?」
コテンとアラン様が首をかしげる。

「ひょわぁぁぁぁぉ!!」

言葉にならないとはこう言うことか!!
最早、似合う似合わないのレベル超えている!
推しだ!まさにサムエル様だ!!

つか、13かそこらで既に騎士服が似合うとかすごくない!?しかも、オプションで頭コテンまでついてくるとは!
はぁー!!アラン様に剣術見たいとか我儘言って良かった!!尊みがあふれて、最早拝むレベル!世界よありがとう!

「コホンっ。」
「はっ!!」
俺が、心の中で世界に感謝を伝えていると、
ラファがわざとらしい咳で俺を現実に引き戻した。
いけない。危うく、アラン様を放置するところだった。ラファ、ナイス!!

俺は改めてアラン様に向き直り、前のめりで全力で褒め称えた。
「めちゃくちゃ、似合っています!アランさま!とっても、とーってもすてきです!!!」

アラン様は、あまりの圧に一瞬目を丸くすると笑顔で答えた。

「ふふ、カーチスは相変わらずだね。
ありがとう。今日はカーチスのために着てきたから喜んでくれて嬉しいよ。」


…はい、皆様お気づきだろうか。
俺のほめほめ攻撃を笑顔で受け止めるアラン様。

あの日以降、会う度にいかにアラン様が素敵で素晴らしい存在かを伝え続けた結果、俺の言葉を少しづつではあるが受け入れてくれるようになってくれた。

「ぼくのために、ありがとうございます!!」
「ふふふ、どういたしまして。」
「へへへ」
「ふふふ」

騎士服の笑顔なアラン様。
マジ尊い。

「カーチスぼっちゃま」
呆れたような表情で、ラファが再び俺に声をかける。

おっと!こんなところでいちゃついてる場合ではない!!時間は有限なのだ!!

「アランさま!さっそくですが、アランさまのけんぎをみせていただいてもよろしいでしょうか!?」
「うん、大丈夫だよ。」
「では!では!なかにわにごあんないします!」
俺は優しく微笑むアラン様の手を引いて、
ゆっくりと歩き出した。

うちの中庭は若干森のようになっている。
果物や野菜、何かの木など統一性はなく、ざっくばらんに植えているため、アラン様の所の薔薇園に比べるとやや見劣りするが、田舎のばぁちゃん家みたいな感じでめちゃくちゃ落ち着く。一応、いきすぎないよう庭師が手入れはしている。

「空気が澄んでいて、気持ちがいいね。
木々が多いせいだろうか」
「まいなすいおんです!」
「?」
「アランさま!こちらに!」
俺はアラン様をガーデンテーブルに案内すると、用意した画材道具を広げた。

ふふふ、これで準備は万端である。
何か記録できないかと考えて、1番先に出てきたのが写生である!!
前世では、同人誌にも手を出していたから
少しだけ、自信はある!!アラン様の勇ましい姿をしっかり記録しておくのだ!!


「カーチスは普段から絵を描くの?」
「ときどきです!なので、いつでもアランさまのすがたをみれるよう、かいておこうとおもいまして」
「…何だか恥ずかしいな。」
「はっ!?もしかして、かかれるのはおいやですか???」

アラン様が嫌がるなら、直ぐ止める!!
無理強いよくない!

「大丈夫だよ?ちょっとだけ恥ずかしかっただけたがら。」
「かっ…かいてもいいですか?しあがったのはぼくのへやにかざるので、だれにもみせません。」
「うん。大丈夫。」
ややしょんぼりした顔でアラン様に伺うと
アラン様は優しい笑みで返してくれた。



アラン様の剣技は本当に素晴らしかった。

公爵家の騎士さんに模擬試合の相手をお願いしたのだが、互角までとはいかないもののアラン様も一歩も引けを取らない。

騎士さんの攻撃を軽やかにいなしたかと思えば、素早い反撃で攻めたてたりと、素人の俺でもめちゃくちゃ凄いのはわかった。
何より、闘うアラン様はとてもイキイキとしていて見てる俺の方が嬉しかった。

アラン様、本当に剣術が好きなんだなぁ。

この点は、サムエル様と違うところかもしれない。サムエル様は騎士団長だったが、元々孤児の出身で剣術を好きでやるというよりは、生きて食っていく為の手段としていた。
どっちかというと、サムエル様はあまり争い事を好まない描写が多かった気がする。
強いが上の他者からの過剰な期待が、サムエル様を悩ませそれを主人公が支えていくのだ。

「カーチス?大丈夫かい?」
「へっ?ふわぁあ!!」
考えに耽っていると、目の前にアラン様が立っていた。

「あれ?し、しあいは!」
「一区切りついたから終わりにさせて貰ったんだ。やっぱり公爵家の騎士は凄いね。
全然かなわなかったよ。」
「で、でも、アランさまもまけてなかったです!!すっごくかっこよかったです!!」
「ふふ。ありがとう。カーチスには、とても感謝してるんだ。公爵家の騎士にお手合わせ願うことなんて、そうそう出来ることじゃないから。」
「きにしないでください!!ぼくもアランさまのたたかうすがたをかけて、うれしいです!!」
「そう言えば、描かれてたんだった。」
アラン様は俺の発言に思い出したかのように、頬を染めた。
恥ずかしがるアラン様素敵です!!
「少し、見せて貰ってもいい?」
「はい!どうぞ!!こんしんのできです!!」

アラン様が見たいと言うならいくらでも!!
俺は躊躇うことなく、スケッチブックをアラン様に渡した。

「わぁ、本当に上手だね。…でも」
アラン様が一瞬悲しそうな表情を浮かべた。
「アランさま?」
「…ねぇカーチス。君が私の事を心から応援してくれるのは伝わっているよ?でも、時々思うんだ。君は私を見ているようで違う誰かをみているよね?」

アラン様の言葉に周りから音が消え、強く胸が鳴るのがわかる。

そうだよ。俺はアラン様を全力で応援してる。
なのに、何でそんな事を?

訳がわからないと言いたげな俺にアラン様はそっとスケッチブックを返した。

「ねぇ、カーチスこれは誰なんだろうか」

「だれ?だれってこれは、アランさまで…」
俺はスケッチブックに目を落とした。

そこに描かれているのは紛れもなく俺の推し
サムエル様であった。
「あっ…あの!これは…っ!!」

弁明をしようと慌ててアラン様に目をむけると、アラン様の瞳から一筋の涙が流れていた。








私の名前はアラン。
ムールベルト侯爵家の三男だ。

私の家族は母上、父上そして兄達2人の5人家族である。皆、侯爵家としての人格もさることながら文武両道に優れ、かつ容姿も美しい。
私の尊敬する方々である。

そんな素晴らしい家族の背中をみて、私も侯爵家として恥ずかしくない人間となるため、常に切磋琢磨し努力を続けてきた。

しかし、ただ一つどう足掻いても覆る事はない欠点が私にはあった。

それは、醜悪なこの容姿である。

幼い頃は屋敷の使用人や家族以外の人間に会うことはなかったので、自分が他人からどう見られているかなんて考えもせず過ごしていた。

私が自分の顔の評価をしっかりと認識したのは誕生日を迎え、初めてお披露のためのパーティーに参加した時だ。
沢山の招待客と拙いながら挨拶する中、そのうちの子供の1人が僕を見るな否や、顔を顰め大きな声で「みにくい!」と発した。

訳がわからなかった俺は、気が動転してしまい、そのまま気絶。その後母から世間一般における美醜の基準と対応について泣きながら聞かされた。

悔しかった。
知識や剣術であれば毎日努力すればある程度身につけることができる。
だが、流石に顔の造形など魔法を使用したって
どうにかできるものでもない。
名だたる侯爵家の者として、私は恥ずべき存在だと感じ、その日、母上に泣きながら謝った。

しかし、いくら泣き喚こうが私が醜いことは変わりない。せめて家族に…ムールベルトの名に傷がつかぬよう今まで以上に躍起になって自己研鑽に取り組んだ。


そうして13歳になった時。
私に転機が訪れた。

ある日母上が主催のお茶会が開催されることとなった。
母上は、長年の友人を招待したので話すのが楽しみとそれはもう嬉しそうに話していた。

相手は友人とは言え、公爵家の方々。
何でも、初めてお茶会にご子息を連れて行くとか。
私は失礼にならないよう、お茶会への欠席を提案したのだが、母上は悲しそうな顔で「あなたは私の自慢の息子よ。そんな事考えなくても良いの」と話してくれた。

母上はいつも私を大事に思ってくれている。
だからこそ、迷惑をかけることがないよう気をつけなければ。

私はより一層注意をして過ごそうと考えた。


お茶会が始まり、私は他の参加者の目に触れないよう離れて待機していた。
お茶会の会場である、我が家自慢の薔薇は招待客にも大好評で私も鼻高々だった。

暫くたってから、会場が湧きあがったのが感じ取れた。どうやら公爵家の方々が到着されたらしい。ざわめく方に目をやると、母上のご友人だと思われる美しい女性とその後ろに立っている小さな男児がみえた。

遠目ながら黒髪を確認し、きっと、綺麗な方なのだろうと沸き立っている理由に納得した。

その後も私はなるべく招待客に近づかないよう注意して薔薇の庭園を散歩していた。ふと目をやると可愛らしいハンカチが落ちているのに気づいた。

招待客の落とし物だろうか、だとしたら拾って使用人に預けなければ。そう思い、その付近にいる子供達から距離がある事を確認し、拾いあげた。

それがいけなかった。
醜い私に気づいた子供達は、一斉に私を取り囲み、怒りを露わにした。今は何を言っても聞き入れて貰えないだろう。騒ぎを起こすなんて以ての外だ。
私は何も言わず、子供達の怒りを黙って受け入れていた。

そんな時、美しい声色で声がかかった。
目をやると例の公爵家の御令息が立っていた。

御令息はこの世の美をそのまま体現したような方で、私は一瞬息をするのも忘れるぐらい美しかった。

私が困っているのを気に病み、お声をかけて下さったのか。美しい上になんて心の優しい方なのだろう。

御令息は未だ怒りを露わにしている子供達をよそに、幼い風貌に似合わない、大人びた口調で庭を褒めて下さったり、案内をする名目で私を助けて下さった。

その後、御令息は使用人を呼び対処をまかせると、私と共に庭の散策を始めた。




私はカーチス様を母上が一番力を入れている裏庭に案内した。

我こそが一番美しいとでも言うように、壮大に咲き誇る真紅の薔薇はカーチス様に良く似合いより一層美しさを際立たせていた。


カーチス様はそんな薔薇をキラキラとした目で楽しそうに見つめていた。
その様子は正に花の女神のようで、私は思わずため息を溢した。

カーチス様が美しいのは外見だけではなかった。私の醜い顔を嫌がる素振りなく真っ直ぐに見て、あろう事が微笑んで下さったのだ。
きっと、慈悲をもって私が傷つかないよう
接して下さってるに違いない。

初めてだった。
大人以外でまともに会話をしたのは。
子供は皆、正直であるので先程のように躊躇なく私の容姿を否定してしまう。
だが、カーチス様は仲良くしてほしいとまで仰ったのだ。

誰かと親しくなるなど不可能だと思っていた。私はカーチス様の言葉が本当に嬉しくて、
感情のままに受け入れた。

それからの生活は私にとって、かけがえのない暖かさに満ちた日々であった。

カーチス様は頻繁に私に手紙をくれ、事あるごとに私を褒めて下さった。
また、お互いの屋敷に行き来しお茶を飲んだり、本について話したりととても穏やかな時間を過ごした。

最初のうちは、カーチス様の言葉に戸惑いがあったが、そんな考えを気にする間もない程カーチス様は私を肯定して下さった。
徐々に自分の中で、カーチス様に対しての想いが大きくなるのがわかった。

そう、私はカーチス様を愛してしまったのである。

当然、この気持ちは伝える気などない。
カーチス様がどう思われようが、私のこの容姿はイナベリア公爵家にとっても汚点にしかならないだろう。
一緒の時を過ごせるだけで満足なのだ。


カーチス様との交流を始めて半年たった頃だろうか、私はある事に気づいた。

カーチス様は、私を見て良く考え込む癖がある。何を思い出しているのかは分からないが、
とても幸せそうな表情を浮かべている。

何度もその姿を見ているうちに、カーチス様の瞳は私を見ているようで別の誰かを見ているように感じた。

私の容姿が好きなことも本当。
私を肯定して下さる気持ちも本当。
でも、それは私を通して別の誰を想ってことなのだ。

それが確信に変わったのは、カーチス様に剣技を見せた時だ。

カーチス様はいつものように、私の姿を見ながら試合が終わったのも気づかないぐらい、考え込んでいた。



カーチス様は私に描いた絵を見せて下さった。
しかし、スケッチブックにいたのは私に似た誰かであった。

カーチス様とどうにかなりたいと思っているわけではない。だけど、私が目の前にいる時だけは、その瞳に私だけを写して欲しい。

自分でも訳の分からない感情のまま私はカーチス様を責めるように問いただしてしまった。


カーチス様は混乱した瞳で私を捉え、絶望したような表情を浮かべた。

その時ふと、私の頬が濡れてたのがわかった。
私は無意識に泣いていたのである。








「やってしまった。」
俺は自室のソファーに打ち上げられたマグロのように横たわっていた。

アラン様に最後に会ってから、3週間がたとうとしていた。あの後、アラン様は涙を拭い、何でもないと言うように普段通り会話をして解散した。因みにあれから手紙は来ていない。

アラン様が泣いたのは明らかに俺が無意識にサムエル様を描いたせいだ。
あんなの、アラン様と仲良くしていたのは
サムエル様の為だと思われたっておかしくない。

むしろそれは間違ってはいない。
俺が最初にアラン様に興味持ったのは、サムエル様に姿が似ていたからだ。

間違ってはいない。いないが…
ちゃんと説明して謝罪する?
サムエル様に似てたからって?
うん、それはそれでしっかり謝るべきだ。

けど…

あの時のアラン様の泣き顔が目について離れない。思い出す度、胸が苦しくて仕方がない。

罪悪感だけじゃない、何かがある気がして
アラン様に会うのが怖い。

「…ぼくは、いったいどうしてしまったのでしょう。」

コンコン
「カーチス様、失礼します。」
俺がソファーに顔を埋めていると、ラファがノックをして入ってきた。

「…まだ、にゅうしつのきょかをだしてません。」
「申し訳ありません。ですが、奥様からカーチス様をお連れするよう命じられています。」
「ははうえが?」
「はい。サロンにご案内するようにと」
「…いきます。」

俺は自分の気持ちに整理がつかぬまま、母上の元に向かった。

サロンに着くと、母上が優雅にお茶を楽しんでいた。サロンにある大きな窓からもれる柔らかな光が暖く、なんだか不思議な空間を作り出していた。

「いらっしゃい。久しぶりにお茶を一緒に飲みたいと思ったの。さぁ、席について」
「…ありがとうございます。」
俺は突然の母上からの誘いに戸惑いつつ、向いの椅子に座った。

「…最近、アラン君とはどう?」
「っ!どうと、言うのは?」
「あら、前はあんなに会っていたのに最近はほとんど会っていないと言うじゃない?」
「…っ。その…はい。」

お茶会の目的はこれか!
つか、俺が、最近会っていない事をなんで知っているんだ?
俺はそっとラファに目をやるとあからさまに目を逸らした。
くっ!ラファのやつ母上にバラしたな。

「ラファをいじめないの。」
「…すいません。」
「それで?何が原因なのかしら?
2人はとても仲良かったと思っていたけれど?」
母上はティーカップを持ち、紅茶の香りを
楽しんでいる。
「…ぼくが、しつれいなことをしてしまいました。」
「失礼なこと?」
母上の目が真っ直ぐに俺を射抜いた。
…これは誤魔化せないな。一部ぼかして話すしかあるまい。

「ア、アランさまと、ほんにでてきた、ぼくがだいすきなじんぶつがそっくりで…ぼくはアランさまとそのじんぶつをかさねてしまっていたのです。

その、ものがたりのなかでそのじんぶつが、たたかうばめんがありまして…アランさまのけんぎをみせてほしいとおねがいしました。

それで、そのひぼくはアランさまがたたかっているところをみて、きろくようにえをかいたのですが、
むいしきにアランさまではなく、そのじんぶつ…サムエル様をかいてしまったのです。…アランさまはそれをみてないてしまって…ぼくは…ぼくは…」
「………」
母上は、溜息を溢し、ティーカップを静かにソーサーにおいた。
「確かに、仲良くなれたと思っていたのに別の誰かを重ねていたと知ったら傷付くわよね。
ましてや、アラン様は仲良い相手が少ないんですもの。余計ね。そこはちゃんと謝らないとダメだわ。」
全くの正論だ。
「…はい」

「…でも、それだけなら直ぐ謝りに行けたはずよ?何があなたの足を止めているのかしら。」

そうだ。何故だ?何で俺は直ぐに会いに行けない?

思い出すのは、アラン様の屈託のない笑顔や
優しい話し方。剣技を見せてくれた時の闘うかっこいい姿。

…そして、あの日の泣き顔。
「…これは余談だけれど、アラン様お見合いをするそうよ?」
「…へ?」
「アラン様の容姿を受け入れると言うお方がいるのですって。確か…今日だったかしら?」

ガタンっ!!
「あの、ははうえ、ようじができましたので、しつれいします!!」

俺は礼儀などお構いなしに、急いで場を離れた。
…向かう先はもちろんアラン様のところだ。

「外に馬車を…って、ふふっ聞こえてないわね。」
「おかわりをお入れしますか?」
「ありがとう。ねぇ、ルゥ、2人は上手くいくかしら?」
専属使用人であるルゥに、フェシリアは優しく微笑みかけ問う。
「…えぇ、きっと。」
「そうね。ルゥが言うなら大丈夫ね。」

愛する我が子の幸せを思いながら、フェシリアはかつての己の甘酸っぱい思い出を久しぶりに思い出していた。



気づいた。気づいてしまった。
アラン様への想いに。

母上が、アラン様のお見合い話をした時、
俺から湧き出た感情は間違いなく焦りだった。

アラン様が自分から離れてしまう。
アラン様が俺じゃない誰かと結婚してしまう。
アラン様のことを1番に知っていたいのは自分なのに。

サムエル様には抱かなかった感情が、やっと俺の燻っていた感情を明確にしてくれた。

「つたえなきゃ。」

俺はアラン様の屋敷に向かう馬車で、アラン様の姿に想いを馳せた。




「もう、しばらくたつな。」
自室の窓から見える、憎らしいぐらいの綺麗な青空を見上げ、私はぼやいた。

カーチスと会わなくなり、かれこれ3週間が立つ。

あの日以降、カーチスから手紙はなく、かくいう私自身もなんとなく手紙を出せないでいる。


話し合わなくてはと思っていても、カーチスの前で平然とした姿でいる勇気が私にはない。 
「このまま何も起こらず過ぎ去ればどうなるのだろうか。」
わかっている。カーチスと出会う前に戻るだけだ。大人しく家族に迷惑がかからないよう、自分を磨き続け、成人したらここを出る。

なんてことない。前に私が考えていた計画通りだ。
「なのに、なんでこんなに、苦しいんだ。」

会いたい。誰かの代わりとはいえ、私に初めて仲良くしたいと言ってくれた人に。
「…カーチス」

コンコン
「アラン?今いいかしら」
「っ、母上?はい、大丈夫です。」
母上が直接来るなんて、何事だろう。

疑問に思っていると、使用人が静かに扉をあけ
母上が笑顔で入室してきた。

「突然ごめんなさいね。急に決まった事だから、あのね?今日、この後あなたにお見合いをしてもらいたいの」
「へ?お見合い…ですか?」
「えぇ、とても立派な所の方でね?是非にも会わせてほしいっておっしゃるのよ?」

視界が狭まり目の前が暗い。母上の言葉が、遠く聞こえる。
「大丈夫よ。あなたが心配している事も、全て受け入れて下さるって。どうかしら?」
「…は、はい。」
受け入れるしかない。母上が言うならきっと、侯爵家の為になるのだろう。

だから受け入れて…
でも、でも…

「っ、母…」
「失礼します。お相手のお方が到着しました。」
扉の外から使用人の声が聞こえる。
「まぁ!まぁ!まぁ!とっても、早い到着ね。
きっと早く貴方に会いたかったんだわ!!良かったわね!?」

断れない。
「さぁ、アラン。客間にいってご挨拶を」
「…はい。」

そう言って客間に足をすすめた私は
もう、何もかもどうでも良くなってしまった。



アラン様の屋敷につくと、使用人に客間に通された。

やばい!!勢いで来たはいけど、何も話す言葉を決めてない!!
えと、まずは今までの事を謝って、それから俺の気持ちを伝えて…ってあれ?

ふと、俺はある可能性を思いつく。

え?聞いてくれるよな???話もしたくないとかだったらどうする!?
いや!諦めないけどよ!でも、またアラン様を泣かせたら!?!?!

「失礼します。」
「ひぇっ!!」
俺が色々なパターンを考えていると、先程の使用人が入室してきた。
そして、その後ろには…

「カーチス?」
「アランさま!!」

良かったー!!会ってくれて!!

「…どうして、カーチスが?」
「あの、ぼくあやまりたくて、その
いろいろかんがえていたのですが、まとまらなくて、そしたら、アランさまがおみあいをするってきいて、それで、それで」
「…っ!!」
「!?」
瞬間、アラン様の手が俺に伸びてきた。
え?殴られる!?
ビビった俺は、目を閉じ衝撃に備えた。
「………」
あれ?衝撃がこない。
「……アランさま?」
そして、何故かアラン様の頭が俺の肩にある。

「っ、カーチス!カーチス!」
アラン様は床に膝をつき、小さな俺の体を離さないとでも言うように抱え込んでいた。
その体は、やや震えている。

「あいたかった。カーチス。」
「ぼくもです。」
「…本当に?あんな情けなく泣く姿をみて、私を嫌いに思っていない?」
アラン様は手の力を緩め、俺の目を不安気に
覗いた。
「なってないです!!むしろ、あやまりたくて!!たしかに、さいしょにアランさまをみたとき、べつのあこがれのひとににていて、なかよくなりたいとおもってしまいました。
アランさまのきもちにつけこんで、もうしわけありませんでした!!」

俺はアラン様の目を見て、しっかりと謝罪の言葉を述べた。

「…ちゃんと教えてくれてありがとう。カーチス。私も謝りたい。あの日、勝手に傷ついてカーチスを責めるような言葉を吐いてしまった。ごめん。」
「ぼくはまったくきにしてません!!だいじょぶです。…あと、その、もうひとつ、つたえたくて。」
「?」
「ぼく、アランさまがどなたかとおみあいするときき、とてもいやなきもちになりました。
アランさまをいちばんにしっていたいのは、ぼくなのにって。だから、その!」

くそっ!!だめだ、纏まらない!!
8歳の語彙力!!

「…いいの?」
「アランさま?」
見上げると、アラン様の大きな瞳が揺れていた。

「…私は君を望んでもいいの?」
「っ!」
泣きそうなアラン様を見てられなくて、俺は小さな体をめいいっぱい伸ばし、アラン様を抱きしめた。
「はい!あの…ぼくはまだちいさいですが、おおきくなって、かならずアランさまをしあわせにします!す!すきです!」
「カーチス…ありがとう。私も君が好きだよ。」

そう言って、アラン様は小さな俺を宝物をもつかのように、優しくだきしめた。



その後、お見合いうんぬんは母上達の策略だと知ったり、俺の憧れの人についてアラン様に問い詰められたり、俺とアラン様が婚約したり、それを見たアラン様のお母様がめちゃくちゃ号泣したりと、割とカオスな感じになっていた。




そうして、時は過ぎ、
俺は16歳、アラン様は21歳となった。

その日俺は無事に成人し、正式にアラン様と婚姻を結んだ。

結婚式には、白いタキシードにお互いの瞳の色を取り入れたピアスをし、神殿で神様に誓いを立てた。

因みに俺が成人する一年前ぐらいから、侯爵家の別邸を貰い、既に二人で暮らしていた。
その頃にはアラン様は騎士団に所属し、毎日切磋琢磨しながら屋敷の主人として、俺はアラン様の奥さんとして屋敷を取り仕切っていた。

ここでしっかりさせとくが、俺は今日やっと成人したため、夫婦のアレコレはまだである。

つまりはそう、今日、俺達の初夜なわけだ。


「不束者ですが、改めて末永くよろしくお願いします!!」
俺はアラン様が風呂から上がってくるや否や、ネグリジェ姿でベッドに指をつき日本式に挨拶をしていた。

えっ?お前そっち側なの?なんてツッコミはなしな。俺もちゃんと考えたんだよ。でも、アラン様が、涙目でどうしても俺に入れたいって言うからさ!そんなの断れないじゃん!?


「うん。こちらこそ、末永くよろしくね。
私の可愛い奥さん。」
アラン様が俺の頬に優しくチュウをしてきた。
「ひやぁぉぉ!?」
「ふふ。カーチスは変わらないね。
早く慣れてくれないと、これからもっと凄いことをするんだよ?」
「だっ!大丈夫です!沢山、練習しましたから!」
「…ん?」
あれ?俺なんか変な事言ったかな。アラン様の顔色が変わった。
「練習って何かな?」
「え?あっ、あの!同性同士のやり方を知らなかったので、ラファに色々聞いて、一人で練習しました!!」
「…あぁ、そう。ラファに」

ラファは俺がここにくる時に一緒に使用人として連れてきた。
因みに、俺より先にラファも母上の使用人であるルゥとめでたく結婚しているので、夫婦としての先輩である。

「確認だけど、話を聞いただけなんだよね?」
「はい、そうですが…ダメでしたか?」
俺は今だに不機嫌な顔をしているアラン様に
上目遣いで尋ねた。
「っ!!いや、それなら大丈夫だよ?でも、これからは閨事については全て私に聞くように。いい?」
「はい!」
「ふふ、素直でよろしい」
そう言うと、アラン様は俺を優しくベッドに寝かせ、上に覆いかぶさってきた。そして、どちらかともなく深い口付けを交わす。
「ふっ、んん。あっん」
「はっ、んっ。んぁ」
互いの息が混じり合い、アラン様の舌が俺の口腔内を繰り返し刺激してくる。

「ア、アランさ、まぁ」
「可愛いよ。カーチス。私の舌はそんなに気持ちがいい?」
「ふっあ!は…いん!ひもつひひ…んっです。」
ジュルジュルと卑猥な音がより、俺を昂らせる。
「ふふ、呂律がまわっていないよ?可愛い」
アラン様は優しく微笑むと、緩く立ち上がる
俺の陰茎に目をやった。
「みてごらん?カーチスのここ固くなってる。」

不思議とネグリジェはいつのまにか、アラン様の手で全て脱がされている。

「んっ!」
アラン様は俺の立ち上がった陰茎を優しくつかみ、先端をぐりぐりと指で捏ね回している。
「あっ!やっ!きもちっ!んぁ!」
「可愛いね。キスだけでこんなになっちゃって」
「あっ!あ!ぁ!」
「凄い…カーチスのここ先走りでベチャべちゃだ。」
「あっ、そんな!んっ!」
「一回出してしまおうか」

すると、アラン様は手を速めながら俺の陰茎を何度も擦り上げた。
「あっ、あっ、あっ、くっ、くる!あらんさまぁ!あっ、あっ!!」

俺が善がる様子をギラギラした目で見つめたアラン様は俺の耳に口を寄せ優しく囁いた。
「いきなさい」
「あぁっ!」
おれは軽く体を震わせ、アラン様の手に精液。吐き出した。
「沢山でたね?気持ちよかった?」
「あっん、はい、きもちよかったです。」
「ふふ、よかった。」

アラン様は精液で濡れていない方の手で、俺の頭を軽く撫でると、俺をうつ伏せに誘導して、お尻を軽くもちあげた。

「ここ、大分緩くなってるね。」
アラン様がぬぽぬぽと指で穴を浅く抜き差ししてくる。
「あっ、アラン様のを上手に入れられるように風呂場で慣らしました。」
「へぇ、それはおしかったなぁ。今度解す時は私の目の前でやってね。」
「えっ、でも、はずかし…」
「見たいんだ。いいよね?」
アラン様が俺の耳元で囁く。
「は、はい」
やばい。さからえねぇ
「指入れるよ?」
「んぁ!」
俺のお尻がにゅぷにゅぷと音を立てて、アラン様の指を次々と飲み込んでいく。

「あっ、んぁ!」
「凄い、もう3本も飲み込んでいるよ?」
「あっ!あっ!あっ!」

アラン様が速度を上げて中を擦り上げる。
やばっ。気持ちいいけど、なんだこの感じ。
凄くもどかしい。
…もっと太いのがほしい。

「ん?どうしたの?腰揺れてるよ?」
「あっ、アランさまぁ。も、もっと太いのほしもっもう、だいじょぶなので、アラン様のいれて!あっ!」
アラン様がお尻から指を一気に抜くと、徐に自身の陰茎を取り出した。
「そうだね。私もそろそろ限界だ。」
アラン様のそれは腹につく程反りかえり、固くなっている。

「初めはゆっくりするね。」
「あっ!あぁぁ!」

アラン様の陰茎がゆっくり音を立てて入ってくる。

「カーチス、痛くない?」
「んっ、あっ、はいだいじょうぶです。」
「っ、!少し動くよ?」
アラン様がトントンとゆるいリズムで腰を揺らしはじめた。

「あっ!あっ!あっ!んふっ!」
「っ、!」
「ひっん!あっ!あっ!」
感じてわけわからなくなった俺をみてアラン様は嬉しそうに瞳をゆらした。
「っ!…やっと、やっと私だけのものだ」
まるで自分だけのものと主張するように、俺をぎゅっと抱きしめる。
そんなアラン様がたまらず愛しく感じ、俺は思わず想いをぶつけた。
「あっ、すき!すきです!あらんさまぁ!」
「んっ!私もっ!あい…してるっ!」
「あっ、はや!あっあっ!」
「カーチスっ!」

「んっ、いくっ、」

じゅぶ、じゅぶとアラン様が勢い良く腰を打ち付けると2人は絶頂を迎え、お互いの精液をシーツに吐き出した。

「あいしてる。カーチス」
荒い息を整え、アラン様が呟く。
「はい。僕も、あいしてます。」

嬉しそうに俺を見つめるアラン様をみて
俺はかつて無いほどの幸福を味わっていた。


こうして無事初夜を終えた俺達だったが、俺にとっての戦いはこれからだった。
なんとこれから2週間、俺はアラン様の形を覚えさせられるほど沢山愛された。

因みにこの世界は魔法で男性妊娠が可能となっており、2年後には第一子を妊娠。
その後も2年事に妊娠を繰り返し、
気づいたら3人もの愛しい我が子に恵まれていた。

そうして俺達は末永く幸せに生きていったとさ。

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