彼を知り己を知る

識衆寡之用者勝

　なるほど、戦いには駆け引きが重要。それはわかった。
　じゃあ具体的にどうするの。
　その問いに答えるのがこいつだと思う。
「識衆寡之用者勝」
　翻訳すると
「衆寡之用を識る者、勝つ」
　衆寡ってなによ。

　『衆』は民衆とか衆人とか、そういうときに使う。
　『～々』って訳すのが個人的には好き。
　『民々』『人々』みたいな。意味としては『多くの～』みたいな？
　『衆寡』を日本語で近い言葉に直すと「多寡」だと思う。
　多いか、少ないか。そんな意味。
　で「用」ってのは「使い方」みたいな意味。
　もうちょっと日本語に翻訳（意訳）すると
「『多』と『少』の『用』を識る者は勝つ」
　『知る』と『識る』の違いは、たぶん『認知』と『認識』の違い？
　そのことを「知っている（名前は聞いたことがある）」と勉強して内容を「識っている（理解している）」の違いかも？
　で、『用』は『使い方』って意味。『多』の使い方、『少』の使い方ってなんだよ。
　余計わけわからなくなった。

　他の解説サイトを参考にすると「大軍と小軍の運用」とかで訳されてる。
　……なんで、いつのまに『軍』の話になったの？
　混乱してきた。少し視点を変えよう。

　要するに、個人から見たときの『多』とは『世間一般』のことだ。
　そしてだとすると『少』は個人とか、一つの企業とか。狭い範囲のこと。
　『使い方』だとわかりにくいから『向き合い方』と考える。
　例えば就職活動とか転職活動とかで会社の面接を受けるとする。
「私は学生時代、サークルの代表として、云々……」
　これは、衆之用だ。
　民衆向けに、いい顔をする。そんな人だとアピールする戦略。
「私が御社に入れば、○○の点でお役に立てると云々……」
　そしてこれが、寡之用だ。
　特定の個人に向けて、いい顔をする。自分を売り込むような戦略。

　世間が何を求めるか。
　そして私は何ができるのか。
　それを正しく理解して、正しく振る舞うことができれば勝てる。
　そんな当たり前のことを、この一文は表しているんだと思う。