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旅3

ヒサメくんに魔力を借りて、氷の魔導を体験してみた

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「終わりましたよ、お姉さん。この子良い馬ですね。獣を全く恐れないし、人にもよく懐いています」
「あ、うん。ありがとうヒサメくん。お馬さんもお疲れ様」
『ふむ。あの程度であれば朝飯前である!』

 狼の群れを追っ払ったヒサメくんは、馬の首をパシパシと叩きながら撫でて、馬から降りると隣にいた騎士さんに手綱を渡して馬車に戻ってきた。
 私があんな暴れ回るお馬さんに乗ってたら、10秒で満身創痍になりそうだし、なんだったら落馬しててもおかしくないぐらいなんだけど、ヒサメくんはまだまだ余裕みたい。
 私だって運動部に所属してたはずなんだけど……。

「ヒサメくんは、乗馬歴は長いの? 見事なお馬さん捌きだったけど」
「ああ、はい。幼い頃から両親に叩き込まれてますし、大人も交じる大会で結果を残したこともありますよ! まあ、貴族の嗜みってやつです」
「ヒサメくん、やっぱり貴族だったんだ……」

 良いね、貴族。
 もしヒサメくんが、せめて私と2歳差ぐらいだったら恋愛の対象として考えていたかもだけど、さすがに小学生は……ねえ。
 色々と倫理的な問題があるわけですよ。
 しょうがないからヒサメくんはピピちゃんかマリーちゃんに譲ってあげることにしようかな。って、そんなことを言う私は何様だよって感じだけど。

「アカネ姉さんは、ボクが貴族だと知っても態度があまり変わらないんですね」
「え? もしかしてゲスいことを考えてるのが顔に出てた?」
「いえ、皮肉とかではなく本音です。ひどい人だと露骨に媚びてきたり、逆に恩着せがましくしてきたりするので……」
「……あ、もしかして貴族って、なんか強い権限持ってたりするの⁉︎」
「そういえばアカネ姉さんは記憶喪失って言ってましたね。貴族に関する記憶も失ってしまったんでしょうか」
「さあ、もしかしたらそうなのかも。で、貴族には何ができるの?」
 てっきり名ばかりの貴族ってか、単なるお金持ちぐらいに考えてたんだけど、本当になんかすごい権限とか持ってるのかな。私は権力はどうでも良いけど、貴族には何ができるのかがすごい気になってきた。
 てか、仮に単なるお金持ちだったとしても、元の世界に戻るために大金が必要になる可能性もあるわけだから、仲良くしといて損はないかな。
「良いですか、アカネさん。貴族とはそもそも、を管理する人のことを表す言葉なんです。土地の所有権を得た貴族はその土地に住むことができるだけでなく、その土地が発生させる魔力を管理することができます。
 ボクの家系は代々、氷と水の魔力を発生させる土地の権限を持っています。だからボクはこうして自在に冷気を操れますし、ボクが許可した人間に数パーセント分の魔力の使用権を与えることもできるんです」
「え、ちょっと待って、ついていけない……」
「要するに、ボクと仲良くすればそれだけで氷の魔導が使えるようになる可能性があるってことなんです。わかりやすく言うと」
「……すっごいじゃん。え、それって凄くない⁉︎ え、それって私でも使えるようになるの?」
「試してみますか? 一時的に0.1%の魔力使用権をアカネ姉さんに授けます……はい。試してみてください」
「た、め、す?」
「そうですね……手を窓から外に向けて、手のひらから冷たい空気が噴き出すようなイメージをしてみてください」

 えっと……こう、かな?
 ヒサメくんに言われた通りに手を外に出して、粉雪混じりの冷たい風が手のひらから吹き抜けていく様子をイメージする。
 すると、私の存在が見たこともない山の景色と接続したような感覚になって、私の体を通り抜けて何かが外へと溢れ出していく。
 びっくりして思わず瞑ってしまった目蓋を開けると、掌の向く先には雪景色が広がっていた。

「やっべえ、0.1%でこの威力なの⁉︎」
「これは……、ボクもここまで魔力との親和性が高い人は初めて見ました。普通の人は体内の魔力が邪魔してろくに魔力を使えないものなんですけど……」
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