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勇者と賢者。それと魔王。
一つの決着
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一歩前に踏み出すと、赤髪は同じ距離だけ後ろに下がって距離をとる。
暴走して我を失っているように見えるが、戦い方を忘れたわけではないらしい。
実力が拮抗している以上、先に攻撃を仕掛けた方が有利になる。
だが、うかつに手を出したら逆に、隙を突かれて敗北する。
お互いにそのことがわかっているから、にらみ合いの形になる。
小さな動きでフェイントを掛け合いながら、全力の一撃を仕掛けるための力を溜める。
「魔王……魔王……」
「ユータ……行くぞ。受け止めて見せろ!」
空理の剣を高く掲げる。
赤髪も、聖剣を上段に構えた。
小細工はしない。俺の中の魔王の力を引き出して、一撃で切り伏せる。
ほとんど同時に、互いの切り札は振り下ろされた。
聖剣と空理の剣がぶつかり合う。
ギギギと、金属同士がぶつかり合い削れ合うような鈍い音が響く。
「魔王を殺す……魔王を殺す……」
赤髪は、魔王の殺害をひたすらに願い続けているようだった。
その一途な気持ちに応えるように、聖剣がさらに輝きを増す。だが……
「その程度の単純な考えで、すべてがうまくいくと思うな……!」
俺の中には、俺だけのものでない、無数の魂が混ざり合っている。
この世界で生まれた人や魔物たち。
古代の人間や、最近死んだばかりの者たちも。
そしてそこには、俺と同じように異世界から召喚されて、一足先にあの世に逝った勇者のそれも。
一つ一つが意思を持ち、全体として指向性を持たないそれを、魔王の権限で一つに束ねる。
一つの純粋な正義と、無数の不純な感情とがぶつかり合った。
強力な正義の前に、一つ一つの気持ちや想いは脆く削られていく。
強い日差しに影が塗りつぶされていくように……
「だが、負けられない理由があるのはこちらも同じだ! たった一人で勝てると思うなっ!」
気力を振り絞る。
魔王の力は、俺一人のものじゃない。
だがだからこそ、俺が先頭で突き進まない限り、だれも、何もついてこない。
歯を食いしばり、さらに一歩前に踏み込む。
空理の剣に体重を乗せ、赤髪の聖剣を数ミリずつ押し込んでいく。
「魔王……! 俺は貴様を……俺の友を殺した貴様を許しはしない!」
瞬間、聖剣の、勇者の力が跳ね上がった。
俺の中の無数の魂が、揺らぐ。この言葉に動揺したようでもあった。
もとは勇者の仲間だった者も多いから。
俺も魔王に対して、同じ感情を抱いていたことがあるから気持ちはわかる。
「今、おまえを解放するから……」
聖剣が力を増した瞬間に、俺は腕の力を一瞬だけ緩める。
バランスを崩した赤髪は、とっさに聖剣を引き戻そうとするが、その瞬間に、瞬間的に力を込める。
両手で握られた聖剣は、再び上段に戻される。
俺はその隙を見逃さない。聖剣が上がりきるより前に、空理の剣を引き戻して、斬り上げる。
空理の剣が、赤髪の胴体を通り抜けた。
暴走して我を失っているように見えるが、戦い方を忘れたわけではないらしい。
実力が拮抗している以上、先に攻撃を仕掛けた方が有利になる。
だが、うかつに手を出したら逆に、隙を突かれて敗北する。
お互いにそのことがわかっているから、にらみ合いの形になる。
小さな動きでフェイントを掛け合いながら、全力の一撃を仕掛けるための力を溜める。
「魔王……魔王……」
「ユータ……行くぞ。受け止めて見せろ!」
空理の剣を高く掲げる。
赤髪も、聖剣を上段に構えた。
小細工はしない。俺の中の魔王の力を引き出して、一撃で切り伏せる。
ほとんど同時に、互いの切り札は振り下ろされた。
聖剣と空理の剣がぶつかり合う。
ギギギと、金属同士がぶつかり合い削れ合うような鈍い音が響く。
「魔王を殺す……魔王を殺す……」
赤髪は、魔王の殺害をひたすらに願い続けているようだった。
その一途な気持ちに応えるように、聖剣がさらに輝きを増す。だが……
「その程度の単純な考えで、すべてがうまくいくと思うな……!」
俺の中には、俺だけのものでない、無数の魂が混ざり合っている。
この世界で生まれた人や魔物たち。
古代の人間や、最近死んだばかりの者たちも。
そしてそこには、俺と同じように異世界から召喚されて、一足先にあの世に逝った勇者のそれも。
一つ一つが意思を持ち、全体として指向性を持たないそれを、魔王の権限で一つに束ねる。
一つの純粋な正義と、無数の不純な感情とがぶつかり合った。
強力な正義の前に、一つ一つの気持ちや想いは脆く削られていく。
強い日差しに影が塗りつぶされていくように……
「だが、負けられない理由があるのはこちらも同じだ! たった一人で勝てると思うなっ!」
気力を振り絞る。
魔王の力は、俺一人のものじゃない。
だがだからこそ、俺が先頭で突き進まない限り、だれも、何もついてこない。
歯を食いしばり、さらに一歩前に踏み込む。
空理の剣に体重を乗せ、赤髪の聖剣を数ミリずつ押し込んでいく。
「魔王……! 俺は貴様を……俺の友を殺した貴様を許しはしない!」
瞬間、聖剣の、勇者の力が跳ね上がった。
俺の中の無数の魂が、揺らぐ。この言葉に動揺したようでもあった。
もとは勇者の仲間だった者も多いから。
俺も魔王に対して、同じ感情を抱いていたことがあるから気持ちはわかる。
「今、おまえを解放するから……」
聖剣が力を増した瞬間に、俺は腕の力を一瞬だけ緩める。
バランスを崩した赤髪は、とっさに聖剣を引き戻そうとするが、その瞬間に、瞬間的に力を込める。
両手で握られた聖剣は、再び上段に戻される。
俺はその隙を見逃さない。聖剣が上がりきるより前に、空理の剣を引き戻して、斬り上げる。
空理の剣が、赤髪の胴体を通り抜けた。
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