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第一章 クリスマスと藁人形

互いの気持ち⑥

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 クリスマスの前日、風悟が境内を歩いていると、氏子の中村に会った。
「おう。風悟くん邪魔してるで」
 上機嫌な中村は、段ボールを抱えている。
「明日の上映会の準備ですか」
「そや。やっぱりお菓子があったほうがええからな」
「毎年毎年……持ち出しですよね?」
 子供たちに当日配るお菓子は、中村が自腹を切って用意しているのだ。ひとり百円程度の駄菓子とはいえ、毎年となるとそれなりの負担ではないかと、風悟は中学生の時に気づいた。
「自己満足やし、たいしたことない。それに、こういうのはどこかで還元されるんや。氏神さまっちゅうんはそういうもんやろ」
 風悟は、帰路につく中村の背中に、黙って頭を下げる。すると、桃が隣に現れた。

「別に風悟が神様なわけじゃないでしょう?」
「まあな。けど、代理っていうか……」
 代理、と桃は鼻で笑う。
「年中行事のときは風悟目当ての客が多いから、確かに神様代わりではあるわよねー」
「なん、それ……」
「風悟が社務所で営業スマイル振り撒いてるときは、お守りの売上が跳ね上がるのよ」
「気持ちよく帰ってもらえたら万々歳やんか」
「どうだか」
 桃は、つい、と宙に浮かんだ。いつもは少し時間を置いたら機嫌が直るはずが、その気配はない。
「桃、今日もこれから内田さんとこのバイトやから、あとからでもいいから来いよ、な」
「恋人みたいに指図しないで頂戴」
「なんや、妬いとんのか、いまさら……」
 風悟の言葉を遮るように、突風が抜けた。かまいたちのように鋭い風刃は、風悟の体をかすめたが、弾かれたように進路を変える。
「……とにかく、あとでな」

 風悟は溜め息を吐いて敷地から外に出た。街はクリスマスの装飾に彩られて賑やかだ。少し早めに店へ着いた風悟は、父から渡された和紙を、カウンターに一人座っていた内田に見せる。
「ええと、父が。縁起物だから、とこれを」
「お、さすが先生、相変わらず上手やな。貼らせてもらうわ」
 内田は和紙を柱に貼りながら、懐かしそうに話し出した。
「高校のときな。女装カフェやるときに看板描き手伝ってくれてな。もともとフランクな先生で、普段から雑談したり、なんか話聞いてくれたりしたなあ。祈祷やる話も、たまたま聞いて。あれ、なんの話の流れやったかな……」
 まあええわ、と内田はまたカウンターの椅子に座り、グラスを手にとる。

「で、女装店員するうちの一人が正太郎やってんけど、あの外見やからすごい似合うて」
 今の年齢でもかなりの美人なのだ。少年らしさをまだ残した年齢なら、今より線も細かっただろう。風悟には、周囲の反応も含めて当時の様子が容易に想像できた。

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