デブ執事

saionji41

文字の大きさ
上 下
16 / 21

第16話 不遇の富豪

しおりを挟む
「さて、私のメロスはどこに行ったのかした。」
希美は図書館を出ると、もう姿の見えないメロスを探す。
アゲハ蝶を追っかけていった?
どんどん目的が変わっちゃうんだから。
希美はメロスの行動を予測する。

追っかけたってどこに?
アゲハ蝶がどこに行くかなんて予想できない。
おそらく途中でメロスの行けないとこに行って追跡を断念するだろう。
となると残暑でまだまだ暑いから休憩するはず。
貂彩学園で休憩するといったら食堂か売店か。
ここから近いのは3号棟の売店か。

「よし、とりあえず3号棟の売店に行こう。」
希美はメロスの当たりをつけると、気分屋のメロスが次の目的を見つけてしまう前にと走って売店へと向かう。
現代のセリヌンティウスは忙しい。

「はぁ、あっつい、。」
目的の3号棟に到着したセリヌンティウスは、立ち止まった瞬間に吹き出てくる汗を拭い、涼しい棟内へと入る。
売店の方へと向かうと、何やらパンを大量に買い込んでいる男がいる。
見るからにブランドもので揃えた身なりはあの男に違いない。

「それとメロンパンを12個、宇治抹茶デニッシュを10個、それとほうじ茶ラテを24つお願いできるかい?」
大量にパンを購入していること男は、1組の堂前紫苑である。
貂彩学園は、生まれながらの一貫組と中学校からの編入組に大きく分けられる。
編入組の多くは学費が減額あるいは免除されている場合が大半である。
逆に一貫組は学費に加え、貂彩学園に資金援助している家庭が多い。
希美の砂糖元家も貂彩学園を最も資金援助している家庭の一つであるが、紫苑の堂前家はその比ではない。
そんな堂前家の息子である紫苑も、何やら援助をしているのだろうか。
大量のパンが入った袋を抱えている紫苑に、希美は尋ねる。

「堂前君、そのパンたちはどういうこと?」
「やあ砂糖元さん。実は今1組は文化祭の出し物についてみんなで話しててね。長くなったから休憩しようってなって買いに来たんだよ。」
貂彩学園も他の学校のように文化祭がある。
他の学校と違うのは、クラス単位での出し物対決があるのと、個人での出し物もあることだ。
文化祭は10月だが、今から準備をするとは1組の担任は本気ね。
希美は自分のクラスの担任を思い浮かべて、準備は10月からかなと考える。

そんなことを考えながら、ふと紫苑を見ると明らかに一人では持ちきれない量のパンと飲み物がある。
「それにしてもすごい量だね。一人で持ってけるの?」
希美は心配しているのはしているが、単純にどうやってこの量を教室に持っていくのかが気になってそう尋ねる。
すると紫苑はスマートホンを取り出して、何やら操作をしている。
質問に答えず画面を覗いてる紫苑の手元を希美も覗く。
何してるの?ともう一度声をかけると、ようやく気付いた紫苑はスマホの画面を希美の目の前に突き出した。

「いま戌徳先生の研究室の作品で、荷物を運んでくれるロボットの試作品があるんだよ。それを今呼んだんだ。すぐ来ると思うよ。」
得意げにそう話す紫苑は、3号棟の入口の方を見やると希美を一瞥し、視線を入口へと誘導する。

入り口には、器用にドアを開けるコンベアのようなタイヤをつけたロボットが入ってきた。
人間でいう腹部の箇所には箱らしきものが備え付けられている。
そしてそのロボットは紫苑を見つけると、その轟音を響かしそうな足に似合わずとても静かにこちらへとやってきた。

「あんたが堂前紫苑でっか?荷物はどれや?えぇ?」
紫苑と希美は、突然のできごとに互いを見やることしかできない。

意外に静かな走行だったこと。
すぐに依頼した紫苑を判別したこと。
普通に話しかけてきたこと。
関西人が怒りそうな関西弁で話しかけてきたこと。

思考が追いつかずに黙っていると、返答がない時のパターンが設定されていないのか、ロボットも黙ったままこちらを見つめている。
耐えかねた希美が紫苑を肘でつつくと、我に帰った紫苑は抱えていた袋をロボットへと渡す。
「この袋とケースに入ってる飲み物を1年1組の教室まで運んで欲しいんだ。」

大きな袋と机に置かれたケースを確認したロボットは、腹部の箱に袋を詰め込もうとしたが全く入らずに、紫苑に詰め寄った。
「あほかいな、こんなん運べへんわ。その机のケースだけなら運んでええで。」

そう言うとさっさとケースだけを腹部の箱に入れて静かに外に出て行ってしまった。
大きな袋だけ取り残されてしまった紫苑を見て、希美は涙が出そうになった。
変な関西弁で捲し立てられ、結局荷物は残ってしまった。
なんて可哀そうなんだw。
「運ぶの手伝おうか?」

希美は笑いを堪えて、助力を提案した。
しかし、紫苑はプライドなのか恥ずかしかったのかその提案を断りロボットを読んだスマホで電話をかけた。
「もしもし爺やか。ちょっと荷物を運んで欲しいんだ。うん、二人くらいで大丈夫だと思う。うん、よろしく。」

静かに電話を切った紫苑は、ふと上を見上げると一息ついた。
「ちょっと、お代まだもらってないんだけど?」
振り返ると、売店のおばちゃんが紫苑に向かって手を出して代金を要求している。
追い打ちをかけるような一言に一瞬戸惑った紫苑だったが、失礼と言いながら財布から一万円を出して「おつりはいらないよ」とおばちゃんに渡した。

しかし希美はふと思った。
パンが50個くらいに飲み物が24個。ひとつ100円だとしてもぎりぎりではないか?
案の定、一万円を受け取ったおばちゃんはそれを紫苑につき返すとさらに追い打ちをかける。
「1万じゃたりないよ。全部で14880円だからもう一枚頂戴な。」
静かにおばちゃんの手に1万円を差し出した紫苑は、おつりをもらえることもなく大量のパンだけが残った。

「あれ、希美ちゃん。なんでここにいるの?」
振り返ると、そこには行方不明だったメロスがいた。
そして紫苑に気づいたメロスは、元気がないのを見るとどうしたの?と声をかける。
しかし当の紫苑はそれに答える元気もないようだ。

「今日はそっとしておいてあげましょう。それより図書館に戻るわよ。」
セリヌンティウスはそう言うと、メロスを連れて図書館に戻るのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

コントな文学『パンチラ』

岩崎史奇(コント文学作家)
大衆娯楽
春風が届けてくれたプレゼントはパンチラでした。

処理中です...