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第四章 逆襲

独立宣言

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「農民の流出が止まりません」

内務官からの報告に商人の次は農民かと宰相のマルコスは唸る。

エルグランドの王家の税収の5割以上は直轄領の農民たちからの納税だが、昨年に比べて3割減になっているという。

「どこに流出しているのだ?」

「ルーベル辺境伯の領地です」

「またルーベル辺境伯のところか」

ルーベル辺境伯の領地では、このたび大規模な灌漑工事が行われ、用水が完備された農業用地を広く貸し出しているのだという。しかも、農業改革ともいうべき新しい栽培法の手ほどきが受けられ、飛躍的に生産量を伸ばすことができるらしい。

「従来の10倍以上の生産性だそうです」

マルコスは絶句した。

「王家領の農家だけではなく、他の貴族の農家や、職にあぶれていた貴族の3男、4男がどんどん集まっているそうです」

灌漑や栽培の技術をルーベル辺境伯が持っているわけがない。レンガ島の農業生産能力はエルグランドの10倍以上だと報告を受けたことを思い出した。恐らくレンガ島から技術者が派遣されているのだろう。

王家の直轄領に自由都市や農業改革がもたらされていれば、王政の構造的な問題は吹っ飛び、王家は間違いなく返り咲いたはずだ。アレン王子は王家の宝だったのに、家族でこぞってレンガ島に追いやってしまった。

何と愚かなことだ。マルクスがため息をついていると、

「宰相、大変です」

と叫びながら、内務官が慌てて飛び込んできた。

「レンガ島が独立を宣言しました」

宰相はすぐに王のもとに参上した。すでにリチャード、スティーブ、デイビスの3王子と、臣下の多くが集まっていた。

国名は「レンガ王国」で君主制だ。初代国王はアレン・ルーベル、王妃はルナ・ルーベル。エルグランド王のカイザー姓ではなく、母方の姓を名乗っている。

そのレンガ国王の親書をナタールの使者が届けに来たのであった。

親書には独立を認めるナタール王、都市連合の委員長、7神教の教皇の署名があった。

エルグランドとしては、自国の領土の独立をはいそうですかと簡単に認めることはできない。

当然反対だが、エルグランドが反対しても何の意味もないことは、ここにいる面々はよく理解していた。

「もう1つ親書が来ている」

王が口を開いた。

「我が国への謝罪要求と損害賠償請求だ」

「え? 何のことです?」

マルクスは間抜けな声を出してしまった。

「そこのデイビスがアレンのところに送った刺客が捕らえられ、雇い主を洗いざらいぶちまけたのだ」

何と間の悪い……。マルコスはそう思ったが、すぐに提言する。

「仮に事実だとしても、知らぬ存ぜぬで、認めなければよいのでは?」

「それはそうなのだが、こちらの言い分には一切耳を貸さず、期限までに謝罪と賠償が履行されない場合は、ナタールと一緒に攻めて来るとのことだ」

王がまるで他人事のように言う。

「そんな無茶な……」

とマルクスは呻いた。

王は続けた。

「アレンを島流しにしたときにも一切弁明を認めなかった。それのお返しだと親書には書いてあった」

「そんな子供じゃあるまいし……」

マルクスはそう言って気づいたが、アレンはまだ16、7歳の子供だった。

「軍部に聞こう。勝てるか?」

王が参列している軍の司令官に発言を促した。

「今は刈入れのシーズンですので、農家からの徴兵は難しいです。無理矢理徴兵したら、来年の税収に響きます。都市部は人口の流出が止まらず、残っているのは徴兵を免除されている特権階級と浮浪者です。敵はナタールとの連合軍です。勝ち目は薄いです」

「貴族からの支援は募れないのか」

リチャードが司令官に聞いた。

「前回のレンガ島への派兵の協力に対する支払いが終わっていない状態で、新たな要求は無理です」

司令官が吐き捨てるように言った。

「デイビスの首を差し出すというのは?」

スティーブが言いにくいことを言った。全員がデイビスを注視する。

「命令とあらば首はいつでも差し出しますが、それよりも、私をレンガ島への使者として頂けませんか?」

デイビスが別の提案をした。

「謝罪は私がすればいいでしょう。賠償請求は取り下げさせるよう交渉して来ます。チャンスを頂きますようお願いします」

とりあえずの時間稼ぎとしては有効だし、他に妙案も出なかったため、エルグランド王国は、デイビスを使者として、レンガ島に送ることに決定した。

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