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第四章 逆襲

王都の凋落

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王都の15か所の交番が一斉に襲撃を受け、警官が連れ去られて行方不明のまま、という報告は直ちにエルグランド王の耳に届いた。

王都は王の直轄領であり、都内の治安を守る警官隊と王宮の警護を行う衛兵隊が警らしている。

警官隊は領地の警護を行う警察部、衛兵隊は王室の警護を行う近衛部が管轄しているが、いずれも第4王子のデイビスが責任者となっている。

今回の事件はデイビスにとっては寝耳に水だった。警官の詰め所である交番が、一斉に襲われるなんてことは、完全に想定外だったのだ。

しかも、全員が連れ去られてしまうなんてことを、誰が予想できるというのだ。警官の定員60名のうち、45人がいなくなってしまった。

その後、各所で発生した暴動もおかしい。警官の失踪情報が伝わるのが早すぎるのだ。

恐らく首謀者は、警官を襲撃し、その情報を故意に拡散し、王都の治安を崩壊させることが目的だったのだ。

デイビスの採った衛兵投入による速やかな治安回復は、実はファインプレイなのだが、王家は違う評価を下そうとしていた。

「デイビス、お前、王宮を危険にさらすなんて、何を考えている」

第一王子のリチャードが王の前で張り切っているのか、珍しくデイビスを強く非難した。

「いくら衛兵隊がデイビスの管轄だからといって、王宮警護の兵力を都内警護に回すなんて。王都民を守って、王室を危険にさらす本末転倒の指揮なんじゃないか?」

第三王子のスティーブもデイビスの失策だと責めてきた。

「では、どうすればよかったのです? 王宮には近衛兵もいて、警護は十分だと判断しました。問題が大きくなる前に沈静化することが最善だと判断したのです」

デイビスは自分の判断に間違いはないと確信していた。

「犯人の目的が衛兵を引き付けるための陽動作戦であった可能性もあるんじゃないのか? あの程度の混乱は町の自営団にでも任せておけばよかったのだ」

リチャードは今回はデイビスを追求するようだ。他の面々もデイビスの対応を評価する感じではなさそうだ。

「わかりました。私の失策でした。警察部と近衛部の指揮権は陛下にお返しします」

デイビスは一歩引くことに決めた。

「デイビスのとっさの判断は悪くはなかったと思うが、兄たちの指摘も一理ある。警察部と近衛部の指揮権はスティーブに渡す。弟に手本を見せるがよい」

「ははっ。陛下のご期待に必ずやお応えします」

***

アレンは母から王室でのやり取りの報告を受けた。

「びっくりするほどアレンの予想通りね。デイビスなら衛兵を動かし、兄たちが権限欲しさにデイビスを非難して、王が警戒するデイビスから指揮権を凡庸なスティーブに渡すってシナリオだったわよね」

母は息子の才能に興奮気味だ。

「さすがのデイビスもあんな戦法を突然取られるとは思わなかったみたいだな。デイビスには、まだあまり警戒されていないうちに攻撃をしかけようと思っていたけど、上手くいってよかった」

「ねえ、アレン君、私の諜報部隊はこの後どうするの?」

ルナがアレンの後ろから抱き着いて来た。あれ? 意外とおっぱいの感触って、背中ではわかんないものだな。当たる角度かな? いかん、いかん、早く答えないと。

「店じまいして王都から引き揚げた人たちには、ポートマレーに移住してお店出してって、お願いしておいたよ」

ポートマレーというのは、エルグランドとナタールの国境にある西海岸沿いの商業都市で、古くから貿易自由都市として栄えている町だ。王都からは北に約400キロ、ナタールの首都からは南に200キロの位置にある。

「そうなの? ポートマレーが次の重要ポイントになってくるのかな?」

「上手くいくかどうかわからないんだけど、これから王都はどんどん治安が悪くなって、商人たちが逃げ出すようになる。その商人たちの行き先をポートマレーにしたいんだ」

「フェルナンド公にはルナからよろしく言っておいてよ。ルーベル辺境伯は母さんの実家にお願いしておいたから」

フェルナンド公はルナの兄で、ポートマレー一帯のナタール側の領主だ。

ルーベル辺境伯はエルグランド側の領主で、母の母の兄の息子が当主を務めている。

ちなみにフェルナンド公は大のシスコンで、ルナ大好き度では、ナタール王といい勝負だ。

「う、あの兄、苦手なのよね」

ルナがとても嫌な顔をしている。俺もあの兄は非常に苦手だ。ルナ、よろしく頼みます。
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