30 / 39
第四章 逆襲
王都の凋落
しおりを挟む
王都の15か所の交番が一斉に襲撃を受け、警官が連れ去られて行方不明のまま、という報告は直ちにエルグランド王の耳に届いた。
王都は王の直轄領であり、都内の治安を守る警官隊と王宮の警護を行う衛兵隊が警らしている。
警官隊は領地の警護を行う警察部、衛兵隊は王室の警護を行う近衛部が管轄しているが、いずれも第4王子のデイビスが責任者となっている。
今回の事件はデイビスにとっては寝耳に水だった。警官の詰め所である交番が、一斉に襲われるなんてことは、完全に想定外だったのだ。
しかも、全員が連れ去られてしまうなんてことを、誰が予想できるというのだ。警官の定員60名のうち、45人がいなくなってしまった。
その後、各所で発生した暴動もおかしい。警官の失踪情報が伝わるのが早すぎるのだ。
恐らく首謀者は、警官を襲撃し、その情報を故意に拡散し、王都の治安を崩壊させることが目的だったのだ。
デイビスの採った衛兵投入による速やかな治安回復は、実はファインプレイなのだが、王家は違う評価を下そうとしていた。
「デイビス、お前、王宮を危険にさらすなんて、何を考えている」
第一王子のリチャードが王の前で張り切っているのか、珍しくデイビスを強く非難した。
「いくら衛兵隊がデイビスの管轄だからといって、王宮警護の兵力を都内警護に回すなんて。王都民を守って、王室を危険にさらす本末転倒の指揮なんじゃないか?」
第三王子のスティーブもデイビスの失策だと責めてきた。
「では、どうすればよかったのです? 王宮には近衛兵もいて、警護は十分だと判断しました。問題が大きくなる前に沈静化することが最善だと判断したのです」
デイビスは自分の判断に間違いはないと確信していた。
「犯人の目的が衛兵を引き付けるための陽動作戦であった可能性もあるんじゃないのか? あの程度の混乱は町の自営団にでも任せておけばよかったのだ」
リチャードは今回はデイビスを追求するようだ。他の面々もデイビスの対応を評価する感じではなさそうだ。
「わかりました。私の失策でした。警察部と近衛部の指揮権は陛下にお返しします」
デイビスは一歩引くことに決めた。
「デイビスのとっさの判断は悪くはなかったと思うが、兄たちの指摘も一理ある。警察部と近衛部の指揮権はスティーブに渡す。弟に手本を見せるがよい」
「ははっ。陛下のご期待に必ずやお応えします」
***
アレンは母から王室でのやり取りの報告を受けた。
「びっくりするほどアレンの予想通りね。デイビスなら衛兵を動かし、兄たちが権限欲しさにデイビスを非難して、王が警戒するデイビスから指揮権を凡庸なスティーブに渡すってシナリオだったわよね」
母は息子の才能に興奮気味だ。
「さすがのデイビスもあんな戦法を突然取られるとは思わなかったみたいだな。デイビスには、まだあまり警戒されていないうちに攻撃をしかけようと思っていたけど、上手くいってよかった」
「ねえ、アレン君、私の諜報部隊はこの後どうするの?」
ルナがアレンの後ろから抱き着いて来た。あれ? 意外とおっぱいの感触って、背中ではわかんないものだな。当たる角度かな? いかん、いかん、早く答えないと。
「店じまいして王都から引き揚げた人たちには、ポートマレーに移住してお店出してって、お願いしておいたよ」
ポートマレーというのは、エルグランドとナタールの国境にある西海岸沿いの商業都市で、古くから貿易自由都市として栄えている町だ。王都からは北に約400キロ、ナタールの首都からは南に200キロの位置にある。
「そうなの? ポートマレーが次の重要ポイントになってくるのかな?」
「上手くいくかどうかわからないんだけど、これから王都はどんどん治安が悪くなって、商人たちが逃げ出すようになる。その商人たちの行き先をポートマレーにしたいんだ」
「フェルナンド公にはルナからよろしく言っておいてよ。ルーベル辺境伯は母さんの実家にお願いしておいたから」
フェルナンド公はルナの兄で、ポートマレー一帯のナタール側の領主だ。
ルーベル辺境伯はエルグランド側の領主で、母の母の兄の息子が当主を務めている。
ちなみにフェルナンド公は大のシスコンで、ルナ大好き度では、ナタール王といい勝負だ。
「う、あの兄、苦手なのよね」
ルナがとても嫌な顔をしている。俺もあの兄は非常に苦手だ。ルナ、よろしく頼みます。
王都は王の直轄領であり、都内の治安を守る警官隊と王宮の警護を行う衛兵隊が警らしている。
警官隊は領地の警護を行う警察部、衛兵隊は王室の警護を行う近衛部が管轄しているが、いずれも第4王子のデイビスが責任者となっている。
今回の事件はデイビスにとっては寝耳に水だった。警官の詰め所である交番が、一斉に襲われるなんてことは、完全に想定外だったのだ。
しかも、全員が連れ去られてしまうなんてことを、誰が予想できるというのだ。警官の定員60名のうち、45人がいなくなってしまった。
その後、各所で発生した暴動もおかしい。警官の失踪情報が伝わるのが早すぎるのだ。
恐らく首謀者は、警官を襲撃し、その情報を故意に拡散し、王都の治安を崩壊させることが目的だったのだ。
デイビスの採った衛兵投入による速やかな治安回復は、実はファインプレイなのだが、王家は違う評価を下そうとしていた。
「デイビス、お前、王宮を危険にさらすなんて、何を考えている」
第一王子のリチャードが王の前で張り切っているのか、珍しくデイビスを強く非難した。
「いくら衛兵隊がデイビスの管轄だからといって、王宮警護の兵力を都内警護に回すなんて。王都民を守って、王室を危険にさらす本末転倒の指揮なんじゃないか?」
第三王子のスティーブもデイビスの失策だと責めてきた。
「では、どうすればよかったのです? 王宮には近衛兵もいて、警護は十分だと判断しました。問題が大きくなる前に沈静化することが最善だと判断したのです」
デイビスは自分の判断に間違いはないと確信していた。
「犯人の目的が衛兵を引き付けるための陽動作戦であった可能性もあるんじゃないのか? あの程度の混乱は町の自営団にでも任せておけばよかったのだ」
リチャードは今回はデイビスを追求するようだ。他の面々もデイビスの対応を評価する感じではなさそうだ。
「わかりました。私の失策でした。警察部と近衛部の指揮権は陛下にお返しします」
デイビスは一歩引くことに決めた。
「デイビスのとっさの判断は悪くはなかったと思うが、兄たちの指摘も一理ある。警察部と近衛部の指揮権はスティーブに渡す。弟に手本を見せるがよい」
「ははっ。陛下のご期待に必ずやお応えします」
***
アレンは母から王室でのやり取りの報告を受けた。
「びっくりするほどアレンの予想通りね。デイビスなら衛兵を動かし、兄たちが権限欲しさにデイビスを非難して、王が警戒するデイビスから指揮権を凡庸なスティーブに渡すってシナリオだったわよね」
母は息子の才能に興奮気味だ。
「さすがのデイビスもあんな戦法を突然取られるとは思わなかったみたいだな。デイビスには、まだあまり警戒されていないうちに攻撃をしかけようと思っていたけど、上手くいってよかった」
「ねえ、アレン君、私の諜報部隊はこの後どうするの?」
ルナがアレンの後ろから抱き着いて来た。あれ? 意外とおっぱいの感触って、背中ではわかんないものだな。当たる角度かな? いかん、いかん、早く答えないと。
「店じまいして王都から引き揚げた人たちには、ポートマレーに移住してお店出してって、お願いしておいたよ」
ポートマレーというのは、エルグランドとナタールの国境にある西海岸沿いの商業都市で、古くから貿易自由都市として栄えている町だ。王都からは北に約400キロ、ナタールの首都からは南に200キロの位置にある。
「そうなの? ポートマレーが次の重要ポイントになってくるのかな?」
「上手くいくかどうかわからないんだけど、これから王都はどんどん治安が悪くなって、商人たちが逃げ出すようになる。その商人たちの行き先をポートマレーにしたいんだ」
「フェルナンド公にはルナからよろしく言っておいてよ。ルーベル辺境伯は母さんの実家にお願いしておいたから」
フェルナンド公はルナの兄で、ポートマレー一帯のナタール側の領主だ。
ルーベル辺境伯はエルグランド側の領主で、母の母の兄の息子が当主を務めている。
ちなみにフェルナンド公は大のシスコンで、ルナ大好き度では、ナタール王といい勝負だ。
「う、あの兄、苦手なのよね」
ルナがとても嫌な顔をしている。俺もあの兄は非常に苦手だ。ルナ、よろしく頼みます。
0
お気に入りに追加
1,385
あなたにおすすめの小説
魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました
うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。
そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。
魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。
その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。
魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。
手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。
いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
異世界に転生したら狼に拾われました。
チャン
ファンタジー
普通の会社員だった大神次郎(おおがみじろう)は、事故に遭い気付いたら異世界に転生していた。転生して早々に死にかけたところを狼に救われ、そのまま狼と暮らすことに。狼からこの世界のことを学ぶが、学んだ知識は異世界では非常識なことばかりだった。
ご指摘、感想があればよろしくお願いします。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~
霜月雹花
ファンタジー
17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。
なろうでも掲載しています。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】
僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。
そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。
でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。
死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。
そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる