上 下
26 / 39
第三章 変革

対レンガ島政策 デイビス視点

しおりを挟む
エルグランド王国では、王を中心に家臣が集まってレンガ島への対策が議論されていた。

リチャード、スティーブ、デイビスの3王子も参加している。

2000人の兵士が忽然と消えてしまった1年前の事件以来、何度もレンガ島には派兵しているが、悉く海上で撃退されてしまっている。犠牲者は2万人以上にのぼる。

だが、ようやく王国はレンガ島の情報を入手することができた。レンガ島と交易しているナタールの住人に扮していた王国の間諜が、最新情報を王都に持ち帰ったのである。

情報から浮かび上がったレンガ島の姿は、想像とはまったく異なるものだった。

養蚕業、農業、漁業の生産性が高く、低コストで大量の収穫量を上げており、国民の生活は非常に豊かで、治安はすこぶる良いらしい。財布を落としても、必ず持ち主に返ってくるそうだ。

衣食住は島が支給していて、家屋はメンテも島が行っており、南の都市では全家屋温泉付きらしい。

アレンとルナは島の象徴のような存在となっていて、特にルナは見目麗しく、島民の8割が男性ということもあって、絶大な人気があるようだ。

軍事面では島民の男子に1年間の兵役義務があり、戦時には1万5千人以上の兵を集めることができるようだ。

あの艦隊を構成する戦艦は、やはりナタールから購入したものだった。しかも、レンガ島で改良されて、性能がオリジナルよりも遥かに優れているらしい。

ナタールは北の海を隔てた異国に対抗するため、昔から海軍が強い。そのナタールよりもレンガ島の海軍の方が艦隊単位では上なのだ。王国が勝てる訳がなかった。いくら海軍の育成を進めても、レンガ島海軍にまったく歯が立たない理由がよくわかった。

ただ、間諜が持ち帰った情報を照らし合わせても、どのように王国の船の位置を補足しているのかがさっぱりわからない。どんな航路をとろうが、必ず行手に現れて一掃されてしまうのだ。

危険を犯して新月の夜に移動しても、待ち伏せされた。内通者がいるとしても、どのようにレンガ島に情報を伝えているのかがわからない。

「伝書鳩でしょうか」

家臣の一人が言った内容は全員が最初に思い浮かべたが、新月の夜の星あかりだけでは鳩は飛べないのではないか。

それに航路は船長に任せてあり、風や海流の状況によって柔軟に変更されるので、鳩を飛ばしたときの航路とは微妙に違うのに、きっちりと見つけて、沈めに来るのだ。

そもそも戦艦に鳩を隠して持ち込めるわけがない。

「はっきり言って、もはや王国単独ではレンガ島は手に負えないのではないでしょうか」

言いにくいことをデイビスが言った。

王の前での敗北宣言とも取れるこの発言に王以外の全員が緊張する。

「デイビス、何が言いたい」

王がデイビスを睨む。

「レンガ島に勝つには、ナタールの海軍を仕向けるしかないと思います」

この大陸は北のナタール国、南のエルグランド王国、そして東の都市連合からなるが、都市連合も海軍は持っていない。

レンガ島の海軍に対抗できるのはナタールの海軍だけだ。艦隊の性能はレンガ島が優っていても、ナタールの海軍は規模が違う。

「ナタールを攻めるというのか」

そう言って王は目を瞑った。東の都市連合と同盟を結んで攻めれば、勝つことは出来るだろうが、こちらも大怪我を負うだろう。そんなリスクを負う理由がない。

「レンガ島は放っておけばよろしいのでは? こちらは攻めることは出来ませんが、あちらもこちらを攻められないでしょう」

そう提言したのは宰相のマルコスだ。王の心情はマルコスに近い。確かに癪だが、放っておけばいいのだ。

「朕も宰相の意見に賛成だ。レンガ島のことは忘れる」

デイビスは何もナタールを攻めようとしたわけではなかった。外交交渉でレンガ島を王国とナタール国で共同して攻められるような展開に持って行けないかと考えていたのだ。

しかし、どの方法もアレンに阻止されてしまうように思う。

また、ナタールのレンガ島への親和策を何とか崩す工作もしているのだが、ナタール王がルナ姫を溺愛しており、一向に効果を上げることが出来ないでいる。

アレンを放っておくと、将来きっと後悔する。今でも1年前、島送りではなく、殺しておくべきだったと後悔しているのだ。

ナタール経由で何人か刺客を送ったので、今はその結果を待つしかないか。

こうしている間にもアレンがどんどん力をつけている気がして、デイビスは戦々恐々とするしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~

霜月雹花
ファンタジー
 17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。 なろうでも掲載しています。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

[完結:1話 1分読書]幼馴染を勇者に寝取られた不遇職の躍進

無責任
ファンタジー
<毎日更新 1分読書> 愛する幼馴染を失った不遇職の少年の物語 ユキムラは神託により不遇職となってしまう。 愛するエリスは、聖女となり、勇者のもとに行く事に・・・。 引き裂かれた関係をもがき苦しむ少年、少女の物語である。 アルファポリス版は、各ページに人物紹介などはありません。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 この物語の世界は、15歳が成年となる世界観の為、現実の日本社会とは異なる部分もあります。

異世界ハーレム漫遊記

けんもも
ファンタジー
ある日、突然異世界に紛れ込んだ主人公。 異世界の知識が何もないまま、最初に出会った、兎族の美少女と旅をし、成長しながら、異世界転移物のお約束、主人公のチート能力によって、これまたお約束の、ハーレム状態になりながら、転生した異世界の謎を解明していきます。

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

処理中です...