上 下
22 / 39
第三章 変革

月例町議会

しおりを挟む
ルナと相談して、養蚕の知識を外して、陸上戦の知識に入れ替えた。例によって、とんでもない頭痛とひどい船酔いを経験したが、今回の戦いの役に立つであろう。

記憶の交換のダメージから回復したころ、治安維持を目的として軍を派遣してくるという情報をナタール国と母さんの両方から入手した。指揮官は第二王子のジルで2000名の派遣らしい。

なぜジルなんだ?

という疑問を母さんにぶつけてみた。

2人の出した結論は、多分今回は本気ではなく様子見だ。

ルナとも話したが、ルナはああ見えて脳筋だ。俺に危険が及ばないうちは何もしないで、俺のやることを嬉しそうに眺めているだけだ。だが、俺に危険が及ぶや否やすぐに参戦して来て、力任せにねじ伏せる。

そのため、ルナの作戦というか方針は、相手の思惑はどうでもいい、アレンを脅かすものはぶっ潰す。ただそれだけだった。

ちょうど今、俺はルナと町議会の月例に参加するために町に来ていた。ルナとはいつも行動を共にしている。会議も当たり前のように一緒に出席する。

町議会の席で、イーサンとアンディ以外は、美しい女性の存在に皆戸惑っていた。

「あのう、アレンさん、こちらのご婦人は?」

グリムさんが皆を代表して質問してきた。

「妻のルナです」

「ルナです。よろしくね」

全員が一瞬デレっとする。しかし、グリムさんは意外にもお堅いことを言う。

「アレンさん、職場に奥さんを連れて来てはダメですよ」

普通はそうだろう。前世の日本でも出社初日にダメ出しされた。

イーサンが説明する。

「すいません。皆さまに事前にご説明する時間がなくて。アレンさんは結婚されて北の村に引っ越しされまして、町議員は無理を言って続けてもらっています。町議会の月例に参加して頂く条件として、夫人帯同ということでしたので、ご理解ください」

俺も少し言い訳をする。

「グリムさん、私たちは夫婦の時間を大切にしているのです。妻は邪魔はしませんので、お目溢しくだざい」

「そういうことでしたら」

綺麗すぎて邪魔なんだけど、とは流石に言えないグリムだったが、納得することにした。

そんな一幕があったが、いつもの通り、各事業部の予実報告から始まった。最後に俺の番になったところで、フリップに書かれている数字に皆が釘付けになった。

「アレンさん、数字は月別での報告ですよ。これは年間の累積数字では?」

グリムの指摘にたいして、アレンが答えた。

「いいえ、今月の数字になります」

グリムが担当していたころの月の数字の4倍だった。

「まだ成果が十分に出ていませんが、半年後には今の数字の3倍になる予定です」

アレンがしれっととんでもないことを言う。グリムが担当していたときの年間生産量を1ヶ月で産出すると言うのだ。

「どうやって……」

グリムには信じられない数字だ。

アレンは淡々と説明する。決してドヤ顔になってはいけない。

「少し養蚕の知識がありまして、気になったところの改善と、給料を一部歩合制にしました」

イーサンがここぞとばかりに提案する。

「アレンさんは王宮の図書館で幼少から多くの書物を読んでおられまして、色々な知識をお持ちです。その知識を活かして、我々の事業のアドバイスをして頂きたいと思っています」

これだけ圧倒的な数字を見せられては、アレンの実力を認めざるを得ない。また、王宮の図書館の知識が理由ということであれば、町議員のプライドも何とか傷つかずに済む。

「では、アレンさん。残りの滞在期間中に各事業部の視察とアドバイスをお願いします。さて、最後の議題です。アンディ、よろしくお願いします」

アンディが町議員4人に説明する。

「国軍2000が島に派遣されるようです。目的は島の治安維持ということですが、島を制御下に置くことが目的と思われます」

町議員4人はかなり驚いていたが、段々とムッとした顔に変わっていく。

「アンディさん、当然我々は断固戦うということでよいですね」

グリムが確認した。他の町議員もそのつもりでいるようだ。

「念の為、採決をと思いましたが、必要ないようですね。それでは、国軍殲滅のための作戦を共有します」

アンディはそう言って、アレンが作成した作戦資料を全員に配布した。マル秘扱いで、会議室を出る時には回収する資料だ。

会議室の面々はこの資料をベースとして、細部まで作戦を確認し、会議を終了した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

「悲劇の悪役令嬢」と呼ばれるはずだった少女は王太子妃に望まれる

冬野月子
恋愛
家族による虐待から救い出された少女は、前世の記憶を思い出しここがゲームの世界だと知った。 王太子妃を選ぶために貴族令嬢達が競い合うゲームの中で、自分は『悲劇の悪役令嬢』と呼ばれる、実の妹に陥れられ最後は自害するという不幸な結末を迎えるキャラクター、リナだったのだ。 悲劇の悪役令嬢にはならない、そう決意したリナが招集された王太子妃選考会は、ゲームとは異なる思惑が入り交わっていた。 お妃になるつもりがなかったリナだったが、王太子や周囲からはお妃として認められ、望まれていく。 ※小説家になろうにも掲載しています。

「君は運命の相手じゃない」と捨てられました。

音無砂月
恋愛
幼い頃から気心知れた中であり、婚約者でもあるディアモンにある日、「君は運命の相手じゃない」と言われて、一方的に婚約破棄される。 ディアモンは獣人で『運命の番』に出会ってしまったのだ。

突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
デュドネという国に生まれたフェリシア・アルマニャックは、公爵家の長女であり、かつて世界を救ったとされる異世界から召喚された聖女の直系の子孫だが、彼女の生まれ育った国では、聖女のことをよく思っていない人たちばかりとなっていて、フェリシア自身も誰にそう教わったわけでもないのに聖女を毛嫌いしていた。 だが、彼女の幼なじみは頑なに聖女を信じていて悪く思うことすら、自分の側にいる時はしないでくれと言う子息で、病弱な彼の側にいる時だけは、その約束をフェリシアは守り続けた。 そんな彼が、隣国に行ってしまうことになり、フェリシアの心の拠り所は、婚約者だけとなったのだが、そこに自称聖女が現れたことでおかしなことになっていくとは思いもしなかった。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

処理中です...