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第二章 就職

レベッカ

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俺は努めてほかの女性と同じ対応を心掛けた。

「元王子です。今は平民ですので、アレンと呼んでください」

「では、アレン様とお呼びさせていただきます。アレン様は養蚕にずいぶん精通しておられるとか。どちらで学ばれたのでしょうか」

ん? ほかの女性とは質問の内容が違うな。趣味とか好きな女性のタイプとかの質問が今までは多かった。それと、サーシャさんが介入してこないぞ。

「いいえ、私はまだ子供ですから、精通だなんてとんでもない。養蚕事業部の人から出て来るアイデアを採用しているだけです。どなたからそんな風に言われたんです?」

「アレン様の噂は絶えないんですよ」

レベッカは微笑みながら言った。本当に美しい人だ。王宮にもこれほど美しい人はいないのではないか。

「悪い噂でないことを祈ります」

「悪い噂だなんて。夫の1人に加えたいという女性がこの会場にたくさんいらしていることはお分かりになったでしょう」

「はい、ありがたいことですが、私には愛を誓った婚約者がおりますので、お断りさせていただいております」

「まあ、そうでしたの? 島の人ですか?」

本当に驚いているようだ。ルナの情報はいずれ兄たちに知られるから、話してしまってもよいだろう。

「いいえ、近々来島する予定です。レベッカさんも呼び寄せたい人がいらっしゃるようであれば、そのときいっしょに連れて来ますよ」

レベッカの人質は病弱な妹だ。恐らく島までの旅には耐えられないだろうし、仮に耐えられたとしても島の医療では心もとない。そう思っていたら、意外な答えが返ってきた。

「私には病弱な妹がおりまして、今は知人に世話になっているのですが、できれば妹を島に呼び寄せたいです」

「わかりました。詳しい場所を教えていただけますか。あとその知人という方との連絡方法もお願いします」

レベッカが妹の場所と知人の情報を教えてくれた。母さんの報告と一致していた。ただ、その知人というのがデイビスの息のかかったやつなんだが。

「あの、どうやって今から婚約者の方と連絡を取られるのでしょうか?」

まあ、普通聞くよな。

「来島する前に一度、島の状況を把握するために使いを送ってくることになっているのです。その時に妹さんのことを知らせるようにします。ただ、このことは内緒にしておいてください。私も私もとなると、皆さまのご要望全部をかなえることはできませんので」

「かしこまりました。立ち入ったことを聞いてしまい、申し訳ございませんでした。アレン様、お話しできて光栄でした」

レベッカはそう言って、別の男性のところに向かって行った。俺と敵対しようとする素振りはなかった。まだ、デイビスからの指示は来ていないのであろう。

レベッカが立ち去るのをしばらく見ていたら、サーシャさんから肩をたたかれた。

「王子様も美人には弱いですね。レベッカは島でも評判の美女ですが、まだ夫を1人も持っていないので、動向が注目されているのです」

こんな美女であれば、島送りになる前にいろいろと助けが入るはずだ。島送りになるように恐らくデイビスが手をまわしたに違いない。彼女に俺を籠絡させようとしているのだろうか。

「サユリさんが来ますよ」

サーシャさんの声で俺は我に返った。

「アレンさん」

サユリさんが俺に声をかけてきた。神秘的な美しさを持つ、レベッカに匹敵する美女だった。
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