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第一章 追放

レンガの町

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2時間ほど歩いて2本目の川まで来ると、町並みが見えてきた。

レンガ島というだけあって、レンガの材料が豊富なのであろう、レンガ造りの建物が多いようだ。

城壁や柵はない。関所もない。町としての防衛は不要なのかもしれない。

レンガ島に送られた囚人のリストはあるが、その後は放置されているため、詳細は分かっていていない。

50年ぐらい前から囚人の移送先となり、これまでに男が約800人、女が約100人移送されている。

この国の婚姻は10代半ばで行われるのが普通であるため、3世か早ければ4世が産まれているはずだ。

「ちょっとスキルで町の様子を見てみます」

町の境界線と思われところよりも、100メートルほど手前で、俺たちは一旦立ち止まった。

(母さん、お願い)

(分かったわ)

母さんからの報告をかいつまんで皆に説明する。

「中心に広場と市場があります。そこを中心に放射状に家が無秩序に並んでいます」

一番近くに見える家は、最近出来たように見える。中心から離れるほど家が新しい。

「町の西側には広大な畑があります。南には港があり、漁船が沢山ありました」

何だか豊かな町のような感じがする。あとこの臭い、硫黄泉の臭いだ。各家に温泉が引かれているようだ。

「ここって本当に流刑地ですかね? 温泉街に遊びに来たような雰囲気ですね」

俺は誰ともなく、素直な感想を述べた。

(町の中心の市場もとても活気があったわよ。子供たちも笑顔だったわ)

母さんの追加報告だ。

「入ってみましょうか。一応、警戒は怠らないようにしましょう」

俺はそう言って、町へと再び歩き出した。

町の一番外側にある家の住人だろうか。庭先で若い男性が2人でチェスをやっていたが、こちらに気づいて、話しかけてきた。

「やあ、こんにちは。新入りさんかい?」

何だか俺がリーダみたいな雰囲気なので、俺が答えた。

「はい、昨日、この島に来ました」

「おっ、礼儀正しい子だね。何してここに送られてきた? この町に住む条件は来た理由を話すこと、それだけだよ。凶悪犯罪だろうが性犯罪だろうが構わないが、嘘はだめだ。嘘だとわかったときは、町を出て行ってもらうことになるので、そのつもりでね」

「私は祝福された神様が1人だけという理由でここに送られてきました」

「なんだい、それはいったい。ふむ。でも、本当のようだね。では、次の人」

この男、嘘か本当かを見分けられるスキルでも持っているのだろうか?

「私は幼女を殺したという濡れ衣を着せられ、ここに来ました」

ガリレオ神父の理由だ。

「それは気の毒に。ここに送られてきた人の3割が冤罪だよ。次の人は美人さんだね」

「私は呪いの人形を作ったという冤罪です。無病息災を祈る魔除けの人形を作っただけなのに」

サーシャはリチャードたちに利用され、最後は罪を着させられた。

「恩を仇で返されたってわけか。でも、ここに来て正解だよ。女性は非常に大切にされるから。あとの2人は同じ理由かな」

トムの方が答えるようだ。

「そうだ。2人とも我々の仕える姫様をこの地に迎えるために、わざとスパイ容疑で捕まってここに来た」

「OK、みなさん、善人だから町としては歓迎するよ。本当は凶悪犯や性犯罪の人はお断りしているんだ。後ろにいるのが、ここの町長さ」

えっ? こんな若い人が? それに、人も町もえらい無防備だな。

俺たちの驚きは予想通りだったらしい。今までの若者に替わって、町長の方が説明を始めた。

「町長のイーサンです。私はこの町で生まれ育った2世です。町長はこの町で生まれたものが務める決まりになっています」

なるほど。だから、若いのか。

「それから、城壁や塀を作っていないのは、こうしておくことで、新たに送られてくる囚人が、隠れずにここを通るからです」

面白い考え方だと思った。

町長によると、凶悪犯でもやむにやまれぬ理由がある場合は問題ないのだが、異常者は再犯の可能性が高いため、捕まえて牢屋に入れているとのことだ。性犯罪者も同様に牢屋行きだ。

もう1人はアンディと名乗った。町長の秘書で、同じく2世とのことだ。嘘を見破るスキルを持っているわけではないそうだ。嘘をつけないようリードする術にたけているらしく、質問する順番や話術で俺たちは全員正直に話をしたということだ。

ちなみにチェスをしているふりをして、俺たちを待っていたらしい。確かにチェスは不自然だったな。

町長から我々に1人1軒の家が与えられた。なんと温泉付きの家だ。太っ腹すぎやしないかと思ったが、これも治安維持のためらしい。警官を何人も雇用するよりも安上がりなのだそうだ。

また、食事は町で用意している仕事をすれば毎食支給されるそうだ。衣食住が十分にあるうちは犯罪が起きにくいため、町で事業計画を立て、雇用を創出しているという。公共事業だな。

仕事リストの中に町会議員というのがあったので、俺はそれに応募することにした。きつい割には実入りが少なく、なかなか応募してくれる人がいなかったらしい。町長は非常に喜んでくれた。

早速、明日は町議があるらしい。何だか面白くなってきたぞ。
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