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幕間
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俺は日本で生まれた。
忘れもしない小学校四年生の夏休みの最終日、俺は不思議な夢を見た。
親から言いつけられたことを素直に一生懸命やり遂げようとする少女の夢だ。可愛くて、頑張り屋で、そして泣き虫で、応援したくなる少女だった。
俺はそれから毎日のように少女の夢を見た。少女が人には見せない苦悩と忍耐を知る唯一の理解者だった。
夢の彼女の方が時間の進みが早かった。少女は美しく成長し、16歳のとき、皇太子の婚約者となった。
両親は大喜びだったが、彼女は両親が喜ぶならと、無理矢理自分自身を納得させていた。
いつかは来ることだと覚悟していたつもりだったが、俺は何日も何日も悲嘆に暮れた。だが、文字通り異世界の彼女だ。諦める以外に道はなかった。
もしも、彼女が幸せだったら、俺は彼女の幸せを祝福し、日本で伴侶を見つけ、生涯を終えていたかもしれない。
しかし、彼女に幸せは訪れなかった。刺繍のハンカチ事件でルイーゼが失神してしまったときから、アルバートは面白いおもちゃを見つけたかのようだった。結婚するまでは我慢していたようだが、婚礼の儀が終わってから、ルイーゼへの執拗な虐めが始まった。
初夜に側室の二人を同伴してきたり、ルイーゼの純真な心をズタズタにするような仕打ちばかりをあの手この手で繰り返すのだ。
眠ってしまうと、ルイーゼが虐められている夢を見てしまうため、俺は眠るのが怖くなった。
だが、最終的には寝てしまって、ルイーゼに対する仕打ちに心を痛める。
そもそも俺になぜこんな夢を見せるのだ?
助けるどころか、声すらもかけられない最愛の女性の悲劇を毎晩毎晩見させられて、俺はどうにかなりそうだった。
クラウスと無理矢理一緒に暮らしをさせ、妊娠しないと殺すと脅し、妊娠したらさっさとクラウスを殺して、ルイーゼを廃妃にする。
クラウスがとても真っ直ぐでいい奴だったのが救いだと思ったが、ルイーゼにクラウスを好きにさせてから、クラウスを殺したのだろう。
よくもこんな残酷な仕打ちを思いつけるものだと、俺はアルバートの異常な性癖に恐怖した。
皮肉なもので、廃妃されて修道院に移送されてからは、ルイーゼの心に平穏が訪れた。ルイーゼはクラウスの面影を残すアンリを溺愛した。
しかし、ルイーゼが32歳、俺が25歳のとき、王家からの突然の通達で、これまでボロボロに傷つけられていたルイーゼの心が遂に壊れてしまった。彼女はもうこれ以上何も奪われないようにするため、最愛の娘を残し、自らの命を絶ったのだ。
俺は血の涙を流し、神を呪った。
いったいお前は何がしたいのだと。
神は答えた。
あの娘を救うチャンスをお前にくれてやろう。
神の思惑が何なのかは分からないが、俺は神の提案に飛び付いた。俺はルイーゼの世界に転移した。
クラウスを愛したときのルイーゼは、一瞬ではあったが幸せだった。
アルバートを殺し、ルイーゼとクラウスを一緒にさせる。それが今のアンリを消滅させることになっても、アンリはまた産まれて来る。
そのつもりだった。
だが、アンリはとてもいい子だ。今のアンリを消滅させるなんてことは、やはり出来ないと思った。
それに、夢ではなく、現実のルイーゼを目の前にして、俺は自分の気持ちをとても抑えられない。彼女を自分のものにしたいという自分勝手な気持ちが出て来てしまうのだ。
クラウスの実物を見たとき、俺は夢で見たルイーゼとクラウスの暮らしを思い出し、激しく嫉妬してしまった。ルイーゼの幸せを祈っているなんて、嘘だった。俺は自分が幸せになりたいんだ。俺はそんな自分にほとほと嫌気がさした。
俺は改めて自分に誓った。ルイーゼを第一に考える。ルイーゼが誰からも脅かされず、彼女の幸せのために、やりたいこと、思ったことを好きなように出来るための手助けをするのだ。俺が彼女の心を掻き乱す存在であってはならない。空気のような存在となって、彼女を守り通すのだ。
俺はクラウスをルイーゼの騎士にする推薦状を書いた。
忘れもしない小学校四年生の夏休みの最終日、俺は不思議な夢を見た。
親から言いつけられたことを素直に一生懸命やり遂げようとする少女の夢だ。可愛くて、頑張り屋で、そして泣き虫で、応援したくなる少女だった。
俺はそれから毎日のように少女の夢を見た。少女が人には見せない苦悩と忍耐を知る唯一の理解者だった。
夢の彼女の方が時間の進みが早かった。少女は美しく成長し、16歳のとき、皇太子の婚約者となった。
両親は大喜びだったが、彼女は両親が喜ぶならと、無理矢理自分自身を納得させていた。
いつかは来ることだと覚悟していたつもりだったが、俺は何日も何日も悲嘆に暮れた。だが、文字通り異世界の彼女だ。諦める以外に道はなかった。
もしも、彼女が幸せだったら、俺は彼女の幸せを祝福し、日本で伴侶を見つけ、生涯を終えていたかもしれない。
しかし、彼女に幸せは訪れなかった。刺繍のハンカチ事件でルイーゼが失神してしまったときから、アルバートは面白いおもちゃを見つけたかのようだった。結婚するまでは我慢していたようだが、婚礼の儀が終わってから、ルイーゼへの執拗な虐めが始まった。
初夜に側室の二人を同伴してきたり、ルイーゼの純真な心をズタズタにするような仕打ちばかりをあの手この手で繰り返すのだ。
眠ってしまうと、ルイーゼが虐められている夢を見てしまうため、俺は眠るのが怖くなった。
だが、最終的には寝てしまって、ルイーゼに対する仕打ちに心を痛める。
そもそも俺になぜこんな夢を見せるのだ?
助けるどころか、声すらもかけられない最愛の女性の悲劇を毎晩毎晩見させられて、俺はどうにかなりそうだった。
クラウスと無理矢理一緒に暮らしをさせ、妊娠しないと殺すと脅し、妊娠したらさっさとクラウスを殺して、ルイーゼを廃妃にする。
クラウスがとても真っ直ぐでいい奴だったのが救いだと思ったが、ルイーゼにクラウスを好きにさせてから、クラウスを殺したのだろう。
よくもこんな残酷な仕打ちを思いつけるものだと、俺はアルバートの異常な性癖に恐怖した。
皮肉なもので、廃妃されて修道院に移送されてからは、ルイーゼの心に平穏が訪れた。ルイーゼはクラウスの面影を残すアンリを溺愛した。
しかし、ルイーゼが32歳、俺が25歳のとき、王家からの突然の通達で、これまでボロボロに傷つけられていたルイーゼの心が遂に壊れてしまった。彼女はもうこれ以上何も奪われないようにするため、最愛の娘を残し、自らの命を絶ったのだ。
俺は血の涙を流し、神を呪った。
いったいお前は何がしたいのだと。
神は答えた。
あの娘を救うチャンスをお前にくれてやろう。
神の思惑が何なのかは分からないが、俺は神の提案に飛び付いた。俺はルイーゼの世界に転移した。
クラウスを愛したときのルイーゼは、一瞬ではあったが幸せだった。
アルバートを殺し、ルイーゼとクラウスを一緒にさせる。それが今のアンリを消滅させることになっても、アンリはまた産まれて来る。
そのつもりだった。
だが、アンリはとてもいい子だ。今のアンリを消滅させるなんてことは、やはり出来ないと思った。
それに、夢ではなく、現実のルイーゼを目の前にして、俺は自分の気持ちをとても抑えられない。彼女を自分のものにしたいという自分勝手な気持ちが出て来てしまうのだ。
クラウスの実物を見たとき、俺は夢で見たルイーゼとクラウスの暮らしを思い出し、激しく嫉妬してしまった。ルイーゼの幸せを祈っているなんて、嘘だった。俺は自分が幸せになりたいんだ。俺はそんな自分にほとほと嫌気がさした。
俺は改めて自分に誓った。ルイーゼを第一に考える。ルイーゼが誰からも脅かされず、彼女の幸せのために、やりたいこと、思ったことを好きなように出来るための手助けをするのだ。俺が彼女の心を掻き乱す存在であってはならない。空気のような存在となって、彼女を守り通すのだ。
俺はクラウスをルイーゼの騎士にする推薦状を書いた。
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