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第四章 復讐

包囲

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王都にあるアードレー公爵邸を衛兵二百名が包囲していた。

指揮官のクラウスが馬から降りて、勅令を読み上げた。

「国王陛下はロバート・アードレー公爵の娘、ルイーゼ殿のご帰還を喜び、側室として迎えることにした。ルイーゼ殿は速やかに王宮まで参られたし」

ルイーゼが屋敷から出て、いそいそとクラウスの元に歩いていく姿をリンクは苦々しい顔で自室から眺めていた。アンリがルイーゼに付き人という形で同伴している。

さすがのリンクも衛兵二百名をすぐには無力化出来ない。一時間近くかかってしまうだろう。また、今回は王命にいったん従え、とのアドバイスを前もって組織から受けていた。抵抗したものはその場で殺せとの王命が出ているという。

クラウスは近づいて来るルイーゼに心を奪われてしまっていた。

(何という美しい女性なのだろう)

そんなクラウスにルイーゼは話しかけた。

「私は王宮まで歩いて行くのでしょうか?」

ルイーゼに完全に見惚れてしまっているクラウスは、ルイーゼから問われてもすぐに返事が出来ないでいた。

アンリはクラウスが父だと組織から教えられていたが、第一印象は最悪だった。

(パパったら、とんだ間抜け顔ね、しっかりしてよ、恥ずかしい)

「クラウス様、クラウス様!」

アンリがクラウスを二回呼んで、ようやくクラウスは正気に戻った。

「た、大変失礼致しました。あ、あなたはどなた様でしょうか」

「私はルイーゼ様の侍女です。同伴のご許可をお願いします。それから、ルイーゼ様が馬車をご所望です。ご準備をお願いします」

「あ、はい、もちろんご同伴頂いて結構です。馬車はあちらにご用意しております」

(もう、侍女に敬語使ってどうすんのよ。想像していたパパと違いすぎる)

「さあ、アンリ、参りましょう」

ルイーゼとアンリは馬車へと向かった。

クラウスは未だに心臓がバクバク暴れまくっていたが、相手は王の側室になられる方だ。想いを寄せるなど、失礼極まりなく、万死に値する。気持ちを落ち着かせ、分不相応な感情は払拭し、任務へと集中するよう努力した。

「全員、王宮に戻るぞっ」

クラウスは馬にまたがって、衛兵たちに号令を出し、自分はルイーゼの馬車に並走するように馬を走らせた。

しばらく並走していると、ホロからアンリと名乗った侍女が顔を出し、クラウスを見ている。

「何か用か?」

クラウスは少し落ち着いたようで、アンリに対して敬語は使わなくなったようだ。

「クラウス様、ルイーゼ様に見惚れておられましたが、不敬ですよ」

「なっ、み、見惚れてなどおらぬ。変なことを申すでない!」

「え? ルイーゼ様は私でも見惚れるほどお美しい方ですが、クラウス様はそうではない、とおっしゃるのですか」

「そんなことは言っておらん!」

「では、クラウス様はルイーゼ様のことをお美しいと思っていらっしゃるのでしょうか?」

「へ、陛下に仕える身で、陛下の奥方となるお方にそういった感情は持ってはいけないのだ」

「ただ感想をお聞きしているだけですよ。クラウス様は大袈裟ですね」

「これ、アンリ、もうそろそろおやめなさい。クラウス殿がお困りですよ」

「ルイーゼ様、お気づかいありがとうございますっ」

(何よ、顔を真っ赤にして、ございますっ、とか言って。もっとクールな硬派な人だと思ってたわ。まあ、現実なんてこんなものよね、さて、そろそろ始めるか)

アンリはルイーゼにアイコンタクトして、作戦の実行を合図した。ルイーゼはゆっくりと頷き、しっかりと座席にしがみついた。アンリは精神統一し、魔法を唱えた。

クラウスがルイーゼの「クラウス殿がお困りですよ」の言葉を脳内で繰り返していると、突然ルイーゼの馬車が路地を左に曲がり、ものすごい勢いで暴走を始めた。

猛然と走る馬車にクラウスはすぐに追いついて、並走しながら、御者に馬を落ち着かせるよう指示をしようとしたが、何と御者は寝てしまっている。

「何で寝ている!?」

寝るなどとはあり得ない。病気か何かかと思ったが、そんなことよりも、早く馬車を止めないとまずい。クラウスは馬を並走させながら、馬車に飛び移った。そして、手綱を握って、制御しようとしたところで、クラウスは眠ってしまった。

馬車はしばらく暴走を続けた。衛兵が馬で馬車を追いかけて来るのだが、馬上の衛兵は次から次へと眠らせられて行く。

そして、馬車は王都の郊外へと逃げ去って行った。
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