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第二章 捜索

親子喧嘩

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「ルイーゼ! 良かった。無事だったか。もうあんな男のところに嫁になんか行かなくていいぞ。さあ、帰ろう」

ロバートは娘の姿を見て、目尻を下げた。生きていてくれて本当によかったと思った。

そんな父に対して、娘からの容赦ない自己主張が幕を上げた。

「お父様、私は帰りません。ここに残って、自分の意思で人生を生きて行きたいです」

ロバートの頭は一瞬真っ白になったが、世間知らずの娘をこんなところに残してはいけない。

「何を言っている。貴族の生活に慣れたお前が、一人で暮らしてなんていけないだろう。おい、お前たち、ルイーゼを連れて帰るぞ」

「ああ、お父様、やはりご自分の思い描いた通りに私を駒のように動かすのね!」

生まれて初めての娘からの反抗は、簡単には折れなかった。

「お前の幸せを願えばこそだ」

「皇太子殿下の素行を知りながら嫁がせたのも、私の幸せのためですか?」

これを言われるとロバートは謝るしかない。この件は両親に一方的に非があるからだ。

「あ、あれは。あれはすまなかった。私もマリアンヌも反省している」

マリアンヌはルイーゼの母の名だ。

「私の幸せは私が決めます。お父様が決めるものではありません」

「こ、この、我儘を言うんじゃない」

「自分の人生を自分で決めることが我儘なのですか?」

「ルイーゼ、ここまでお前を育てた恩を忘れたのか!?」

こんなことを言うつもりはなかったのだが、ロバートはつい口に出してしまった。

「忘れてはいませんが、だからと言って、お父様の意のままに動く人形にはなりません」

「この親不孝者!」

ロバートはルイーゼの頬を思わず平手打ちしてしまった。

ルイーゼがロバートを睨みつける。

(この子はどうして私をこんな目で見るのだ。この子は本当にあの優しくて従順だったルイーゼなのか?)

叩かれたルイーゼは、ロバートが予想もしなかった行動に出た。

「酒場の皆さん、この人が私を殴るのです。助けて下さいっ」

ルイーゼは酒場の冒険者たちに向かって助けを乞うたのだ。

冒険者たちが騒ぎ出した。中には立ち上がって、こちらに進んで来る者もいる。

「ルイーゼ、お前」

ロバートは信じられないという表情でルイーゼを見た。

「お父様、今まで育ててくれてありがとうございました」

ルイーゼは目に涙を溜めているが、瞳には強い意志が感じられた。ルイーゼはロバートにペコリと頭を下げた後、ロバートと目も合わさずに背を向けて、厨房の方に走って行ってしまった。

ロバートの護衛が前に出て構えている。冒険者たちがジリジリと間合いを詰めてくる。

一髪触発の状況でアンリが叫んだ。

「この人は貴族よ。殴ったら罰せられるわよ!」

冒険者たちが、えっという表情になった。

アンリはロバートに向かって、貴族のアクセントで語った。

「アードレー卿、今日のところはお引き取り下さい」

ロバートは無念ではあったが、今日のところは引き上げることにした。
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