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昼食
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王都から数十キロ北に行った高原の上で馬車を止め、ニーナとブラン以外のフレグランスの面々が、昼食のための設営を始めた。
ニーナは私の側をいっときも離れず、護衛を務めている。
シミュレーションのときも、ニーナは常に私の側にいて、周囲に目を光らせていた。
「ニーナ、少しは気を抜いたらどうだ」
「ありがとうございます。集中力が持続するようメリハリをつけておりますので、ご心配無用です」
ブランは少し離れたところで、どこからか取り出した調理器具を使って、調理を始めていた。
今回の食材は王都から持参したものらしい。
魔法使いのガガが、ブランに呼ばれて、火をつけたり、水を出したりしているのが見えた。
私は宮廷魔術師のベンジャミンを思い出した。
「王妃様、魔法はインチキではないですよ」
そう言って、ちょうど今ガガがしているように、何もないグラスに水を溜めたり、指先から火を出すところを見せてくれたりした。
私は気さくで人懐こい彼を好ましく思っていたが、ライザーが嫉妬して、彼を罷免してしまった。
代わりに怪しげな魔女が宮廷魔術師になってしまい、雨乞いの儀式をしたり、無病息災のために奇妙な物を食べさせられたり、よく考えると、あの頃から、ライザーは少しずつおかしくなっていったように思う。
「伯爵様、魔法をご覧になるのは初めてですか?」
ニーナの言葉で、私は思い出の世界から引き戻された。
「いや、以前、うちにも魔術師がいて、同じようなことをして見せてくれたことがある」
「それはすごい人ですね。火も水も使える魔法使いはそんなにはいないはずです。私はガガ以外に知らないです」
「そうなのもかもな」
ベンジャミンは今頃、どうしているだろうか。
ガガは案外彼の娘だったりするかもしれない。
「今日の夜はあそこに見える湖の辺りでテントを設営して宿泊します」
ニーナが丘の上から遠くに見える湖を指差した。
「ああ、レイニー湖か」
結婚して十年ぐらいは、暑さを避けるために、湖のほとりのレイニー城に毎年のようにライザーと滞在したものだ。
「そういえば、レイニー城といえば、王妃様が先日お亡くなりになられたようですね」
「えっ? そうなの?」
あ、驚いてしまって、ついいつもの口調で話してしまった。
先ほどからシミュレーションにはなかった会話がちょくちょく出てくる。
だが、ニーナに違和感はなかったようだ。
「ご存知なかったですか。王宮の池に落ちて、お亡くなりになられたそうです。そういえば、伯爵様は男性ですが、何となく王妃様に似ていらっしゃいますね」
「髪の色と目の色が一緒だからだろう。そうか、王妃様が亡くなられたのか」
どういうことだろうか。失踪を誤魔化すためか。理由は不明だが、その方がこちらも都合が良い。
「伯爵様、どうやら昼食の用意が出来たようです」
ニーナの向いている方向を見ると、真っ白いテーブルクロスが敷かれたテーブルが用意され、ブランがトレイを持って、テーブルに配膳をしているところだった。
「すごい。まるで街のレストランのようではないか」
シミュレーションにはなかった構図だ。
「はい。でも、味は街のレストラン以上ですよ。お楽しみ下さい」
テーブルまで行くと、ブランが椅子を引いてくれた。
椅子に座ると、ブランが料理の説明を始めたが、ちょっと待ってほしい。
私がかつて王宮で食べていたときのような料理の名前が出て来るのだ。
「ブラン、どこで料理を学んだんだ? 王宮に出てくるようなコース料理ではないか」
「師匠が王宮で料理をしていたことがあるのです。伯爵様も王宮料理はご存知なのですね」
「うむ、聞いたことがある程度だが」
シミュレーションにないことばかり起きるので、ボロが出て、身バレしそうだ。
黙って食べよう。
私はコンソメスープを口にした。
ダメだ。黙っていられない。
「美味しいっ」
スープの後に口当たりの良い食前酒が出た後、鯛のカルパッチョ、生ハムと季節野菜のサラダ、鶏肉のソテーと続き、最後のデザートのティラミスに至るまで、全て絶品だった。
「こんなに美味しい料理は食べたことがない。ブラン、王宮の料理長になれる腕前だ」
「ありがとうございます。でも、王宮には行きたくないですね」
「そうだな。あんなところ、つまらないと思う」
しまった。また身バレしそうなことを言ってしまった。
だが、ブランは優しく微笑んだままだ。
こんな見惚れてしまうほど上品で魅力的な微笑みをなぜ冒険者の料理人が出来るのだろうか。
「伯爵様、護衛をレイモアと代わります。しばらくお寛ぎ下さいませ。私はあちらで皆と一緒に食事を頂いて来ます」
ニーナが食事をしたくて仕方がないようだ。
「了解した。レイモアは食事はいいのか?」
「私はすでに頂きました。伯爵様、紅茶をお持ちいたしました。ブランも下がらせて頂きます」
ブランは私に一礼してから、皆のところに走っていった。
黄色い声が向こうから聞こえる。ブランは人気者のようだ。
ニーナは私の側をいっときも離れず、護衛を務めている。
シミュレーションのときも、ニーナは常に私の側にいて、周囲に目を光らせていた。
「ニーナ、少しは気を抜いたらどうだ」
「ありがとうございます。集中力が持続するようメリハリをつけておりますので、ご心配無用です」
ブランは少し離れたところで、どこからか取り出した調理器具を使って、調理を始めていた。
今回の食材は王都から持参したものらしい。
魔法使いのガガが、ブランに呼ばれて、火をつけたり、水を出したりしているのが見えた。
私は宮廷魔術師のベンジャミンを思い出した。
「王妃様、魔法はインチキではないですよ」
そう言って、ちょうど今ガガがしているように、何もないグラスに水を溜めたり、指先から火を出すところを見せてくれたりした。
私は気さくで人懐こい彼を好ましく思っていたが、ライザーが嫉妬して、彼を罷免してしまった。
代わりに怪しげな魔女が宮廷魔術師になってしまい、雨乞いの儀式をしたり、無病息災のために奇妙な物を食べさせられたり、よく考えると、あの頃から、ライザーは少しずつおかしくなっていったように思う。
「伯爵様、魔法をご覧になるのは初めてですか?」
ニーナの言葉で、私は思い出の世界から引き戻された。
「いや、以前、うちにも魔術師がいて、同じようなことをして見せてくれたことがある」
「それはすごい人ですね。火も水も使える魔法使いはそんなにはいないはずです。私はガガ以外に知らないです」
「そうなのもかもな」
ベンジャミンは今頃、どうしているだろうか。
ガガは案外彼の娘だったりするかもしれない。
「今日の夜はあそこに見える湖の辺りでテントを設営して宿泊します」
ニーナが丘の上から遠くに見える湖を指差した。
「ああ、レイニー湖か」
結婚して十年ぐらいは、暑さを避けるために、湖のほとりのレイニー城に毎年のようにライザーと滞在したものだ。
「そういえば、レイニー城といえば、王妃様が先日お亡くなりになられたようですね」
「えっ? そうなの?」
あ、驚いてしまって、ついいつもの口調で話してしまった。
先ほどからシミュレーションにはなかった会話がちょくちょく出てくる。
だが、ニーナに違和感はなかったようだ。
「ご存知なかったですか。王宮の池に落ちて、お亡くなりになられたそうです。そういえば、伯爵様は男性ですが、何となく王妃様に似ていらっしゃいますね」
「髪の色と目の色が一緒だからだろう。そうか、王妃様が亡くなられたのか」
どういうことだろうか。失踪を誤魔化すためか。理由は不明だが、その方がこちらも都合が良い。
「伯爵様、どうやら昼食の用意が出来たようです」
ニーナの向いている方向を見ると、真っ白いテーブルクロスが敷かれたテーブルが用意され、ブランがトレイを持って、テーブルに配膳をしているところだった。
「すごい。まるで街のレストランのようではないか」
シミュレーションにはなかった構図だ。
「はい。でも、味は街のレストラン以上ですよ。お楽しみ下さい」
テーブルまで行くと、ブランが椅子を引いてくれた。
椅子に座ると、ブランが料理の説明を始めたが、ちょっと待ってほしい。
私がかつて王宮で食べていたときのような料理の名前が出て来るのだ。
「ブラン、どこで料理を学んだんだ? 王宮に出てくるようなコース料理ではないか」
「師匠が王宮で料理をしていたことがあるのです。伯爵様も王宮料理はご存知なのですね」
「うむ、聞いたことがある程度だが」
シミュレーションにないことばかり起きるので、ボロが出て、身バレしそうだ。
黙って食べよう。
私はコンソメスープを口にした。
ダメだ。黙っていられない。
「美味しいっ」
スープの後に口当たりの良い食前酒が出た後、鯛のカルパッチョ、生ハムと季節野菜のサラダ、鶏肉のソテーと続き、最後のデザートのティラミスに至るまで、全て絶品だった。
「こんなに美味しい料理は食べたことがない。ブラン、王宮の料理長になれる腕前だ」
「ありがとうございます。でも、王宮には行きたくないですね」
「そうだな。あんなところ、つまらないと思う」
しまった。また身バレしそうなことを言ってしまった。
だが、ブランは優しく微笑んだままだ。
こんな見惚れてしまうほど上品で魅力的な微笑みをなぜ冒険者の料理人が出来るのだろうか。
「伯爵様、護衛をレイモアと代わります。しばらくお寛ぎ下さいませ。私はあちらで皆と一緒に食事を頂いて来ます」
ニーナが食事をしたくて仕方がないようだ。
「了解した。レイモアは食事はいいのか?」
「私はすでに頂きました。伯爵様、紅茶をお持ちいたしました。ブランも下がらせて頂きます」
ブランは私に一礼してから、皆のところに走っていった。
黄色い声が向こうから聞こえる。ブランは人気者のようだ。
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