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逃亡

風呂食事女付き

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「けけけ、実技はいったん休みだ。魔法の仕組みを教えるぞ」

 アンジェラもどきが口をがっぽりと開けて説明を始めた。

「一言でいうと、精神力や音を使って分子を振動させ、化学反応を起こすのが魔法だ。お前にはこう説明するとしっくりくるんじゃないか?」

 いや、全くしっくりこない。そんなバカなと思うのだが、実際に魔法があるんだから、そういうことなのだろう。

「分子を振動させるのは精神力でも音でもどちらでもいい。お前は音で振動させるとよい。古来から分子を振動させるための歌がある。炎の歌、風の歌、水の歌、土の歌、雷の歌、そして、時の歌だ」

 俺は炎の歌から歌ってみた。音程が正確であればあるほど効果が高く、声量が大きければ大きいほど威力が上がるという。

 ちなみに炎の歌は「もえもえちゃちゃちゃ」だ。これをずっと繰り返して、着火は精神力で火花を発生させる。

「何だか思ってたのと違うな」

「火の神よ」なんかで始まる格好いい呪文を想像していたのだ。

 後で知るのだが、発音はそんなに重要ではなく、大事なのは音程すなわち周波数だ。正しい波長を対象の分子にぶつけることが重要なのだ。

「けけけ、今日はここまでだ。後ろのドアを開けると寝室がある。風呂に入ってから食事をしろ。夜遅くにお前の部屋に行く。一緒に寝るぞ」

 アンジェラもどきの口角がニイっと上がる。

「一緒に寝るって、お前とか!?」

 俺は素っ頓狂な声を出してしまった。

「けけけ、そんな若い体で一年間も射精しないつもりか。遠慮は要らない。スペシャルサービスだ。毎日私をやっちゃってくれていい」

 そうやってあっけらかんと言われると、萎えるかと思ったが、俺はきっちりと反応していた。だが、しばらくおとなしかったマモルの残滓が、必死で抵抗をし始めた。どんどん萎えて行く。

 俺はマモルを説得する。

(相手はホムンクルスだ。いわば人形だ。前の前の世界でいうところのダッチワイフだ。マモルの初めてはリサに取っておけばいい)

 しかし、マモルはどうしてこんなにリサに一途なのだろうか。ずっとひどい仕打ちを受けて、しかも、今やキースの女だ。理解に苦しむが、恋愛は理屈じゃないからな。

 マモルの説得には成功したようだ。元気になってきた。大丈夫だ。行けそうな気がする。俺は英雄だ。やれる機会は相手がホムンクルスだろうと逃さない。

「そうか、では、遠慮しないでやらせてもらう。だが、まずは風呂と食事だな」

 俺はアンジェラもどきに示されたドアを開けた。白っぽい修行部屋とは打って変わって、真っ暗な部屋にランプが灯っていた。

 テーブルとベッドがあり、奥にガラス張りの浴室が見えた。テーブルの上には料理が並んでいる。

「ハンバーグ!? ライス付!?」

「けけけ、お前の好物を順番に再現してやるから、楽しみにしておけ。じゃあ、また後でな」

 あのモモッて魔法使いはいったい何者だ? 

 俺はゆったりと風呂に浸かり、ハンバーグをペロリと平らげ、アンジェラもどきとベッドインした。

「ゲッゲッゲッ」

 その声、やめてくれねえかな……。
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