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ダンジョン編(殺人鬼)

ベストフレンド

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―― 覚えていない男の憑依視点

 俺は全く覚えていない男子生徒に憑依していた。四班の男だ。憑依した人物は、自分の容姿を頭の中でよくイメージするので、憑依した人物の容姿は分かる。だが、自分の名前は考えたりしないので、名前は分からない。

 憑依した男の視界の中で、懐かしい顔が山口と言い争っている。俺とクラスで一番仲がよかった佐竹だ。

「山口、お前、また桐木を殺そうとしたら、俺はもう手を貸さないからな」

「殺す訳ないじゃないですか。スキルがまだよく分かっていなくて、手加減の仕方が分からないんですよ。それよりも、桐木さんはこっちを殺す気でしたよ」

「お前が俺が話す前に攻撃するからだっ。俺が最初に話す約束だったろうが」

「カウンターが勝手に作動したのですよ。桐木さんが何か仕掛けて来るつもりだったのではないでしょうか」

「カウンターは抑えとけよ。まずは俺が一人で話して来るから、ここで待っていろよ」

 そう言い残して、佐竹は三班の方に歩いて行った。

 山口が佐竹の姿が見えなくなるまで見守っている。なぜか憑依している男が山口を恐れている。他の三人も落ち着きがなくなって来た。

「ふう、やっと邪魔者が居なくなりました。さて、あなたたちには、私のために死んでもらいますよ」

 山口の姿がゆらりとしたかと思ったら、奴の手刀が憑依していた男の心臓を貫いていた。即死だ。

 俺は次々に憑依先を変えるが、変わった瞬間に即死させられた。全く何もできず、ただ殺されるだけだった。あっという間だった。

(こいつっ、全員殺しやがった!)

―― そして、俺は佐竹に憑依した

『佐竹、俺だ、桐木だ』

「桐木?」

 佐竹がキョロキョロしている。

『俺のスキルで、次に死ぬ奴とこうやって荘厳な声で話ができるんだ』

「桐木、やはりさっきので死んでしまったのか!?」

『いや、違う。ちゃんと生きている。こういうスキルなんだ』

「生きていたか。よかった……。でも、何だか変なスキルだな。待てよ。次、俺が死ぬってこと!?」

『そうだ。だが、死を回避できないわけではない。これから一緒に回避していこう。それで、まずは情報の共有だが、さっき山口がお前の班の男子生徒を全員殺したぞ』

「マジかっ、あいつっ」

 佐竹が元に戻ろうとした。

『おっと、戻っても殺されるだけじゃないか?』

 佐竹は止まった。

「あいつには俺は殺せないはずだ。俺には『絶対回避』のスキルがあり、物理攻撃は効かないんだ」

 そう言いながら、佐竹はステータスを閲覧した。

 氏名 佐竹直人さたけなおと
 水準レベル 5
 役割ロール 隠密
 技能スキル 絶対回避
 魔法スペル ヘイト
 称号タイトル 隠密同心

『四人殺して、山口はレベル10になったはずだ。恐らく何らかの魔法を習得したのだろう。ロールが分かれば、何を習得出来るかはナビゲーターが教えてくれるぞ』

「山口のロールは『魔王』だ。そうか……。俺を殺せないうちは、俺と敵対しないようにすると思っていたが、油断した。あいつらには申し訳ないことをした」

『仕方ないさ。もう半分以上死んでるんだ。全員生きているのは、委員長と市岡のところの一班だけだ。二班は恭子以外は全員死亡、三班も二人死んだ。お前の四班も四人死んで、俺の五班も四人死んだ』

「そんなにかっ!? 桐木、絵梨花ちゃんと同じ班で羨ましかったが、他の男子はどうした? 初日に絵梨花ちゃんが膨大なポイント貸しをしてくれたので、何人か死んだのだろうとは思っていたが」

『絵梨花を襲おうとして、俺を殺しに来たので、返り討ちにした。今、五班にいる俺は、絵梨花を守ることしか考えていないちょっとサイコな俺だ。かなり極端な性格で、殺人技を繰り出して来るから気をつけてくれ』

「俺にも手加減なしで向かって来たので驚いたが、あれは桐木ではないのか?」

『感情が抜けた俺だ。今、佐竹と話している俺はまともだが、あいつはヤバいから近づくなよ。俺が戻っているときは大丈夫なんだがな』

「本当におかしなスキルだな」

『色々あるんだよ。で、山口はヤバいから、佐竹、俺たちと一緒に行動しないか』

「絵梨花ちゃんと一緒ってことか。それは願ってもないことだが、サイコなお前に殺されないか?」

『絵梨花に手出ししなければ大丈夫だ。さっきサイコな俺が権田を殺してしまってな。それで、絵梨花も気をつけるって言ってくれたから、そうそう殺しはしないと思う。ちなみに、俺のこのスキルについては絵梨花も知っている』

「サイコな桐木か……、危ねえやつだな……。ところで、お前、さっきから絵梨花ちゃんを呼び捨てにしているな。許せんぞ」

『サイコな俺が頑張った結果だ。お前も頑張れ』

「くそっ、この数日、俺は山口の相手で、お前は絵梨花ちゃんの相手か。ムカつくな」

 ムカつかれるのは心外だったので、俺の苦労を知ってもらうため、俺は佐竹に十六人がどうやって死んでいったかを説明した。

「なるほど。お前もそれなりに大変だったということか。で、どうやってお前たちに接近すればいい?」

 佐竹は再び五班の方に向かって走り始めた。

『俺が一緒にいる間は俺がガイドする。いなくなったら、お前は死なないということだから、好きにすればいい。そうだな、まず、無難な加世子……、あれも無難じゃないか。絵梨花がいいか。絵梨花に遠くから話しかけよう』

「分かった」

―― 佐竹の死亡フラグは回避出来たようだ。次に俺は佐伯に臨終憑依した。
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