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ダンジョン編(殺人鬼)
女の争い
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―― 早乙女美香の憑依視点
クラスだけではなく、学校中のほとんどの女子が、リアルアイドルの市岡に夢中だった。
芸能人をも凌駕するルックスと、学年で常にトップ3に入る頭の良さ、バスケット部のエースで、家は超お金持ちで、将来は一部上場企業の社長。そのうえ、男子にも好かれていて、女子にはとても優しい。
これ以上の男子を見つけられるなら見つけて来い、と言いたい、と美香が市岡の後姿を見ながら、咆哮しているのが伝わって来た。
(ちっ、面白くねえ)
一班はこれからまたオーガを狩りに行くのだが、武器や防具はサユリの作ったものに、シオが細工をしたものを使っている。レベル1なのになかなか優秀な武器や防具だった。
そのうえ、ヨシコの薬や美香のヒールでの治療があり、セイラの説教での精神かく乱と、市岡の基礎能力だけで押し切る攻撃で、かなりの強敵も個体であれば撃破できる。
そのため、ナビゲータは単体行動を好むオーガを徹底して狩る作戦を提示していた。オーガは一体でポイント100の魔石を出す。昨日一日で20体のオーガを仕留めており、今日もすでに14体仕留めた。
一人一人が役割を果たして、チームとしてうまく回っているので、このままこの世界を生き抜けばいいと思うのだが、女子はそういう思考にはならないらしい。
戦闘中、女子は目をハートにして市岡を見ている。特に攻撃には直接参加せず、後方支援しているシオ、サユリ、ヨシコはそれが顕著だ。
この三人は市岡の武器や防具の修理はすぐに行うが、前線で治癒作業を行っている美香や精神撹乱をしているセイラのことは、結構放置している。ひどいときには、市岡が指示しないと美香やセイラのためには動かないほどだ。
昨日の反省会でもこの件については問題として取り上げられたのだが、そのときは気をつけると言っていた三人だが、いざ戦闘になるとこのありさまだ。
「防具の耐久性が落ちてきたっ。替えの防具と修理をお願いっ」
美香からサユリに防具交換の依頼が飛ぶが、サユリは市岡とオーガの交戦をはらはらしながら見守っている。
「ねえ、サユリさんっ!」
サユリがようやく気付いて、防具を美香のところまで持ってきた。
「ありがとう。これ、修理をお願いね」
美香はそれでも丁寧にサユリにお礼を言って、防具を素早く着替えて、古い防具をサユリに渡した。
「うん。すぐに直すね」
サユリはすぐに後方に下がり、美香は市岡の横まで進み、市岡にヒールをかけた。ヒールは接触型の治癒魔法で、対象に接触しないと発動できない。そのため、市岡のすぐ側に行くのだが、そのとき、オーガの攻撃対象になる。
オーガは治癒役の美香のことを邪魔だと思っているに違いない。先ほどから、美香が近づくたびに美香に攻撃が来る。今回も捨て身でヒールをしている美香にオーガの拳が迫っていた。
いつもは市岡が身を挺して美香を守るのだが、なぜか今回は市岡が反応しない。
(市岡が美香に気づいていない)
俺は市岡の動きですぐにそのことに気づいた。美香の思考でわかったのだが、美香が装備し直したグローブには、触感が吸収される細工が施してあり、市岡は美香に触れられたことに気づいていなかったのだ。
『美香、よけろっ』
俺は荘厳の声で叫んだ。それが届いたのか、美香が自分で気づいたのか、美香は寸前でオーガの攻撃をかわしたが、それでも攻撃が当たってしまい、五メートル以上飛ばされ、地面に転がった。
後方の三名が真っ青な顔をしている。
前衛にも動揺が走ったが、市岡がすぐに引き締めた。
「セイラさん、動揺するな。委員長は後ろに任せろ。俺たちはオーガに集中するんだ。そうしないと、全滅するぞ。ヨシコさん、委員長は任せたっ」
(まずい、美香が意識を失った。どんどん体温が下がっている。本当にまずいぞっ)
俺は美香の意識を乗っ取ろうと試みた。意識を失っている今なら、それが出来るような気がしたのだ。
(ヒール!)
完全に乗っ取るということはできなかったが、それでも、美香の意識を動かし、自分自身にヒールを施すことはできた。美香の鼓動が力強くなり、心拍数が安定し、体温が戻って来た。
ヨシコが美香に薬を飲ませようとしているが、その前に美香が目を覚ました。
「ヨシコ、市岡くんとセイラのために薬は取っておいて。シオもサユリも前衛の二人をよろしく。彼らはみんなの希望だから……」
美香は力を振り絞って、そう言ったまま、また気絶してしまった。
最後に視覚にはいったシオの後悔の混じった表情を見ながら、俺は美香の憑依から抜け出した。
シオのアホは市岡が身を挺して美香を守ることに嫉妬していたのだろう。日本有数の進学校で、しかも、特進クラスの生徒が、市岡が守らないと美香がどうなるかを冷静に考えることもできないのか。
(でも、よかった。美香の死を避けることができた。俺は命を救うこともできるんだな)
―― 次に俺が移動したのは、男ばかりのむさい二班のニセ山本だった。
二班には山本が二人いるが、俺が憑依したのは、双子の弟の方だ。なにもかも兄の山本よりもスペックが落ちる彼は、クラスから気の毒なことに「ニセ山本」と呼ばれていたのだった。
今度はこいつの番か。次から次へと臨終イベント続出なのか。クソな俺でも、これ以上は死なせたくないと思うぜ。
クラスだけではなく、学校中のほとんどの女子が、リアルアイドルの市岡に夢中だった。
芸能人をも凌駕するルックスと、学年で常にトップ3に入る頭の良さ、バスケット部のエースで、家は超お金持ちで、将来は一部上場企業の社長。そのうえ、男子にも好かれていて、女子にはとても優しい。
これ以上の男子を見つけられるなら見つけて来い、と言いたい、と美香が市岡の後姿を見ながら、咆哮しているのが伝わって来た。
(ちっ、面白くねえ)
一班はこれからまたオーガを狩りに行くのだが、武器や防具はサユリの作ったものに、シオが細工をしたものを使っている。レベル1なのになかなか優秀な武器や防具だった。
そのうえ、ヨシコの薬や美香のヒールでの治療があり、セイラの説教での精神かく乱と、市岡の基礎能力だけで押し切る攻撃で、かなりの強敵も個体であれば撃破できる。
そのため、ナビゲータは単体行動を好むオーガを徹底して狩る作戦を提示していた。オーガは一体でポイント100の魔石を出す。昨日一日で20体のオーガを仕留めており、今日もすでに14体仕留めた。
一人一人が役割を果たして、チームとしてうまく回っているので、このままこの世界を生き抜けばいいと思うのだが、女子はそういう思考にはならないらしい。
戦闘中、女子は目をハートにして市岡を見ている。特に攻撃には直接参加せず、後方支援しているシオ、サユリ、ヨシコはそれが顕著だ。
この三人は市岡の武器や防具の修理はすぐに行うが、前線で治癒作業を行っている美香や精神撹乱をしているセイラのことは、結構放置している。ひどいときには、市岡が指示しないと美香やセイラのためには動かないほどだ。
昨日の反省会でもこの件については問題として取り上げられたのだが、そのときは気をつけると言っていた三人だが、いざ戦闘になるとこのありさまだ。
「防具の耐久性が落ちてきたっ。替えの防具と修理をお願いっ」
美香からサユリに防具交換の依頼が飛ぶが、サユリは市岡とオーガの交戦をはらはらしながら見守っている。
「ねえ、サユリさんっ!」
サユリがようやく気付いて、防具を美香のところまで持ってきた。
「ありがとう。これ、修理をお願いね」
美香はそれでも丁寧にサユリにお礼を言って、防具を素早く着替えて、古い防具をサユリに渡した。
「うん。すぐに直すね」
サユリはすぐに後方に下がり、美香は市岡の横まで進み、市岡にヒールをかけた。ヒールは接触型の治癒魔法で、対象に接触しないと発動できない。そのため、市岡のすぐ側に行くのだが、そのとき、オーガの攻撃対象になる。
オーガは治癒役の美香のことを邪魔だと思っているに違いない。先ほどから、美香が近づくたびに美香に攻撃が来る。今回も捨て身でヒールをしている美香にオーガの拳が迫っていた。
いつもは市岡が身を挺して美香を守るのだが、なぜか今回は市岡が反応しない。
(市岡が美香に気づいていない)
俺は市岡の動きですぐにそのことに気づいた。美香の思考でわかったのだが、美香が装備し直したグローブには、触感が吸収される細工が施してあり、市岡は美香に触れられたことに気づいていなかったのだ。
『美香、よけろっ』
俺は荘厳の声で叫んだ。それが届いたのか、美香が自分で気づいたのか、美香は寸前でオーガの攻撃をかわしたが、それでも攻撃が当たってしまい、五メートル以上飛ばされ、地面に転がった。
後方の三名が真っ青な顔をしている。
前衛にも動揺が走ったが、市岡がすぐに引き締めた。
「セイラさん、動揺するな。委員長は後ろに任せろ。俺たちはオーガに集中するんだ。そうしないと、全滅するぞ。ヨシコさん、委員長は任せたっ」
(まずい、美香が意識を失った。どんどん体温が下がっている。本当にまずいぞっ)
俺は美香の意識を乗っ取ろうと試みた。意識を失っている今なら、それが出来るような気がしたのだ。
(ヒール!)
完全に乗っ取るということはできなかったが、それでも、美香の意識を動かし、自分自身にヒールを施すことはできた。美香の鼓動が力強くなり、心拍数が安定し、体温が戻って来た。
ヨシコが美香に薬を飲ませようとしているが、その前に美香が目を覚ました。
「ヨシコ、市岡くんとセイラのために薬は取っておいて。シオもサユリも前衛の二人をよろしく。彼らはみんなの希望だから……」
美香は力を振り絞って、そう言ったまま、また気絶してしまった。
最後に視覚にはいったシオの後悔の混じった表情を見ながら、俺は美香の憑依から抜け出した。
シオのアホは市岡が身を挺して美香を守ることに嫉妬していたのだろう。日本有数の進学校で、しかも、特進クラスの生徒が、市岡が守らないと美香がどうなるかを冷静に考えることもできないのか。
(でも、よかった。美香の死を避けることができた。俺は命を救うこともできるんだな)
―― 次に俺が移動したのは、男ばかりのむさい二班のニセ山本だった。
二班には山本が二人いるが、俺が憑依したのは、双子の弟の方だ。なにもかも兄の山本よりもスペックが落ちる彼は、クラスから気の毒なことに「ニセ山本」と呼ばれていたのだった。
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