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ダンジョン編(殺人鬼)
殺害計画
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田中の意識がだんだんと遠のいて行く。田中の無念さが次から次へと伝わって来るが、俺にはどうしようもない。
田中はあっけなく死んだ。
警察官になりたかったのに、というのが、田中の最後の想いだった。
(俺の肉体の中には、どんな俺が入ってるんだよっ。あんなに簡単に田中を殺すなんて)
田中の魂が体から抜け出て、俺がここに転移したときに出来た魂の道を通って、元の世界に帰って行くのが見えた。
(これが死神が俺を送りたかった理由か)
魂だけでも、日本に帰れてよかったと思うことにしよう。田中、成仏してくれ。
―― 次に俺は佐藤に憑依した。佐藤は俺の肉体のすぐ後ろの席で、こいつも五班だ。
佐藤は頭はいいが、自分勝手な男で、俺は佐藤とよく揉めたことを覚えている。具体的に何で揉めたのかは全く覚えていないが。
ヒミカの話は続いていた。
「クラスは全部で三十人で、今一人死んだから二十九人だ。これから何人も死んで行く。いちいち気にしなくていい」
佐藤の目はチラチラと死んでしまった田中を見ていた。すると田中の遺体が徐々に透明になっていき、消えてしまった。血の跡もきれいに消えてしまったが、真っ赤な宝石のようなマッチ箱ぐらいの大きさの石が残った。
「そこの一番後ろの女子、石を拾って持って来い」
ヒミカの視線が俺の列の一番後ろに向いている。
佐藤の後ろの方で椅子を引く音が聞こえて、指名された女子生徒が、赤い石を拾って、ヒミカのところに持って行った。佐藤の横を通過したときにふわっとシャンプーのいい匂いがした。女子生徒がヒミカに石を渡すときに顔が見えた。
(絵梨花だっ! うわっ、めちゃくちゃ可愛いじゃないか)
二十五年ぶりに見た御堂絵梨花は輝いていた。
(こんなに可愛いかったっけ? ピッカピカじゃないかっ。俺がおっさんになったから、そう思うだけか!?)
『若いって、素晴らしいっ!』
しまった。感極まって、また、おっさん臭い言葉を荘厳な言葉で発してしまった。
佐藤が驚いてキョロキョロしているが、まさか自分の口から出たとは思うまい。かなり大きな声を出してしまったと思ったが、ヒミカの耳には入らなかったようだ。周りの生徒にも変化はない。
(どうやら、この荘厳な声は本人にしか聞こえないようだな)
俺はずっと絵梨花の顔をマジマジと見ているのだが、佐藤の野郎は絵梨花の胸や腰のあたりを見始めた。
(このエロガキがっ。絵梨花の天使さを汚すんじゃねえっ)
俺は佐藤の目の位置を絵梨花の顔の辺りに変えるようにと頑張ったのだが、佐藤の意志の力には勝てなかった。であれば、意思がない部分なら勝てるのではないかとふと閃いた。自律神経であれば横入り出来るのではないかと思ったのだ。
ヒミカは丹念に赤い石を調べている。
そのヒミカを見ていた佐藤の股間が盛り上がって来た。
(よし、成功だ)
俺は佐藤の股間を立たせることに成功した。佐藤はびっくりして自分の股間を落ち着かせようと焦っているが、高校生の股間は、一度しっかり立ったら、なかなか引かないことを俺は自分の経験から知っていた。
(高校時代は元気満々だったからな)
そんな佐藤の自分との戦いのことを知る由もないヒミカは、石を見終わって、満足げに話し始めた。
「いい純度の魔石だ。お前たち、これが魔石だ。魔物を狩って魔石を採取するのが、お前たちの仕事だ。ノルマを達成できない場合は、お前たち自身に魔石になってもらう。そのつもりでしっかり働け。分かったな」
誰も返事ができない。下手なことを言ったら殺されるかもしれないし、そもそもこんな話をいきなり信じることはできない。ただ、逆らったら殺されることだけは、田中の死んでいった姿を見て、確実に理解していた。
佐藤もびびって、股間の元気がなくなってしまった。だが、俺にとっては、「臨終憑依」の可能性を感じさせてくれる輝かしい第一歩だった。
「これはお前への褒美だ。12000ポイントの魔石だ。席に戻れ」
絵梨花がヒミカから石を受け取り、青ざめた顔で席に戻った。
(12000ポイントって、120日分のノルマだな。これは下手をすると、生徒同士の殺し合いになるぞ)
「さっそくダンジョンに行ってもらうが、すぐに死なれても困る。案内役をつけてやる。ダンジョンではナビのアドバイスに従え。それでは、行くがよい」
ヒミカがそう言った後、宙に浮く感じがして、転送が始まった。五班は石壁に囲まれた五メートル四方程度の薄暗い部屋に転送された。ダンジョンというよりも、何かの建物の中の部屋という感じだ。他の班の姿は見えない。
五班は田中が欠けて五人だ。俺が憑依している佐藤と、佐藤とよくとつるんでいた名前を思い出せない二人と、絵梨花、そして、桐木こと高校生の俺だ。俺は佐藤の目を通して二十五年前の自分の姿を改めて確認した。
(若いなあ、俺)
俺の高校生の体は、魂がなくても動くように死神が細工した状態だ。上手く動いているように見える。
絵梨花がスカートの裾についた埃を払っているのを、佐藤がずっと見ている。
(こいつ、ちょっと挙動が変態っぽいが、思春期の男ってこんなもんだっけか。だが、こいつの絵梨花への気持ちは、悲しみと憎しみが混じったような感情だな)
心なしか絵梨花が佐藤たちを避けて、高校生の俺の近くにいようとしているのを感じた。
(絵梨花が俺よりも佐藤たちの方を警戒している?)
普通なら、今殺人を犯したばかりの俺の方を避けるはずだ。
「五班は地下の中央区画に転移しました。一番近い班は三班で二キロほど北です」
見知らぬ少女が部屋に遅れて現れて、話を始めた。白い軍服姿の中学生ぐらいの少女だ。ショートボブの金髪碧眼で、人形のように美しい。
「誰?」
佐藤の問いに少女は答えた。
「ナビゲーターです。五班を担当します」
(この少女がナビゲーターか。可愛いな。それにしても、一番近い班と二キロ離れているということは、地下はかなり広いということか)
「最初に皆様のステータスをスキャンします。『ステータス』と念じると、ご自分のステータスが分かりますので、やってみて下さい」
佐藤たちが少し嬉しそうだ。異世界といえば、ステータスウィンドウが定番だからだろう。
佐藤の脳内にステータス画面が現れた。
水準 1
役割 剣士
技能 剣術
魔法
称号 初級剣士
佐藤ががっかりしている。佐藤は剣道部だったはずだ。リアルとあまり変わらないのは面白くないだろう。絵梨花が何だか顔が赤いように見えるが、絵梨花のステータスがとても気になる。
「分析しました。まずは手始めに、スライムと戦ってみましょう。魔石ポイントは1です。探索します」
(ポイントたったの1かっ!)
ポイント1と聞いて、佐藤が不穏な計画を高速で立て始めた。まずは、高校生の俺を殺すつもりらしい。俺もノルマ達成には、クラスメートを殺すのが一番手っ取り早いと思っていた。
佐藤は仲間の二人に耳打ちしている。物騒な俺を殺して魔石ノルマに余裕を持たせた上で、絵梨花を自分たちの女にして、この世界を生き抜こうと誘ってやがる。
(こいつらは田中とは違う。女子を力で汚そうとする腐った奴らは許さん)
「スライムを発見しました。30メートル先に3匹います」
ナビゲーターが容赦なく魔石採掘に駆り立ててくる。
「あなたの名前を教えて?」
絵梨花がナビゲーターに名前を聞いている。絵梨花を見ていると何だかほっこりする。
「カナといいます」
「歳はいくつなの?」
絵梨花がカナと話をしながら先に部屋を出た。
次に死ぬのは佐藤なので、心配はしなくていいのだろうが、高校生の俺は、部屋を出て行く絵梨花を無表情に眺めている。
(高校生の俺、大丈夫かな……)
佐藤が絵梨花の後ろ姿を見ているときに分かった。佐藤は数日前に絵梨花に告白してフラれていた。プライドの高い佐藤は、絵梨花を逆恨みしている。俺を殺した後で、絵梨花に乱暴するつもりだ。
(最低な奴だ。このまま死ぬのを見届けてやる)
そして、高校生の俺の役割が、またしても始動することになる。
田中はあっけなく死んだ。
警察官になりたかったのに、というのが、田中の最後の想いだった。
(俺の肉体の中には、どんな俺が入ってるんだよっ。あんなに簡単に田中を殺すなんて)
田中の魂が体から抜け出て、俺がここに転移したときに出来た魂の道を通って、元の世界に帰って行くのが見えた。
(これが死神が俺を送りたかった理由か)
魂だけでも、日本に帰れてよかったと思うことにしよう。田中、成仏してくれ。
―― 次に俺は佐藤に憑依した。佐藤は俺の肉体のすぐ後ろの席で、こいつも五班だ。
佐藤は頭はいいが、自分勝手な男で、俺は佐藤とよく揉めたことを覚えている。具体的に何で揉めたのかは全く覚えていないが。
ヒミカの話は続いていた。
「クラスは全部で三十人で、今一人死んだから二十九人だ。これから何人も死んで行く。いちいち気にしなくていい」
佐藤の目はチラチラと死んでしまった田中を見ていた。すると田中の遺体が徐々に透明になっていき、消えてしまった。血の跡もきれいに消えてしまったが、真っ赤な宝石のようなマッチ箱ぐらいの大きさの石が残った。
「そこの一番後ろの女子、石を拾って持って来い」
ヒミカの視線が俺の列の一番後ろに向いている。
佐藤の後ろの方で椅子を引く音が聞こえて、指名された女子生徒が、赤い石を拾って、ヒミカのところに持って行った。佐藤の横を通過したときにふわっとシャンプーのいい匂いがした。女子生徒がヒミカに石を渡すときに顔が見えた。
(絵梨花だっ! うわっ、めちゃくちゃ可愛いじゃないか)
二十五年ぶりに見た御堂絵梨花は輝いていた。
(こんなに可愛いかったっけ? ピッカピカじゃないかっ。俺がおっさんになったから、そう思うだけか!?)
『若いって、素晴らしいっ!』
しまった。感極まって、また、おっさん臭い言葉を荘厳な言葉で発してしまった。
佐藤が驚いてキョロキョロしているが、まさか自分の口から出たとは思うまい。かなり大きな声を出してしまったと思ったが、ヒミカの耳には入らなかったようだ。周りの生徒にも変化はない。
(どうやら、この荘厳な声は本人にしか聞こえないようだな)
俺はずっと絵梨花の顔をマジマジと見ているのだが、佐藤の野郎は絵梨花の胸や腰のあたりを見始めた。
(このエロガキがっ。絵梨花の天使さを汚すんじゃねえっ)
俺は佐藤の目の位置を絵梨花の顔の辺りに変えるようにと頑張ったのだが、佐藤の意志の力には勝てなかった。であれば、意思がない部分なら勝てるのではないかとふと閃いた。自律神経であれば横入り出来るのではないかと思ったのだ。
ヒミカは丹念に赤い石を調べている。
そのヒミカを見ていた佐藤の股間が盛り上がって来た。
(よし、成功だ)
俺は佐藤の股間を立たせることに成功した。佐藤はびっくりして自分の股間を落ち着かせようと焦っているが、高校生の股間は、一度しっかり立ったら、なかなか引かないことを俺は自分の経験から知っていた。
(高校時代は元気満々だったからな)
そんな佐藤の自分との戦いのことを知る由もないヒミカは、石を見終わって、満足げに話し始めた。
「いい純度の魔石だ。お前たち、これが魔石だ。魔物を狩って魔石を採取するのが、お前たちの仕事だ。ノルマを達成できない場合は、お前たち自身に魔石になってもらう。そのつもりでしっかり働け。分かったな」
誰も返事ができない。下手なことを言ったら殺されるかもしれないし、そもそもこんな話をいきなり信じることはできない。ただ、逆らったら殺されることだけは、田中の死んでいった姿を見て、確実に理解していた。
佐藤もびびって、股間の元気がなくなってしまった。だが、俺にとっては、「臨終憑依」の可能性を感じさせてくれる輝かしい第一歩だった。
「これはお前への褒美だ。12000ポイントの魔石だ。席に戻れ」
絵梨花がヒミカから石を受け取り、青ざめた顔で席に戻った。
(12000ポイントって、120日分のノルマだな。これは下手をすると、生徒同士の殺し合いになるぞ)
「さっそくダンジョンに行ってもらうが、すぐに死なれても困る。案内役をつけてやる。ダンジョンではナビのアドバイスに従え。それでは、行くがよい」
ヒミカがそう言った後、宙に浮く感じがして、転送が始まった。五班は石壁に囲まれた五メートル四方程度の薄暗い部屋に転送された。ダンジョンというよりも、何かの建物の中の部屋という感じだ。他の班の姿は見えない。
五班は田中が欠けて五人だ。俺が憑依している佐藤と、佐藤とよくとつるんでいた名前を思い出せない二人と、絵梨花、そして、桐木こと高校生の俺だ。俺は佐藤の目を通して二十五年前の自分の姿を改めて確認した。
(若いなあ、俺)
俺の高校生の体は、魂がなくても動くように死神が細工した状態だ。上手く動いているように見える。
絵梨花がスカートの裾についた埃を払っているのを、佐藤がずっと見ている。
(こいつ、ちょっと挙動が変態っぽいが、思春期の男ってこんなもんだっけか。だが、こいつの絵梨花への気持ちは、悲しみと憎しみが混じったような感情だな)
心なしか絵梨花が佐藤たちを避けて、高校生の俺の近くにいようとしているのを感じた。
(絵梨花が俺よりも佐藤たちの方を警戒している?)
普通なら、今殺人を犯したばかりの俺の方を避けるはずだ。
「五班は地下の中央区画に転移しました。一番近い班は三班で二キロほど北です」
見知らぬ少女が部屋に遅れて現れて、話を始めた。白い軍服姿の中学生ぐらいの少女だ。ショートボブの金髪碧眼で、人形のように美しい。
「誰?」
佐藤の問いに少女は答えた。
「ナビゲーターです。五班を担当します」
(この少女がナビゲーターか。可愛いな。それにしても、一番近い班と二キロ離れているということは、地下はかなり広いということか)
「最初に皆様のステータスをスキャンします。『ステータス』と念じると、ご自分のステータスが分かりますので、やってみて下さい」
佐藤たちが少し嬉しそうだ。異世界といえば、ステータスウィンドウが定番だからだろう。
佐藤の脳内にステータス画面が現れた。
水準 1
役割 剣士
技能 剣術
魔法
称号 初級剣士
佐藤ががっかりしている。佐藤は剣道部だったはずだ。リアルとあまり変わらないのは面白くないだろう。絵梨花が何だか顔が赤いように見えるが、絵梨花のステータスがとても気になる。
「分析しました。まずは手始めに、スライムと戦ってみましょう。魔石ポイントは1です。探索します」
(ポイントたったの1かっ!)
ポイント1と聞いて、佐藤が不穏な計画を高速で立て始めた。まずは、高校生の俺を殺すつもりらしい。俺もノルマ達成には、クラスメートを殺すのが一番手っ取り早いと思っていた。
佐藤は仲間の二人に耳打ちしている。物騒な俺を殺して魔石ノルマに余裕を持たせた上で、絵梨花を自分たちの女にして、この世界を生き抜こうと誘ってやがる。
(こいつらは田中とは違う。女子を力で汚そうとする腐った奴らは許さん)
「スライムを発見しました。30メートル先に3匹います」
ナビゲーターが容赦なく魔石採掘に駆り立ててくる。
「あなたの名前を教えて?」
絵梨花がナビゲーターに名前を聞いている。絵梨花を見ていると何だかほっこりする。
「カナといいます」
「歳はいくつなの?」
絵梨花がカナと話をしながら先に部屋を出た。
次に死ぬのは佐藤なので、心配はしなくていいのだろうが、高校生の俺は、部屋を出て行く絵梨花を無表情に眺めている。
(高校生の俺、大丈夫かな……)
佐藤が絵梨花の後ろ姿を見ているときに分かった。佐藤は数日前に絵梨花に告白してフラれていた。プライドの高い佐藤は、絵梨花を逆恨みしている。俺を殺した後で、絵梨花に乱暴するつもりだ。
(最低な奴だ。このまま死ぬのを見届けてやる)
そして、高校生の俺の役割が、またしても始動することになる。
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