上 下
13 / 14

ジョージ

しおりを挟む
「フローラが再婚しただと?」

 執務室で、ジョージはマルクスを睨んだが、マルクスは飄々としていた。今日はセリーヌは体調不良ということで、同席していない。

「はい、それよりも、陛下。法王ですが、諜報部が検挙に踏み切りました。孤児院で人身売買まで行っていて、その上、娼館経営にも関わっており、証拠不十分でしたが、問答無用で検挙したそうです」

「何だと? そんな無茶なことをスタンレー卿が!?」

「陛下、お父上からスタンレー卿がブチ切れたときのことをお聞きになったことはないのですか?」

 ジョージは知っていた。だからこそ、フローラを簡単には離縁出来ず、セリーヌを使ってフローラ自身にも離縁を望むようにしたのだ。

「それで、法王は?」

「検挙中に銃撃戦となり、スタンレー卿に射殺されました」

「何っ!?」

「まあ、現行犯ですから。仕方ないです」

「し、しかし、六功臣だぞ」

「スタンレー卿も六功臣ですし。まあ、私もですが。それで、まずいことに陛下が法王の悪事に加担していたという証拠が出て参りまして」

「何を言う。濡れ衣だ」

「陛下が法王に資金提供をしているかをセリーヌ皇后に確認したところ、頻繁に資金をお出ししていると仰ってました」

「セリーヌは純粋で、何も深く考えず、そのまま返答するのだ。それはそなたも知っておろう」

「いいえ、優しい性格だとはお聞きしておりましたが、深く考えないというのは、存じ上げないです。深く考えないような人物を皇后に推挙されるはずがないですし、陛下の言い逃れとしか聞こえないです」

「言い逃れとは何だっ!?」

「陛下、お父上は立派なお方でしたが、陛下は違うようですな。お父上からの遺言で、六功臣が全員賛成した場合には、もう五功臣ですが、皇帝の座を五功臣が推薦する人物に譲位するという条項があるのはご存知ですか?」

「もちろん知っているが、五人に減っているから無効だ。それにサーシャが行方不明ではないか」

「無効かどうかは私たちが決めます。それから、サーシャは見つかりました。フローラ様の夫になった方の母になってました」

 ジョージは全てが分かったという顔になった。

「お前たち、邪魔になった法王を殺したなっ」

 マルクスはそれには答えず、背筋を伸ばし、襟を正して、ジョージに向かい合った。

「マルクス・サーグランデが先帝に変わって、ジョージ・リッチモンドに申し渡す。ジョージ・リッチモンドは、皇帝に不適格であると五功臣が判断した。ジョージ・リッチモンドは、速やかに五功臣が推挙するフローラ・スタンレーに皇帝の座を譲位せよ」

 ジョージは驚いて目を見開いた。

「フローラだとっ!? そんなバカことが許されるものかっ!」

 ジョージがマルクスにつかみ掛かろうとしたとき、衛兵を引き連れて、カイザー将軍が執務室に入って来た。

「ジョージ、この場で処刑されたいのか? 出来れば、盟友の息子は殺したくはないぞ」

 カイザー将軍の重厚な声に、ジョージは膝を落として、がっくりとうなだれた。

 ジョージは北の流刑島にセリーヌと一緒に流された。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。

加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。 そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

処理中です...