上 下
18 / 41

準備を始めました

しおりを挟む
 ルークは物腰が柔らかく、聡明で理知的だった。

(この世界にもこんな人がいるんだ)

 この世界には俺様かその他大勢しかいないと思っていた。

 ジョージ=俺様、父=俺様、兄その1=俺様、兄その2=俺様、セバス=その他大勢

 という感じで。

 ルークは帝国の貴族の次男だと自己紹介した。アードレー家はさすがに人材豊富だ。帝国と取引したいと提案すれば、すぐに最適な人物をアサインしてくる。

 ただ、それにしても若すぎやしないだろうか。自分が20歳だということを棚に上げて、商売経験は大丈夫かと心配していたら、それが顔に出てしまったらしい。

「私は25歳ですが、それなりに経験を積んでますし、こう見えて、帝国ではそこそこ顔がきくんです」

「あ、そんなつもりは……」

「いいんです。お互い思ったことはどんどんぶつけ合っていきたいと思います。どれだけ本音をぶつけ合ったかで、信頼関係が変わると思っています」

 そういって、彼は私にウィンクした。

 ウィンクされたのって、生まれて初めてではないだろうか。私は恥ずかしくなってしまって、慌ててルカの方を向いた

「ルカ、何か聞くことない?」

「私は、ない、です……」

 そうだった。すずきさゆりが入ってくる前は、私はイケメン男性の前ではこんな感じだった。

 ジョージも顔だけはよかったのよね。

「では、私からいくつかお願いしたいです。まず、帝都までの馬車にこういったものを取り付けていただけますか」

 私はコイル状に巻いたスプリングの図をルークに提示した。

「これは何ですか?」

「スプリングといいます。鉄の線を巻いたものです。馬車の荷台と車軸の間に取り付けることで、振動を吸収してくれます。商品の破損を防げますし、お尻も痛くなりません」

「なるほど。さっそく技術のものに見せてみます」

「次に持ち出す商品ですが、今回はサンプルを持っていくつもりですが、王国の特産品であるシルク、陶磁器のほかに帝国で需要が出そうなものはございますか?」

「僕の考えでいいですか?」

「はい、エーベルバッハ様のお考えをお聞かせください」

「ルークでいいですよ。そうですね。扇子を持ち帰ると貴婦人に喜ばれます。あとは金細工や宝石もですかね」

「ルークさんのアイデアは、貴婦人が喜ばれるもの限定ですか?」

(この色男め。きっと女には不自由しないってところかしら)

「い、いいえ、そんなことはないです。私の姉や妹からお土産をねだられてまして。それに帝国の男性は質実剛健で、ほとんど自分にお金を使わないのです。もっぱら女性にプレゼントを贈る習慣がございまして……」

「まあ、羨ましい習慣ですこと」

「王国の職人は手先が器用で、精微な装飾が実に見事で、王国物は本当に喜ばれます」

「そうなのですね。逆に帝国からは何を持ち帰ると良いとお考えですか?」

「それは実際に帝国で見ていただくと良いと思うのですが、特産品としては、絨毯、毛皮、お茶などがございます。エリーゼ様とルカ様に効率よくご紹介する予定でおります」

「分かりました。荷馬車は今回は五台で行きましょう。警備はお任せしてよろしいでしょうか」

「はい、警備は帝国の得意分野です。お任せください」

 ルークとの打ち合わせは終了した。準備に一ヶ月欲しいということで、今後は、週に一度、定例会を持つことにして、今日はお別れした。

(そうか、警備も帝国の特産品ということね。色々と物騒だから、警備会社は欲しいと思っていたのよね)

 今はマリアンヌと仲良くしているため、王妃の威光が効いていて、「侍女の店」は今のところ安泰だが、私はマリアンヌとの仲は長くは続かないと見ている。

 王妃として盤石な体制を整えるため、資金面で彼女をサポートしている私を今は自由にしているが、いつかは自分の思い通りにしたくなるはずだ。

 そのため、後宮依存のビジネスから、別のビジネスへとシフトを進めていたのだが、マリアンヌは想定よりも早く牙を剥いて来たのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼い王太子に気に入られて困っています

高八木レイナ
恋愛
父親に婚活しなさいと命じられた田舎貴族の娘が、王城で行儀見習いとして働いていくうちに、なぜか幼い王太子に懐かれていく話。 ※小説家になろう、カクヨム、ベリーズカフェにも掲載中です。

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

深凪雪花
BL
 候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。  即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。  しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……? ※★は性描写ありです。

公爵閣下のご息女は、華麗に変身する

下菊みこと
ファンタジー
公爵家に突然引き取られた少女が幸せになるだけ。ただのほのぼの。 ニノンは孤児院の前に捨てられていた孤児。服にニノンと刺繍が施されていたので、ニノンと呼ばれ育てられる。そんな彼女の前に突然父が現れて…。 小説家になろう様でも投稿しています。

転生を繰り返した私。今世も穏やかな人生を希望します。

吉井あん
恋愛
何度も転生を繰り返した私。 7度目の転生で、貧乏男爵家の娘ダイナとして生まれ変わりました。 身分制度のある世界での貴族。これだけで安穏とした人生は保障されたもの。 思いが叶った!と喜ぶのも束の間、経済的理由で侯爵家へ侍女として奉公に出されてしまいます。 だけど、過去の悲惨な人生に比べたらなんてことない! それなりに懸命に生きるうちに、仕事が認められたり、素敵な恋人ができたり。 そんな人生の物語。 強かなダイナの、のんびり異世界生活譚です。

僕はおよめさん!

四葉 翠花
BL
幼い頃、娼館に売られて大好きな幼馴染と引き離されたミゼアス。時は流れ、紆余曲折の末にとうとう幼馴染と結ばれることができた。しかし幼馴染はどうも危なっかしいところが多い。 「僕がしっかりして、立派なおよめさんにならなくちゃ……!」 花嫁修業に励む元男娼の、のんびりしたり波乱万丈だったりする日常。 ■『不夜島の少年』の続編ですが、こちらからでもお読みいただけます。 ■第二章は『ヴァレン兄さん、ねじが余ってます』と時系列が重なっています。

拝啓、借金のカタに鬼公爵に無理やり嫁がされましたが、私はとても幸せです。大切にしてくれる旦那様のため、前世の知識で恩返しいたします。

伊東万里
恋愛
手軽に読んでいただけるよう、短めにまとめる予定です。 毎日更新できるよう頑張ります。 【あらすじ】 実家の子爵家の借金の返済猶予の交渉ために、鬼人と呼ばれ恐れられていた20歳も年上の公爵の元に嫁がされることとなった子爵家の娘。 実母が亡くなってからは、継母や腹違いの妹に虐げられ、実の父も庇ってくれず、実家に居場所なんてなくなっていた。心を殺して生きてきた娘は、無理やり嫁がされた鬼公爵家で、大事にされすぎ、驚きを隠せない。娘の凍り付いた心が徐々に溶けていき、喜怒哀楽の表情がでてくる。 そんな娘が、前世で極めた薬学、経済学の記憶をフル活用し、鬼人の旦那様に感謝の気持ちで恩返しをする話。 <アルファポリスのみに投稿しています>

え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。

ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。 ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」 ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」 ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」 聞こえてくる声は今日もあの方のお話。 「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16) 自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。

処理中です...