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毒を飲んだ
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後宮の入り口近い鳳凰殿は王妃の邸宅だが、ここにはもう王妃の私と侍女の二人しかいない。
「王妃様、陛下からの勅命でございます」
侍女の差し出した水差しとグラス。これには致死量の毒が含まれている。これを飲むと私は死ぬ。
「ああ、ジョージは私を信じてくれなかったのね。少しでも期待した私が愚かだったわ」
何も言わずに毒を飲むつもりでいたが、つい恨み言を言いたくなってしまった。まだこの世やあの人に未練があるのだろうか。
私が十六歳で社交界デビューしたとき、まだ王子だったジョージに見初められて、何度かお会いした後に婚約、そして、結婚。
その後、ジョージは王太子になり、国王に即位し、側室が何名かいたけれど、私を一番に愛してくれた。
しかし、マリアンヌが新しく側室に迎えられてから、私の幸せの歯車が狂い始めた。
ジョージの愛は私からマリアンヌに移って行き、私はいつしかジョージから煙たがれ、うるさいと罵られるようになり、ついには暴力を振るわれるようになってしまった。
そして、側室の子供が毒殺された罪を着せられ、人でなし王妃と大っぴらに批判され、子供を毒殺した毒と同じ毒をあおれと、ジョージから命じられたのだ。
私が水差しを眺めるだけで何もしないのに剛を煮やしたのか、侍女がグラスに水差しの水を入れ、どうぞと私に差し出す。
あなたが飲みなさい、と言いたくなる。このエリーゼという侍女を信用したことも、愚かであった。エリーゼはマリアンヌの実の姉だったのだ。妹を王妃にするために邪魔な私を殺す。姉妹で周到に用意された罠に、無防備にはまってしまった愚かな私。
(愚か者が死ぬのは当然のこと。自業自得ね)
私は一気に差し出された毒を飲み干した。すぐに食道と胃が焼けるように痛くなる。
その後、すぐに飲んだ水を吐いてしまった、と思ったら、吐いたのは真っ赤な血だった。
意識が薄れて来た。思い出すのは、社交界デビューのときに、最初に私とダンスを踊ってくれたジョージの優しい微笑み……。ああ、ジョージ。私はあなたを愛していたのに……。
朦朧とした意識の中に突然紛れ込んで来た前世の記憶、日本、すずきさゆり、アラサーのOL……。
私にはもう驚く力も残っていなかった。それに死んで行く私にはどうでもいいことだった。
「王妃様、陛下からの勅命でございます」
侍女の差し出した水差しとグラス。これには致死量の毒が含まれている。これを飲むと私は死ぬ。
「ああ、ジョージは私を信じてくれなかったのね。少しでも期待した私が愚かだったわ」
何も言わずに毒を飲むつもりでいたが、つい恨み言を言いたくなってしまった。まだこの世やあの人に未練があるのだろうか。
私が十六歳で社交界デビューしたとき、まだ王子だったジョージに見初められて、何度かお会いした後に婚約、そして、結婚。
その後、ジョージは王太子になり、国王に即位し、側室が何名かいたけれど、私を一番に愛してくれた。
しかし、マリアンヌが新しく側室に迎えられてから、私の幸せの歯車が狂い始めた。
ジョージの愛は私からマリアンヌに移って行き、私はいつしかジョージから煙たがれ、うるさいと罵られるようになり、ついには暴力を振るわれるようになってしまった。
そして、側室の子供が毒殺された罪を着せられ、人でなし王妃と大っぴらに批判され、子供を毒殺した毒と同じ毒をあおれと、ジョージから命じられたのだ。
私が水差しを眺めるだけで何もしないのに剛を煮やしたのか、侍女がグラスに水差しの水を入れ、どうぞと私に差し出す。
あなたが飲みなさい、と言いたくなる。このエリーゼという侍女を信用したことも、愚かであった。エリーゼはマリアンヌの実の姉だったのだ。妹を王妃にするために邪魔な私を殺す。姉妹で周到に用意された罠に、無防備にはまってしまった愚かな私。
(愚か者が死ぬのは当然のこと。自業自得ね)
私は一気に差し出された毒を飲み干した。すぐに食道と胃が焼けるように痛くなる。
その後、すぐに飲んだ水を吐いてしまった、と思ったら、吐いたのは真っ赤な血だった。
意識が薄れて来た。思い出すのは、社交界デビューのときに、最初に私とダンスを踊ってくれたジョージの優しい微笑み……。ああ、ジョージ。私はあなたを愛していたのに……。
朦朧とした意識の中に突然紛れ込んで来た前世の記憶、日本、すずきさゆり、アラサーのOL……。
私にはもう驚く力も残っていなかった。それに死んで行く私にはどうでもいいことだった。
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