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商業ギルド

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「あ、あのようなところ、シルフ様には不適切ですっ」

 可憐なイライザがえらい剣幕だ。

「そうなのですか。私のような身元もよく分からない子供も、受け入れてくれると聞いています」

「それはその通りなのですが、男の子も女の子も、低賃金で便利に使われるだけです。シルフ様のような綺麗な男の子は、いったいどんな目に遭うか……」

 あれ? 聞いていたのとは、えらく違うな。

 この制度はママの発案だ。

 王は孤児たちのよい受け皿が出来たみたいなことを言っていたが、臣下から虚偽の報告をされていたんじゃないか?

「そうなのですか。王国の福祉事業の成功例と聞いていました」

「父が話してましたが、王妃様のせっかくのご好意をギルドが台無しにしていると……」

 むむむ、ママの純粋な気持ちを踏みにじるとは許せないな。

 もし、それが本当なら、何とかしなければ。

「であれば、この目で実態を見る必要があります。ますます行ってみたくなりました」

「そんな……。シルフ様が行くようなところではございません。いかがでしょうか。父に話してみますので、うちの商会で商売を始められては?」

「ありがたいお言葉ですが、辞退させて頂きます。厳しい環境に身を置かないと、修行になりませんので」

 正直、この控えめなのか、積極的なのかよく分からないお嬢様からも逃れたかった。

「では、せめて、商業ギルドに私どもから口添えだけはさせて下さい。シルフ様はエドモンド商会の恩人だと」

「はあ、馬車の車輪を直しただけですが……」

 俺は遠慮したかったのだが、何が何でも口添えするというので、放っておくことにした。

***

 商業ギルドのホールに入ると、多くの人たちで賑わっていた。

 丁稚奉公の習慣があると座学の授業でマリア先生から聞いていたが、確かに子供の姿もちらほら見える。

 しかし、どうしてこうなったのか、イライザがエマと一緒について来ていた。

 一応、俺が先頭を歩いているが、姉と使用人に付き添われて来た弟みたいになっている。

「シルフ様、受付に並ぶ必要はございません。ギルドマスターを呼び出すようにエマに申し付けますので、しばらくこちらでお座りになってお待ちください」

「あの、イライザさん。私は貴族でも何でもない単なる子供ですので、普通に受付したいのですが……」

 イライザはいったい俺を誰だと思ってるんだ?

 普通の町民の服装だし、まあ少し顔はいいみたいだが。

 魔法が使えるから、貴族のお坊ちゃんだと思っているのだろうか。

「貴族の方ではないのですかっ!?」

 あれ? 何だかイライザの鼻息が荒いような気がする。

「はい、貴族ではないです」

 嘘は言っていない。

 貴族ではなく王族だ。

「貴族の方でないのであれば、なおさら親しくさせて頂きたいですわっ」

 どうしたというのだ。よりグイグイ来るようになったぞ。

 参ったな。もう面倒だがら、好きにさせよう。

「分かりました。イライザさんのお好きなようにしていただいて結構です」

 俺は魔法が使えるということが、どんなに希少なのかを全く知らなかったのである。

 魔法が使えて、上品な美少年で、頭脳明晰で、まだ誰からも唾づけされていないなんて、千年に一度の掘り出し物なのだ。

 しかも、貴族でないから、イライザは俺と結婚もできると思ったらしい。

 イライザだけではなく、女性にとって、俺は全力で確保すべき超優良物件なのであった。
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