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帝国の皇子たち

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 私は数週間ぶりに授業に戻った。

 実技は学ぶものがないのだが、魔法理論は学ぶべきことが多いので、早く授業に戻りたかった。

 すっかり元通りになった私を皆は喜んで迎えてくれた。

 ただ、諦めてくれたかと思っていたアンソニー王子が、朝から纏わりついてきて閉口した。

 国王陛下から叱られたのはフランソワ王女だけで、アンソニー王子は王女を止めようとしたということで、逆に褒められたようなのだ。

「アンソニー様とお言葉を交わすと、フランソワ様に罰せられます。ご容赦ください」

「妹はもうサーシャ嬢には手出ししない。そなたは私の側妃に迎え入れることにしたのだからな」

 は? 何を言っているのだ。このおめでたい男は。

「おたわむれを。平民の私にそのような栄誉を受ける資格はございません」

 王族に嫁げるのは貴族だけという決まりがある。

「サーシャ嬢の成績であれば、魔法使い認定は確実であろう。さすれば、貴族になるではないか。私に嫁ぐことができるのだ。喜ばしいことであろう?」

 魔法使いに認定されると、一代限りではあるが、貴族に叙される。

 王子に嫁ぐことを夢見る女性は多いと思うが、王子によると思う。

 アンソニー王子の容姿は悪くはないが、傲慢で卑怯で、女性をアクセサリの一つと勘違いしているような男の嫁になどなりたくはない。

 地位とお金があるなら、まだ考える余地はあるが、小国の第三王子ではたかが知れている。

 こんな男、十点満点で二点だ。

「では、魔法使い認定されましたとき、まだ私にご興味がおありでしたら、そのときにお話しくださいませ」

 とりあえず、拒否したことにはならないので、満足して頂いたようだ。やっと王子が、自分の教室に戻って行ってくれた。

 王子が私に興味を持ったきっかけも、あの投票のせいだ。本当に迷惑な話だ。

 でも、魔法使いにならなければ問題はない。私は魔法使い認定など要らないし、貴族にも興味はない。

 私はただ魔法の真理をとことん追求したいだけだ。

 王子の邪魔が入って一限目の授業には出席することが出来ず、復帰初日の授業は二限目からとなった。

 二限目の授業の教室に急いで移動しているときに気づいたのだが、何だか校舎がやけに騒がしい。

 女子たちの黄色い声が聞こえて来るのだが、どうやら帝国の皇子二人が平民校舎に来ているようだ。

 私が二限目の教室に入り、一番後ろの席について、授業の準備をしていると、帝国皇子の兄の方が私たちの教室に入って来た。

 教室の女子たちから、歓喜の声が湧き上がる。

 聞いていた通りのクールな美形だ。

 身長が高く、帝国でも珍しい黒髪で、青い涼しげな目をした端正な顔立ちをしている。

 女子が騒ぐだけのことはある。

 続いて弟の方が入って来た。

 私は目を疑った。なんて綺麗な男なのだろうか。

 女子たちの声は絶叫に変わっていた。

 兄とは全く異なる雰囲気の金髪碧眼の美しい顔立ちをしている。

 優しく微笑むような眼差しに、あまり男子に興味がなかった私もドキドキしてしまった。

 兄が教壇に立ち、弟の方はドアから少し入ったところで壁にもたれ、腕を組んで教室内を見回している。

「サーシャ・エストラーゼ嬢が、今日から登校していると聞いた」

 兄の方が口を開いた。

 教室の女子全員が、一斉に私の方を振り向いた。

「兄さん、多分あの子だ」

 弟の方が間違いなく私を指さしている。

 私は何が起きているのか全く分からなかった。

「ほう、お前がサーシャか。学園一の魔法使いと聞いている。一度手合わせをしたい。今日の放課後、迎えの馬車を送る」

 そう言い残して、兄の方は私の返事も聞かずに、教室を出て行ってしまった。

 弟の方は私に軽くウィンクして、微笑んでから、兄の後に続いた。

 彼らには私が行くことは決定事項のようだ。教室の特に女子たちからの視線が痛い。

 兄弟と入れ違いに入って来た三限目の若い男の先生が、酷くみすぼらしく見えて、お気の毒だった。

 三限目の授業中、ずっとそわそわしていた女子たちが、授業が終わると同時に、私の席に殺到した。

「どういうご関係なの?」

「今日行くの?」

「私も連れて行って」

 あー、うるさい! 私は静かに魔法を勉強したいだけなのに……。
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