夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します

もぐすけ

文字の大きさ
上 下
1 / 11

夫婦で召喚されました

しおりを挟む
 ナイチンゲールに憧れて看護師になった。

 医者と付き合うのに飽きて、普通の会社員と結婚して、三年後に息子を出産した。

 別段子供が欲しかったわけではないのだが、夫のカイトが「家事育児は俺に任せとけ」と言うし、せっかく授かった命なので産んでみることにした。

 出産の痛さに耐えきれず、出るもの全部出しても出て欲しいものは出ず、途中で無痛分娩にして欲しいと担当医に泣いてすがって、やっとのことで産んだのだが、この地獄の苦しみを私が味わっていたとき、カイトは海外出張中だった。

 苦労して産んだ子供ではあったが、どう贔屓目に見ても、猿にしか見えず、ちっとも可愛くないと思った。こんなに愛情がなくて、果たして育てて行けるだろうか、と非常に不安だった。

 赤ん坊時代は、とにかく耐える毎日だった。カイトは会社に出ていて、私は産休で家にいて、一人で育児をしていると、涙がポロポロ出て来た。カイトは全く家事育児をしなかった。騙されたと思った。

 ネットで「育児 辛い」を検索して、地獄を味わっている仲間の話を探しまくっていた毎日だっだが、三歳くらいから息子が猿から脱却し、ようやく人間らしくなって来て、可愛いいと思えるようになって来た。

 子育てが楽しくなって来て、私は息子の教育に燃えた。英語を話す幼稚園に入れ、ピアノを習わせ、水泳とサッカーをさせて、公文を始めた。カイトは習い事の送り迎えを車でするだけだった。

 あまり人付き合いが上手でない私は、ママ友との付き合いが苦痛だったが、息子が友達と遊べるように、頑張ってママたちの輪に加わった。しかし、カイトはろくに挨拶もしなかった。

 小学校は苦労して私立に入れた。学費は私の貯金と実家からの援助でまかなった。カイトは公立でいいと言い張って、教育費は一切出さなかった。

 こいつ、本当に使えない。お金を出さないなら、せめて肉体労働で貢献して欲しいわ。

「カイト、もっと手伝ってよ」

「送り迎えしているじゃないか。あとゴミ捨てと、食器洗いも」

「それ、家事と育児のうちの何パーセント?」

「多分二十四時間のうちの一時間ぐらいかな」

(自覚はあるのね)

「もっとやれることあるでしょう」

「何をしていいのか分からないから、言ってくれ。言ってくれればやるから」

「言わなくてもやって欲しいのよ」

「それは無理だ。家事と育児って、何をすればいいのか分からないんだ」

(アホなの? 仕事ができない部下と同じだわ。疲れる…。)

 そんな息子も、中学生になり、私の言うことを全く聞かなくなった。

 小学生のころ、あんなに可愛いかった息子が、急に背が伸び、声変わりして、私と口を聞かなくなってしまった。

 仕事と子育ての両立で、日々忙殺されていた怒涛の小学生時代ではあったが、私は息子と一緒に習い事に行ったり、学校の行事に参加したりして、毎日がそれなりに楽しかった。

 そんな時期が気がついたら終わってしまっていた。気が抜けたような日々を過ごしていた私に、夫のカイトが何を思ったのか、突然迫って来た。

「なあ、久しぶりにしないか?」

「は?」

 何を思ったのか、夜のベッドで私の体を触ってくる。

「ちょっと、やめてよ」

「このままだと一生セックスレスだぞ」

「むしろそうなりたいんだけど……」

 しかし、カイトは構わず抱きついて来た。

 私はもうカイトのことは、。子供がいるから、離婚しないでいてあげているのだ。この男にはそういう状況が、全く分かっていないようだ。

「鬱陶しいから、あっち行ってよ」

 カイトはまだ諦めないで、私に覆い被さって来る。こいつ、しつこい。というか、これは合意がないから犯罪ではないか。

 何て惨めな結婚生活なんだろう。あそこを蹴飛ばしてやろうかと思った瞬間、私たちは白い光に包まれた。

 何が起きているのか分からないうちに白い光は消えた。すると、寝室にいたはずの私たちは、薄暗い床の間にいた。神社のお堂のような雰囲気の場所だ。

「痛っ」

 カイトも気がついたようだ。

 私に覆い被さろうと、四つん這いになっていたカイトの膝は、ベッドではなく、床についていた。床の上でのこの体制は、さぞかし膝が痛いであろう。カイトはさすがに諦めて、立ち上がった。

 私も起き上がって、周りを見回した。目が暗さに慣れてくると、周囲を黒装束の人たちに囲まれていることに気づいた。しかも、私たちはなぜか素っ裸だ。私はシャツと短パンを着ていたはずなのに、今は下着すら着けていない。

「っ」

 私は悲鳴を抑えて、裸を出来るだけ見られないように丸まった。

 女性らしき人影が一人近づいて来て、私たちにガウンのようなものをかけてくれた。

「どうなっているの?」

 答えを期待して発した言葉ではなかった。分かるはずがないからだ。だからカイトから答えが返って来て驚いた。

「恐らく異世界召喚だろう。ほら、ラノベによくあるやつ」

 ラノベと言われても私にはさっぱり謎だが、別の世界に連れて来られたということか。ターミネーターが素っ裸で未来から来るのと似ているかも。

「説明があるようだぞ」

 カイトが落ち着いていることにも驚いた。いつも使えないくせにこんなときだけ堂々として、全くアホとしか思えない。カイトの視線の先を追うと、黒装束の輪が解かれて、こちらに歩いてくる人影が見えた。

 黒装束たちがランプのようなものに灯りをともした。私たちの目の前の人物の姿がよく見えるようになった。

(子供?)

 息子と同じ中学生ぐらいの女の子だった。

「ようこそ、アルタリアへ」

 少女は初めて聞く発音の外国語を話した。だが、何故か私には理解できた。カイトを見ると、彼には理解できていないようだった。私は少女の方に視線を戻した。

「私どもの勝手な都合でお二人を召喚したことをまずはお詫びします。私はこの国の王のゲツと申します」

 王? この少女が? 金髪碧眼の西洋人のような容姿の綺麗な女の子だ。

「私はサトウエリカ、こちらはカイトよ」

 とりあえず自己紹介したが、丁寧語で話さないのは、王の勝手な都合で召喚されて、私は怒っているからだ。

 カイトは私がこの世界の言葉を話していることに驚いている。私だって驚いているのだが。

「お呼びだてしたのは、お二人に我が国を救って頂きたいからです」

(私たち、ただのアラフォー夫婦よ。頼む相手が間違っているんじゃ……?)

 私たちが黙っていると、王は話を続けた。

「世界を転移すると、体内に変化が生じます。エリカ様が我々の言葉を理解し、話すことができるのも、その変化の一つです。エリカ様にはその他にも数々の力が備わったはずですが、その話は後ほどさせて頂くとして、まずは、カイト様に我々の種王たねおうになって頂きます」

「たねおう?」

 私は嫌な予感がした。

「はい。毎日、生殖活動に勤しんで頂きたいのです。我が国は十年前、隣国のエルフ王の大呪術によって、男性が全員女性に変えられてしまいました。このままでは子供ができず、我々は滅亡してしまいます。そのため、生殖能力が盛んな男性を召喚したのです」

「それがカイトってこと?」

「そうです。私どもと子を成すことができ、かつ、異世界転移に耐える因子を持つ人間の住むあなた方の世界から、やっとのことで召喚を成功させました」

「ちょっと待って。カイトは私の夫よ。そんなことを妻の私が許すわけないでしょう。別の独身の男を召喚して」

 私はカイトが他の女とすることが嫌なのではなかった。それ自体には自分でも驚くほど抵抗がない。見ず知らずの女が、形だけとはいえ私の夫である男を好き勝手にすることが気に食わないだけだ。

「召喚はそんなに簡単ではありません。成功したのは、この十年間であなた方だけです。でも、仕方ありません。独身の男ですね。エリカ様のご子息を召喚することに致しましょう。上手くいけば成功しますが、転移中に命を落とすことがほとんどです。召喚しますか?」

「やめてっ。脅すつもりなの!?」

「そんなつもりはないです。エリカさんご自身が、独身男を召喚しろと仰ったのですよ」

 この王、子供だと思って舐めてはいけないようだ。

「分かったわ。カイトに言う通りにさせるから、息子は召喚しないで。でも、まさかあなたとするの? あなた、まだ子供でしょう?」

「私は呪いで女にされました。本来は男ですので、子供は作れません。歳は二十歳です。我々はあなた方よりも長命ですので、年齢と見た目があなた方の感覚とは異なるようです。カイト様には、子供を欲している女性たちに種付けをお願いします」

「毎日するの?」

「はい、一日最低でも二回はお願いします」

 カイトの顔を私と王が見ているので、自分のことを話しているのだと思ったようだ。カイトが私に話しかけて来た。

「エリカ、なぜお前はこっちの言葉が話せるんだ? それで、なんて言ってるんだ?」

 私はカイトに説明した。容姿や年齢がさまざまな子供を欲する見知らぬ女性たちを相手に、毎日するのだ。こういうのって、男はどういう気持ちなのだろう。カイトは微妙な表情をして、黙ってしまった。

(神妙な顔つきをして誤魔化しているけど、ちょっとニヤついているわね)

「人類のためだ。仕方あるまい」

 カイトが格好つけて何か言っている。

(こいつ、本当にムカつくわ。放っておこう)

 私は王に向き直った。

「カイトはせっせと子作りするとして、私は何をするの?」

「我々がエルフ王に会って、呪いを解いてもらうための支援をお願いしたいのです」

「単なる一般人の私が?」

 私はただの看護師だ。もちろん呪いを解いたことなどない。どう支援しろというのか。

「転移によって、どんな力を得られたのかを確認して、作戦を練ります。こちらにいらして下さい」

 カイトは早速お仕事のようだ。黒装束の女性に連れて行かれようとしている。カイトが本当にいいのかという目をして私を見てくるが、好き勝手に楽しめばいい。私はカイトを無視して、王の後に続いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

最強陛下の育児論〜5歳児の娘に振り回されているが、でもやっぱり可愛くて許してしまうのはどうしたらいいものか〜

楠ノ木雫
ファンタジー
 孤児院で暮らしていた女の子リンティの元へ、とある男達が訪ねてきた。その者達が所持していたものには、この国の紋章が刻まれていた。そう、この国の皇城から来た者達だった。その者達は、この国の皇女を捜しに来ていたようで、リンティを見た瞬間間違いなく彼女が皇女だと言い出した。  言い合いになってしまったが、リンティは皇城に行く事に。だが、この国の皇帝の二つ名が〝冷血の最強皇帝〟。そして、タイミング悪く首を撥ねている瞬間を目の当たりに。  こんな無慈悲の皇帝が自分の父。そんな事実が信じられないリンティ。だけど、あれ? 皇帝が、ぬいぐるみをプレゼントしてくれた?  リンティがこの城に来てから、どんどん皇帝がおかしくなっていく姿を目の当たりにする周りの者達も困惑。一体どうなっているのだろうか?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

処理中です...