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ミント篇
孤児院の運営
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結局、朝まで誰も逃げ出さなかった。誰か逃げてくれると、いい見せしめになったのだが。
俺は院長を職員室に追いやって、院長室を居場所にする予定でいた。
朝、リズを院長室に呼んで、新たに堕天使の召喚をお願いした。毎回、セフィラスという堕天使が召喚されるのだが、召喚を解かなくても、リズが眠ってしまうと、どこかに帰ってしまうのだ。
ちなみにセフィラスはこっちでの記憶がない。召喚し直すたびに、前の召喚のことをすっかり忘れている。
「リズ、シスターたちは案外従順なのか?」
「わからないですが、なぜ逃げなかったのか、本人たちに聞いてみてはいかがでしょうか?」
「チャームは未婚の女性にはあまり使いたくないんだが……」
チャームは友情を深める魔法なのだが、レベルが上がって、今の俺のチャームは、すぐに親友になる効果がある。
ところが、未婚の女性が相手だと、恋愛感情にまで発展してしまうようなのだ。そして、チャームを解いても、後遺症として、そのまま恋愛感情が残るときがある。シスターグレーがその状態だった。
「院長だけにかけたらいかがですか?」
「え? ほら、あの人、美人じゃない。昨日は格好よくきっぱり断ったが、何度も来られると、正直、最後まで抵抗し切れる自信がないんだよ」
「おじさん、最低です。そんなことになったら、私たち、悲しいです」
(父の再婚に反対する娘の図だな、これは)
「分かったよ。あの女は悪人だから、後遺症として恋愛感情が持続することはないだろう。ちょっとチャームして聞いてみるか」
もうすぐ子供たちの朝食の時間だ。日々の運営はとりあえずいつも通り行うようリズからシスターたちに指示してもらうことにした。また、リズにはいったん孤児たちのなかに戻って、情報収集するように言ってある。
院長が院長室に入って来た。俺が変なことをしでかさないように、アリサとサーシャに同席してもらった。
院長は俺の前に座った。
(うーむ、美人だ。こんな美人が修道女だなんて、なんかいろいろ事情があるんだろうなあ)
まずい、早くも同情モードに入っている。
(チャームをかけると不味いような気がするなあ。子供たちが同席している間は大丈夫だが、二人きりになるとかなりやばいレベルだ。セフィラス、仮にも堕天使だろ、人間なんかに発情するなよ)
「院長、正直になってもらうぞ。チャーム!」
(やべえ、アネモネの目が色っぽい。アネモネとか、俺、名前で呼んじゃってるし。でも、セフィラス、やるじゃないか。欲情はしていないようだ)
憑依は完全ではない。憑依された本人の本能的な部分に抵抗出来ないのだ。例えば、顔を殴られそうになると、反射的によけるが、それは俺の意思ではない。本人の本能による反射行動を憑依している側は制御できない。
「何なりとお聞きになってぇ」
アネモネが甘ったるい声を出した。
(うーむ、子供の目も気にせず、アネモネさんはお色気全開だが、このまま尋問を続けていいのだろうか? 子供たちの教育上よろしくないのではないか?)
俺はちらっとアリサとサーシャの様子を見てみた。汚物を見るかのような目でアネモネを見ている。
(はあ、何でこうなるんだろう。俺は、ただ、孤児院の運営を何とかしたいだけなのに)
「院長、シャッキっとしろ。子供が見ているのだぞ」
「意地悪なお方……」
(ダメだ。全然直す気がないらしい。無視しよう。早く聞きたいことだけを聞こう)
その後、アネモネから色々と事情聴取をしたのだが、彼女はわざと胸の谷間を見せつけて来たり、暑いとか言って、長いスカートをはだけて足を見せたり、俺の霊体は明らかに精神的に興奮状態だったのだが、セフィラスはむしろシラけていたようだ。
(これって、まさにインポ状態だな)
何とか情報収集できたので、チャームを解除した。さすが悪女だ。完全に冷めた目に戻っている。さっきまでの熱情を恥じる様子もない。
「院長、自室で待機していてくれ」
「かしこまりました」
「アリサ、サーシャ、悪かったな。朝ごはんを食べてくるといい」
「おじさん、なんかいろいろと勉強になったわ」
「私もですわ」
そう言い残して彼女たちは院長室を出て行った。何のことなのかさっぱり分からんが、何か得るものがあったのだろう。
俺は今得た情報を整理した。
・孤児院には教会運営のものと民間運営のものがある
(ここは教会運営)
・教会本部から運営指示があり、それに従っている
・青田売りは今の司教になってから指示されて始めた
・教会からの監察官が月に一回孤児院に見回りに来る
・本部からの指示への違反者には、厳しい処分が与えられる
なぜ逃げないのかというと、教会からの許可なしに持ち場を離れると厳罰処分になるからだ。逃げても行く場所がないという事情もあるが、次回の教会からの監察官が来るまでは、誰も逃げないはずとのことだった。
俺はもう一度院長にチャームをかけて、しばらくここの孤児院の運営を任せることにした。
(よし、サーシャの孤児院に行くぞ)
俺は院長を職員室に追いやって、院長室を居場所にする予定でいた。
朝、リズを院長室に呼んで、新たに堕天使の召喚をお願いした。毎回、セフィラスという堕天使が召喚されるのだが、召喚を解かなくても、リズが眠ってしまうと、どこかに帰ってしまうのだ。
ちなみにセフィラスはこっちでの記憶がない。召喚し直すたびに、前の召喚のことをすっかり忘れている。
「リズ、シスターたちは案外従順なのか?」
「わからないですが、なぜ逃げなかったのか、本人たちに聞いてみてはいかがでしょうか?」
「チャームは未婚の女性にはあまり使いたくないんだが……」
チャームは友情を深める魔法なのだが、レベルが上がって、今の俺のチャームは、すぐに親友になる効果がある。
ところが、未婚の女性が相手だと、恋愛感情にまで発展してしまうようなのだ。そして、チャームを解いても、後遺症として、そのまま恋愛感情が残るときがある。シスターグレーがその状態だった。
「院長だけにかけたらいかがですか?」
「え? ほら、あの人、美人じゃない。昨日は格好よくきっぱり断ったが、何度も来られると、正直、最後まで抵抗し切れる自信がないんだよ」
「おじさん、最低です。そんなことになったら、私たち、悲しいです」
(父の再婚に反対する娘の図だな、これは)
「分かったよ。あの女は悪人だから、後遺症として恋愛感情が持続することはないだろう。ちょっとチャームして聞いてみるか」
もうすぐ子供たちの朝食の時間だ。日々の運営はとりあえずいつも通り行うようリズからシスターたちに指示してもらうことにした。また、リズにはいったん孤児たちのなかに戻って、情報収集するように言ってある。
院長が院長室に入って来た。俺が変なことをしでかさないように、アリサとサーシャに同席してもらった。
院長は俺の前に座った。
(うーむ、美人だ。こんな美人が修道女だなんて、なんかいろいろ事情があるんだろうなあ)
まずい、早くも同情モードに入っている。
(チャームをかけると不味いような気がするなあ。子供たちが同席している間は大丈夫だが、二人きりになるとかなりやばいレベルだ。セフィラス、仮にも堕天使だろ、人間なんかに発情するなよ)
「院長、正直になってもらうぞ。チャーム!」
(やべえ、アネモネの目が色っぽい。アネモネとか、俺、名前で呼んじゃってるし。でも、セフィラス、やるじゃないか。欲情はしていないようだ)
憑依は完全ではない。憑依された本人の本能的な部分に抵抗出来ないのだ。例えば、顔を殴られそうになると、反射的によけるが、それは俺の意思ではない。本人の本能による反射行動を憑依している側は制御できない。
「何なりとお聞きになってぇ」
アネモネが甘ったるい声を出した。
(うーむ、子供の目も気にせず、アネモネさんはお色気全開だが、このまま尋問を続けていいのだろうか? 子供たちの教育上よろしくないのではないか?)
俺はちらっとアリサとサーシャの様子を見てみた。汚物を見るかのような目でアネモネを見ている。
(はあ、何でこうなるんだろう。俺は、ただ、孤児院の運営を何とかしたいだけなのに)
「院長、シャッキっとしろ。子供が見ているのだぞ」
「意地悪なお方……」
(ダメだ。全然直す気がないらしい。無視しよう。早く聞きたいことだけを聞こう)
その後、アネモネから色々と事情聴取をしたのだが、彼女はわざと胸の谷間を見せつけて来たり、暑いとか言って、長いスカートをはだけて足を見せたり、俺の霊体は明らかに精神的に興奮状態だったのだが、セフィラスはむしろシラけていたようだ。
(これって、まさにインポ状態だな)
何とか情報収集できたので、チャームを解除した。さすが悪女だ。完全に冷めた目に戻っている。さっきまでの熱情を恥じる様子もない。
「院長、自室で待機していてくれ」
「かしこまりました」
「アリサ、サーシャ、悪かったな。朝ごはんを食べてくるといい」
「おじさん、なんかいろいろと勉強になったわ」
「私もですわ」
そう言い残して彼女たちは院長室を出て行った。何のことなのかさっぱり分からんが、何か得るものがあったのだろう。
俺は今得た情報を整理した。
・孤児院には教会運営のものと民間運営のものがある
(ここは教会運営)
・教会本部から運営指示があり、それに従っている
・青田売りは今の司教になってから指示されて始めた
・教会からの監察官が月に一回孤児院に見回りに来る
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なぜ逃げないのかというと、教会からの許可なしに持ち場を離れると厳罰処分になるからだ。逃げても行く場所がないという事情もあるが、次回の教会からの監察官が来るまでは、誰も逃げないはずとのことだった。
俺はもう一度院長にチャームをかけて、しばらくここの孤児院の運営を任せることにした。
(よし、サーシャの孤児院に行くぞ)
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