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ダンジョン篇

聖女は怖かった

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「このスケルトン、フィアだけじゃなく、ファイアも使って、剣まで繰り出して来たぞ」

 俺を倒した筋肉男が、もう一人入って来たメガネ男に説明している。

「変種ですかね。鑑定しましたが、スケルトンですよ。ただし、レベルは高いです。あ、そこにも人が転がってますね」

 そう言って、メガネがリードの遺体を調べ始めた。

「死んでいます。聖女様をお呼びして来ます」

 俺はまだ復活していないが、メガネが部屋を出た後に、試しに筋肉男にファイアを放ってみた。

 さっきはかき消されたが、今はリードを調べていて、頭蓋骨の俺には無防備な後ろ姿を見せている。

 ファイアが男の後頭部を直撃した。一瞬で男の髪の毛が燃え上がる。

(こんな状態でも魔法は撃てるのか)

「ぐお、こいつっ」

 この間に復活した俺は、目をつぶって拳をめちゃくちゃに振り回している男の首筋に、剣を押し当てた。部屋中に血飛沫を撒き散らしながら、筋肉男が倒れた。

『レベルが62になりました。スケルトンメイジに進化しました。フレアの魔法を覚えました。ファイアをフレアに統合しました。デスの魔法を覚えました。拳闘のスキルを覚えました』

 俺は部屋を出て、こちらに向かって来ている制服男たちに覚えたばかりのフレアとデスを放った。

 フレアは防御されてしまったようだが、デスを受けたと思われる男がどさりと倒れた。さっきのメガネだ。

『レベルが65になりました。鑑定のスキルを覚えました』

「あら、デスを使うのね。不用意だったわ。ジムさん、ごめんなさいっ」

(ジムってやつは死んじゃったんだぞ。ごめんなさいって、軽すぎるだろう。変な女だな)

 鑑定のスキルを得た途端に、俺の頭に情報が入って来るようになった。メガネはどうやら戦闘員ではなく分析員だったようだ。

 俺の前には男が三人、その後ろに女が一人いる。若い冒険者たちはダンジョンを出たようだ。男三人がそれぞれ戦闘態勢を取り、恐らく女の指示を待っている。

(あの女が聖女だ。レベル2589だとっ!?)

 戦闘員はレベル70前後だ。全員「ブレイヴ」状態となっている。

(フィアへの対応か)

 あの聖女がとにかくやばい。使える魔法がずらりと並んでいるが、すぐに消えて見えなくなった。

「もう、人のステータスを覗くなんて、エッチね。お返しね」

 ざわッとした背筋が寒くなるような悪寒が俺を襲った。

「骸骨さんは、スケルトンメイジ。レベルが65もあるなんてすごいかも。マップ、フィア、フレア、デスの魔法と、無痛、復活、剣技、拳闘、鑑定のスキルを持ってるわ。念のため、ホーリーでやっつけちゃいますねっ」

 そう言って聖女は目をつぶり、呪文を唱え出した。まずい。嫌な予感がする。

 俺は反転し、逃げ出した。

「え? 逃げちゃった? スケルトンが?」

 聖女が呪文をやめて、驚いているような声が耳に入って来たが、俺は必死で走った。

「じゃあ、キュア」

 聖女が別の魔法を唱えたようだ。後ろから何かが迫って来るのを感じる。俺は慌ててヘッドスライディングをした。背中の上を何かが通り抜けて行く。

(ぐあちちち)

 バックパックに覆われていない部分の背中が燃えるように熱い。シュワシュワと骨が泡立つ音が聞こえる。俺はすぐに立ち上がり、角を曲がった。

 目の前に真っすぐに廊下が延びていた。俺は必死に廊下を走り、適当な部屋に飛び込んだ。

 もしも俺に心臓があったなら、バクバクと鳴り響いているに違いない。

(何なんだ、あの女は。強いなんてもんじゃないぞ)

 だが、スケルトンだと思って油断していたからか、とりあえず最初の危機からは逃れられたようだ。

 少し落ち着いた俺は、部屋のなかを見回した。部屋の隅にスケルトンがうずくまっていた。レベル5で魔法は持っていない。特に俺に対しての反応はない。

 俺は閃いた。スケルトンの首を剣ではね、バラバラになった骨を全て部屋の外に出した。

 廊下でスケルトンが復活した。そして、うまい具合に俺が逃げて来た方向に歩き出した。

 部屋から首を出して、スケルトンの行き先を見ていると、出口へと続く角を曲がろうとしている。

 角を曲がった瞬間、青白い光線がスケルトンを捉え、スケルトンは白く輝きながら消えてしまった。
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