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失った彼女“叫び”
しおりを挟む「っ菜月!!!!!!」
勢いよく開けたドアの先で菜月は動かなかった。
いつも俺が病院へ来ると真っ先に笑顔で微笑んでいた菜月が、俺に反応しなかった。細い左腕が管に繋がれたまま布団の上に乗っていて、シーツの白さに負けないくらい菜月の腕は白い。
言葉は、でなかった。
うまく言葉が紡げなかった。
菜月の横で菜月の母が泣いている。
父親も目を真っ赤にして菜月の手を強く握りしめている。
医者も、看護師も、泣いている痛みを受け止めて俯き、静寂の中にただ哀しみが渦巻いている。
俺が声を出しても、菜月は応えてくれないだろう。今日だけじゃない、今日も、明日も、明後日も。来年も。再来年も。
ただ立ちすくむ僕に菜月の両親は泣きながら微笑みかけて手招きをする。
やっとの思いで菜月の傍に腰掛ける。
急に現実味を増した。
「………菜月…」
一言で蓋が外れたように涙が溢れた。
頬を伝う涙はとめどなく流れて、少しも止まってくれない。
「菜月、話したい事たくさんあるんだ。
行きたいところも、これからしたいことも、まだ何一つ叶えてない…。
菜月を、まだ幸せにできてないんだよ。
置いて、置いていくな菜月。どうしたらお前のそばに行ける?なぁ…な、なぁ…。なんとか…こ、ここ応えてくれよ」
俺が話終わると、菜月の両親は余計に涙を流した。
俺の涙も止まらない。
どんなに泣いても、愛した菜月はもういない。
渦巻く悲しみの中で、何も考えずに俺は冷たい左手を強く握っていた。
最期、の握手だった。
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