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~17~ 誰が、誰の、なんですか?

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 中央広場にはすでに大勢の人が詰めかけていた。
 いつもは花畑がある程度だが、今宵は灯りに照らされた広場は幻想的だ。
 楽団の音色に乗り踊る者、それを見物する者、そしてお目当ての人を踊りに誘う者。ところどころで、色々な人達が楽しんでいる。
 ダレンとアリスが広場に着いた時には、すでに踊りも始まっており、嬉しそうな人の顔で溢れかえっていた。
 

 「アリス!!」

 突然名を呼ばれ、驚いて振り返るとそこにはメイド仲間のリンダ達がいた。
 今更ながらはぐれてしまっていたことを思い出し、平謝りしようと思った矢先。その隣にダレンがいるのに気が付いた彼女たちは、目を見開き驚いたまま後ずさりをしてどこかに行ってしまった。

「あ! リンダさん。待ってください!」

 慌てて追いかけようとするアリスの肩を掴むと、

「気を利かせてくれたんだろう。せっかくだ、俺たちも楽しもう」

 そう言いながらダレンはアリスの手を取り、踊りの輪に入って行った。
 突然の伯爵様の参加に、町の人たちは驚き喝采を浴びせる。
 何が起こっているのかわからないアリスは、キョロキョロと辺りを見回して。

「何が起こったんですか?」
「俺が初めて踊るから驚いているんだ」

「え? 初めて?」
「ああ、初めてだ。だが、踊りは覚えている。俺に合わせて飛んでいればいい。簡単だろう?」

「え? ちょっと、待ってください!!」

 祭りの踊りは、以前姉が練習していた貴族が社交界で踊るダンスとは全然違っていた。お互い手を取り、足取りも軽く飛ぶように回って踊る。時にはターンを決めたり、手拍子をしたりとアレンジは自分で適当にしてもいいようだ。

「な? 簡単だろう? 踊りたいように踊ったヤツが勝ちだ!」
「勝ち? 競争なんですか?」

 二人は顔を合せ、互いに視線を合わせながら踊り続ける。
 頬は緩み、笑顔は次第に花開いていく。時に声を上げ。周りの視線などいつしか目に入らなくなっていった。
 社交用のダンスを練習したことがあるアリス。とても窮屈で楽しいものではなく、ダンスに対して嫌悪感を持ってもいた。
 だが、今日の祭りの踊りはとても楽しくて、ずっと踊り続けていたいとすら思えてくる。
 それはダレンも同じなのだろう。こんなに楽しそうに笑うダレンを始めて見たアリスは、その顔を見ているだけで心が暖かくなっていくのを感じていた。

 曲も変わり、踊りの人の顔ぶれが変わってもなお、二人は踊り続けていた。


 踊り疲れた二人は同じタイミングで足を止め、顔を見合わせ声を上げて笑い出した。

「いや、さすがに疲れた。だてに田舎育ちを自慢するだけの体力はあるな」
「え? 自慢なんかしていません。でも、田舎育ちは本当のことですが」

 何か飲もう。そう言ってアリスの手を取り、二人は踊りの輪の中から外れ人込みの中に紛れようとする。
 だが、二人の踊る姿をずっとみていた町の人たちは、皆口々にダレンに対し祝福の言葉を口にしていくのだ。


「おめでとうございます、お館様。先代もさぞやお喜びでしょう」
「これで益々、この地も安定しますな」
「来年は三人で参加できますかね?」

 などと、皆笑顔をこぼし口々に話しかけてくる。
 それに対してダレンは何も言わずに笑顔のまま、アリスの手を引き人込みを抜けて歩き続けていくだけだ。否定も肯定もしない。

 途中、果実水を売る出店の店主が飲んでくれと、二人に果実水を持たせてくれた。それを飲みながら二人はただ黙って歩き続ける。
 少し遅い時間の今、子供連れの家族は皆引き上げていることもあり、前に比べると人の数は少ない。
 それでも、すれ違う人の視線は皆二人に向いている。
 最初、伯爵であるダレンに対しての視線と思っていたが、どうやら自分にむけられていることに薄々気が付き、アリスは思い切ってダレンに聞いてみた。

「ダレン様。なんだか、みんなの視線を感じるのですが。気のせいでしょうか?」

 並び歩くダレンを見上げるように話しかけたアリスに、ダレンは前を見たまま答える。

「いや、気のせいじゃないと思う」
「やっぱり……。私、変ですよね。こんな高価な服を着るのは初めてで、ちょっぴり嬉しかったんですけど、背伸びしすぎちゃった気がしていたんです」

 少しだけ残念そうな表情を浮かべるアリスのことを、愛しいものを見る眼差しで見下ろすダレン。ふと、ふたりの視線が合わさり、咄嗟に視線を反らしてしまった。
 それを見たアリスは、やっぱり似合わなかったんだと思い、少しだけ憂鬱な気分になったのだった。そんな様子を見ながらダレンは意を決したようにささやいた。

「その服、よく似合っている。俺は好きだ」

 ダレンの『好きだ』。
なぜかこの言葉だけがアリスの中でこだまし続け、ワンピースのことを言っているのに、自分への想いではないとわかっているのに、『好きだ』の言葉が耳に残り、嬉しさのあまり頬のゆるみが止められなかった。

「皆がお前を見ているのは、たぶん俺の婚約者か何かだと思っているからだと思う。事実、祝いの言葉を沢山もらった。俺はイエスもノーも言っていない。
 だが、数日中にはその話題で持ちきりになっているだろうな」

 アリスの手を握り解くことのないまま歩き続けるダレン。恥ずかしいのか、その耳は少し赤く染まっている。彼の横で見上げるアリスの顔も一気に赤く染めあがってしまった。

が!

 今何と言った? 婚約者? 誰が? 誰の? 
そんなことが頭をグルグルと回り続け、さっきの『好きだ』の余韻は一気に吹き飛んでしまった。

「ダ、ダレン様。誰が誰の婚約者ですか? もう一度確認しても良いですか?」

 ダレンはピタリと足を止めると、アリスの方を向き直り大きく息を吸った。

「お前が、俺の婚約者だと言った」
「え? え? えええぇぇえぇえぇ!!」

 祭りの喧騒をかき消すほどのアリスの大声が、辺りに響き渡った。


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