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「なにやら、私の名が聞こえたようですが?」

セイラが全てを諦めかけた時だった。
聞き覚えのある、今一番聞きたい人の声が耳を通り抜ける。

「ロベルト様?」
マルグレートが驚いて声を上げる。周りの令嬢達も息を飲んで、彼を凝視する。

セイラは愛しく懐かしいその顔を見て、喜びと、憤りと、諦めの思いが胸に込み上げ、顔をしかめ冷静でいることができなかった。

やっと会えた。会いたくて仕方ない姿が今、目の前にある。
嬉しい。嬉しいはずなのに。すべてが遅い。遅すぎた。
もう少し早く、もう少し気にかけてくれていたら、もう少し愛していると思わせてくれていたら、どんな形になろうとも待つことができたのに。

『遅かったのよ』

セイラは力なく俯いた。


「先ほど私の名が聞こえたものですから、ご令嬢方がお集りの中不躾とは思いましたが声をかけさせてもらいました。
それに、私を放っておいて寂しい思いをさせる婚約者殿をさらいに来たのですが、よろしいですか?」
「婚約者?」
マルグレートや令嬢達だけでなく、周りで聞き耳を立てていた他の者達も皆、ロベルトの婚約者に興味が集中していた。

「ええ、やっとこの手に掴むことのできた最愛の人です。どうか邪魔をせずに私に返していただけるとありがたいのですが?
ね?セイラ」

そう言ってセイラの手を取ると、その手を愛おしそうに両の手でなぞり口づけを落とした。
彼の手は自然にセイラの腰に回り、自分の方に引き寄せ守るように抱き寄せた。

「?」

そこにいた皆がセイラに視線を向ける。ロベルトの婚約者がセイラだと?
確かロベルトは養子に行ったはず?そしてそこで縁談の話があるとかないとか、そんな噂だったのでは?と皆が思ったことだろう。セイラもそう思っている。
そんな事はお構いなしのロベルトに対し、セイラは何がどうなっているのかさっぱりわからなかった。

あれだけ会いたいと願った人が今目の前にいて、しかも自分のことを愛しい婚約者だと言い、彼の片腕に抱き寄せられている。
ロベルトの瞳を見上げると、まるで大丈夫といってくれているような優しいまなざしでセイラを見つめ返してくれる。
セイラの思考は追いついていかなかった。

「でも、セイラ様はガーラント辺境伯様とご婚約されたとお聞きしましたが?」

その言葉にロベルトは口元を上げ、セイラの腰を強く抱き寄せると

「私が、現ガーラント当主だ。そしてここにいるセイラ・ルドー侯爵令嬢は、私の最愛の婚約者だ。皆さま方、以後お見知りおきを」
ロベルトは嬉しそうにマルグレート達を見下ろした。

何のことだ?本当なのか?と、辺りがざわめき立つ。

そんな者たちを尻目に、ロベルトはセイラの髪を撫でながら、
「待たせたね。遅くなってすまない。許してほしい」
そう言ってセイラの髪をひと房すくうと、自分の唇に近づけ口づけをした。
セイラはロベルトの言葉にやっと我に返ると、瞳を揺らしロベルトを見つめるのだった。
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