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~11~
しおりを挟む翌日の夕方近く、ロベルトがルドー家へ訪れた。
二人は今までの事を語り合い、会えなかった時間の隙間を埋めるように確認しあう。
先の事はわからない。それでも今目の前にいる存在を唯一だと思い、一緒にいられることが幸せだと素直に思えた。
二人の間の障害は自分ではどうしようもないこと。
身分のことを含めても、今はただこの思いに素直に身を任せたい。流されたいと思った。
それからのロベルトは遠征前と同じように、時間が空けばセイラの元に通った。
そして時には二人で出かけたりもして、逢瀬を重ねた。
あの一件からしばらくして、王家主催の夜会の案内状が届く。
今まで夜会に出ることを拒み続けていたセイラも、王家主催ともなると侯爵令嬢としてよほどの理由でもない限り欠席は許されない。
どうしようかと思い悩み、ロベルトにエスコートを頼もうと思ったが
「これからしばらく忙しくなり時間を作ることが難しくなりそうだ。夜会も間に合わないかもしれない。
初めてエスコートできるチャンスを逃すのは残念だが。
どうか、私を信じて待っていてほしい。必ず迎えに来る。必ず」
ロベルトはセイラの手を取り唇を落とし、優しくセイラの髪を撫でる。
今のセイラにとってはその言葉こそが真実で、疑うべくもない。
信じろと言われなくても、自分が信じる者は目の前の人、ただ一人。
「ロベルト様を信じて、お待ちしています」
二人はお互いの想いを確かめると、絡めた指をほどいた。
夜会までの間、セイラは今までよりも少しずつ社交の場を広げていった。
茶会などにも一人で参加するようにし、今まで蔑ろにしてきた人脈の回復を図った。
茶会の席で以前からの友が声をかけてくれた。
約半年ぶりの再会に二人は喜んで話に花を咲かせた。
ふと、彼女の口から思わぬ話を聞かされる。
「ねえ、レインハルド様とアローラ様の婚約が整わないのは、あなたのせいだっていう噂が流れているのは知ってる?」
「え?何のこと?」
「やっぱり知らなかったのね。私はセイラがそんなことするはずないって思っていたけど、そんな噂が流れているのよ」
実は疑問には思っていた。あれから大分時間が経つというのに、未だ二人の婚約が結ばれたという話を耳にしない。
レインハルド親子はすぐにでも婚約を結び直したい勢いだったのに、やはり醜聞を考えて親が反対しているのだろうか?でももう自分には関係ないと考えないようにしていたのだ。
「そんな噂は聞いたことないわ。きっとお父様たちも私に気遣って耳に入れないようにしてくれていたのかもしれないわね?
でも、私のせいって言っても、二人が婚約を結び直すことを反対はしていないのよ。
すぐにでも婚約して良いって伝えてあるのに、今更だわ」
「そう・・・あのね、そのうち耳に入るだろうから言うけど。あなたが二人の婚約に反対して邪魔をしているって。
しかも高額の慰謝料請求をしているから両家とも困窮して、そのせいで婚約が後回しになってるってことらしいわ」
「なんのこと?私は慰謝料などもらっていないし。婚約に反対もしていない。
確かにミラー家に融資をした分と、父が彼に領地経営を教えていた分の費用は支払うようには言ったようだけど。
それだって婚約が無くなった今、返してもらうのが当たり前のはずよ?」
「確かにそうね。ルドー家は間違っていないと思う。
でもね、一度火のついた噂は中々消えないのよ。だからしばらくは気を付けた方が良いと思う。あの二人には関わりにならない方がいいわよ」
彼女の話に嘘はないと思う。二人のためにと思い社交界から遠のいていたのに、まったくの無駄に終わってしまった。
関わりになりたくないのはもちろんだが、下手なことに巻き込まれることだけは避けたい。
まったく頭の痛い話だと、茶会を後にした。
セイラはこのことをロベルトに手紙で相談した。
忙しくて時間が作れないというロベルトに迷惑をかけることになるのは気が引けるが、公爵家として何かしら情報が耳に入っているのでは?と考えたからだ。
ロベルトの返事によると、彼の耳にも噂は届いているらしい。今はまだ静観した方が得策だろうとのこと。ただし、この二人にはくれぐれも注意するようにとの事だった。
そして、エスコートできない事を許して欲しいと書かれ、もうすぐに方が付くから待っていてほしいと締めてあった。
セイラは待つことは嫌ではなかった。その先に二人の幸せがあるのならいくらでも待てた。
夜会に一人で参加することは心もとないが、一人で越えねばならないことだと覚悟を決め、ロベルトを信じ続けることを誓った。
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