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草原
しおりを挟む夜の暗い草原を歩く。
星空を見るためだ。
少し離れた場所に子羊を見た。
成体の羊と一緒にいるところを見るに親子だろうか。
突然近くでガサガサっと草が揺れる音がした。
「ひぇぇえ」
と悲鳴をあげる。
「臆病だなぁ」
呆れたようにネムに言われた。
「い、いや、ホラー映画とかは大丈夫なんだけどいきなりだとつい」
負け惜しみにしか聞こえないなと言った後に気づいた。
まぁ仕方ないよね。
暗いし何か視線も感じる気がするし。
「ここには危険は何もないし何かあっても私が居るから大丈夫なんけどなぁ」
「それは何かあっても守ってやるみたいなこと?」
「その通り。私はこう見えて強いからね。」
ネムはドヤ顔で彼女の黒い霧のような服から
剣やら銃やらを一瞬で作り出してみせ、
すぐにそれらを黒い霧に戻した。
びっくりして唖然とした僕をみてフフンっとさらに得意げな顔をしている。
悔しいようなかわいいような。
とりあえず頼もしい事はわかった。
***
少し前の事だ。
「ごめんねー。ちょっとこの先の路線に歪みがあったっぽくてねー。直してくるから暫く待ってて」
「メェ~」
先のアナウンスがあってから車掌ちゃんがシャーフを連れて来た。
「やあ、ネム。うまく具現化できたみたいだね」
「車掌ちゃんがうまくユメ物を食べさせてくれたみたいだからね」
「ユメ物?」
何かわからず僕は尋ねる。
「ピッツァ食べたでしょ?あれだよー。あれはネムを見えるようにする儀式みたいなものなんだなー」
ああ、そういうことか、と納得する。
「ま、しょうがないなぁ。じゃあせっかくだから星を見に行こうぜ?」
ネムが話を戻し、僕を誘った。
「外に出て大丈夫なの?」
「へーきへーき。今回の背景は星空だからね。しかも満天の。見に行かなきゃもったいない」
「ゆっくりしてきていいよー。どうせ乗客は君たちだけだしねー。なんなら後で私も行こうかな」
車掌ちゃんがそう答えてくれた。
「わかった。それじゃあ行こう。」
僕も了承した。
***
そんなわけでいま僕達はその場所にむかっている。
「今更だけどどこに向かってるのさ?」
少し目的地まで遠い気がしたので聞いてみた。
「テキトーでいいのさ。そういうのは。何処かに良い場所があったらそこにしよう。
…それにしても暗いなぁ」
そう言ってネムは手の平からブワッと黒い液体を出す。
それはたちまち形態を変化させ、最後にはカンテラへと変化した。
火も付いている。
「すごいなぁ」
僕が関心したように言うと
「じゃあ君もやってみるかい?さっきも言ったけど君にも出来るよ。」
意外な返事が返ってきた。
いや、確かにさっきも言われたか。
「ほんと?」
「もちろんさ。空を見て見なよ。」
空を見上げる。
相変わらず光るエイやらクジラみたいな生物などカオスなにかが所々に浮かんでいる。
「あれ、君が想像で作ってるのさ。無意識のうちにね。」
「えっ!? そうだったの?」
僕はそんな事を考えていたのか。
そういえば浮かんでいるもののいくつかは
昔漫画やアニメで見た事がある気がする。
「もっと言うとこの星空も君の無意識の想像が反映されてるんだけどね。ほら手を広げてみ?そんでもって形を想像するの。」
「想像?」
「そう。イメージ出来たらそれを手のひらでぱぱっと繋ぎ合わせて構築する。」
ネムが手を合わせる
ジェスチャーで実演して見せてくれた。
だが
「えぇ? こう?」
よくわからなかった。
なので自分で手探りでやってみる。
確かに繋ぎ合わせるというのがしっくりくる感覚のような気はするが、
これは強いイメージ力と
その物体を深く理解する把握力がないと
無理だろうと感じた。
結局出来たのは
手帳とペンが混ざり合ったような
おかしな物体だった。
手帳を作る途中で
ふとペンでこの世界を記録してみたい。
なんて考えが一瞬よぎった。
その結果イメージが混ざり合って
そうなってしまったのだ。
しかもそれを抜きに考えてもかろうじて手帳とペンだと分かる程度のお粗末なできだった。
「へぇ。すごいね。初めてにしては上出来だ」
だが、ネムの感想は僕とは真逆なものだった。
「え?そうなの?」
「うん、大体の人は最初は何作ってるのかさえ分かんないからね。そもそも創造物自体が出来ない場合もあるし」
確かに難しかったからな。
だが、この世界でしか出来ないこと
とはいえ自分の得意を一つ
見つけられたのは嬉しいことだ。
僕は素直に喜んだ。
しばらく歩くと
星を見るのにちょうどいい丘を見つけた。
「ここにしよっか」
ネムはそう言うとカンテラを元の黒い液体に戻した。それはネムの服に再び吸収されたように見えた。
「マダニとかいないよね、ね?大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。ここはユメの世界なんだから」
そう言ってネムは横になって星を眺めた。
僕もそれに倣って横になった。
「あれがデネブ、アルタイル、ベガ」
僕は星空を指さしそう言った。
「へぇ。意外だねぇ。星詳しいの?」
「いや、それっぽくいってみただけ」
ほんとに自分が好きなアニメの歌の歌詞をそのまま言っただけだった。
「ふっ、なにそれ」
ネムには通じなかったようだ。
まあ当然か。
改めて星を見る。
それは見るもの全てを呑み込んでしまうかのような壮大な景色だった。
ふと昔、何処かで似たような景色を見たことを思い出した。
あれは家族と旅行した時の事だったか。
あの時も似たような衝撃を受けたっけ。
でも似た景色でもあの頃と今とでは感じるものが違う。
あの時は良かった。
自由に、何も気にせず好きなことを
心配もなく好きなようにできて。
僕は星を見て童心に返りつつもそんな事を考えた。
しばらく二人は無言のまま星を見ていた。
「いや~ 良い夜空だねぇ」
「そうだね」
「で、この景色を見て何か心境に変化はあったかい?」
「どうだろう?わからない。」
「ふふん。じゃあしょうがないなぁ。お姉さんが人生相談でもしてあげますか」
ネムは笑ってそう言ったのだった。
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