上 下
47 / 73
2章:セントフィリアの冒険

43話.経験値

しおりを挟む
俺は岩と岩の隙間に隠れて息を潜めていた。
スーっと1匹の魚が滑らかに泳いでこちらに向かってくる。

俺の存在には気づいていないようだ。

あともう少し。

短い触手が届く距離に達した時、さっと触手で魚を絡みとり、そのまま口に入れた。

うん、なかなかの栄養になった。
これが人間どもの釣りとかいう手法か。
なかなか効果的じゃないか。

また少し、体に魔力が戻ったことを感じる。

よし、いいぞ。この調子だ。

それにしてもとんでもない化け物がいたものだ。それも2匹も、だ。

ん?俺が誰かって?

クラーケンだよ。クラーケン。

人間たちの街に攻めようとしたは良いものの、冒険者と鳥の化け物1匹にコテンパンにされて…
敗走した先で幼女に擬態した化け物に出くわして、ワンパンで吹き飛ばされたクラーケンさ。

ん?なんで生きてるかって?

あの方からもらった伸縮能力のおかげさ。
理屈は知らないけど、バラバラになっても
肉が削がれただけ見たいに小さなタコのフォルムで
再生できた。

だから、こうして再生のために栄養補給をしているというわけだ。

その時、何かが水中でもがくような音がした。

何事かと思いそちらをみると、なんと人間が海流に流されてこちらにきているではないか。

なぜ人間が、こんなところに!?

信じられない事態に困惑するが、すぐに理解した。
ああ、そうか。遭難したんだな。海難事故か何かか?

ぐっふふ。ツキが回ってきたぞ。

人間の栄養価は別格だ。

こいつを食えば、クジラくらいの大きさに戻れるくらいの魔力が戻る。

そうすれば、狩りももっと簡単になってすぐに元の大きさに戻れるだろう。

確かにあの都市には最低でも2匹怪物がいる。
だが、あんな怪物が人間の都市なんかにいつまでもいられるわけがないんだ。

すぐにいなくなるだろう。

俺はその時を見計らい、再び侵攻すればいい。

いただきまーす♪

俺は全身の口でパクリとそいつを飲み込む。

ん?なんか変な感触がするな。口に入れる瞬間空気に触れたような

その瞬間、視界が一気に変わる。
?、なんだ!?

体が急上昇しているのだ。何かに引っ張られて。

抗うこともできずに、俺の体は海面から飛び出した。

「うおおッ!なんだなんだ!?」

思わず声が出る。

パシッと頭をボールでも持つみたいに捕まれた。


「おっしゃー。かかったかかった。釣れたぞー、みんな」
「さっすがオルやるー」
「ふーん、これがあのクラーケン?随分ちっちゃくなったわねぇ」
「こんなでも栄養パンパンやと思うで。タコ焼きにでもしたらうまいやろなぁ」

「…」

目の前には羽の女の怪物と幼女の姿をした龍の怪物がいた。

しかも、他に

そいつらを見て俺はやっと状況を理解した。

釣られた…
こいつら、人間で釣りをしてやがる。



◇◇


※フェルミナ視点です。

真蜘羅たちと合流した次の朝。


「まだ生きてるのよ。クラーケン」

リアがどこかに行こうとしているため、訳を聞くとそのような回答が返ってきた。

それが分かった理由は"経験値"と呼ばれるこの世界のシステムによるものだという。

魔獣を人間が倒すと経験値というエネルギーが討伐した人間に手に入る。
その実態は魔力の種だ。

魔獣が討伐された時、その魔獣が持つ魔力の一部はまるで搾取されたように討伐したものに宿る。

そして、何体もの魔獣を討伐し、経験値が一定まで溜まると、その魔力の種は花開き、その者の力を一段上のステージへと押し上げてくれるのだ。

経験値を貰える量は、討伐する魔獣の強さによって異なる。

強い魔獣であればあるほどもらえる経験値の量は多くなり、弱い魔獣であればあるほど貰える経験値の量は少なくなるのだ。

弱くとも貰える経験値が多い例外の魔獣もたまに存在するが。

冒険者が魔獣を積極的に狩る理由はこの経験値が大きい。
もちろん人類を襲う魔獣を排除する狙いもあるが、その他にも魔獣を狩っていくことがパワーアップには一番効率的だから、というわけだ。

さて、この経験値だが人間は魔獣を討伐した時、この経験値という魔力の種が自身に譲渡された感覚を感じ取る事ができる。
どういうわけか、それは人間だけが感じ取れる感覚らしい。

フェルミナやセレーネたちも魔獣を討伐する事で経験値を得ることはできるが、それを実感することはできない。

分かるとすれば、経験値が多く溜まり開花して何日か後、なんとなく自分が強くなっているな~、というフワリとした感触があるだけだ。

なぜリアがクラーケンが生きているということが分かったかという話を戻すと、それは経験値が譲渡された感覚がなかったから、
ということになる。

クラーケンを倒したのがオルゴラズベリーだからではないか、と思うものもいるかもしれないが、リアだってクラーケンに大きな致命傷を与えた。

であれば経験値は分割され、リアにも多少は入ってくるはずなのだ。
それがない。つまり、クラーケンは討伐されていないということになる。

「あ~、なるほど。そういうことね」
セレーネが考え込むように言う。

「遠目だけどクラーケンが吹き飛ばされるところは見たわ。あの傷なら、まだそこまで遠くへはいけないはず」
だから、今のうちに見つけ出してとどめを刺さないと、と言ってリアはローブを羽織り出かけようとする。

私が行く必要はもうないでしょう。リアとはまだ気まずいしここは見送るだけにしましょう。
そう思ってフェルミナは手を振り、頑張ってねとリアをおくりだそうとする。

だが、その時セレーネが意外な発言をしたのだった。

「ちょっと待って!リアちゃん…だっけ。確かにクラーケンがまだ近くにいるという君の意見には賛成だけど、クラーケンを見つけ出す手段はあるのかな?恐らく奴は海底にもぐって体力回復に努めているはずだけど」

「それは…魔力探知機を使って感知、潜水でなんとかするしか」
リアが言い淀む。確かにそれしか方法はないのだろうが、今クラーケンは弱っている
この広い海でその弱弱しい魔力を見つけることは、砂上の中から金粒をみつけるに等しい行為だ。

ある程度クラーケンが回復するのを待ち、魔力探知機で探そうとするときには、もうクラーケンは沖に逃げてしまっている事だろう。

「そこでみんなにごていあーん!真蜘羅、フェルミナ、オル!みんなで釣りしなーい?」
セレーネは魚を釣り上げる仕草をして、笑っていった。

「は?釣りぃ?」
いつも凛々しいリアも、セレーネの突飛な発言にキョトンとした顔をするのだった。






_____________________


読んでくださりありがとうございます。
投稿が1か月ほど空いてしまい、ごめんなさい。
















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

処理中です...