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2章:セントフィリアの冒険

38話.古城の防衛戦④:解析

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見破られた?わたしの幻術魔法が!?

目の前の十字架ピアスの男に切り裂かれ、トドメの一撃が来る。

避けきれない。そう感じた時、私の体は宙に浮いた。

いや、掻っ攫われたのだ。

炎の翼に抱かれ、私は空にいる。

私を助けたのは魔獣四王、怪鳥王フェルミナの側近、不死鳥バーナードだった。

「大丈夫っすかぁ?シオンちゃん」

ゆっくりとバーナードは地面に降り立つ。
「なんとかおかげさまで。あ、ありがとうございます」

その後私とバーナードに追撃を喰らわそうとした
魔法部隊を魔獣四王、スカルスライム、マナフが襲った。

マナフのスライム体の液体に触れると生気を吸い取られるという。まぁ生気と言っても体力が根こそぎ奪い尽くされるだけで、命に別状はないようだが。

マナフはスライムの体から戻り言った。
「私のデータでは奴らは王国最強の冒険者集団、自由の騎士団です。私のデータでは十字架ピアスの男は死神タナ・アルティミス。白い金箔のコートの男は狂犬モア・アウグスモンド。タナは見ての通り大鎌使い。厄介なのはあの身軽な身体能力でしょうね。ですが、この場で最も厄介になるのは狂犬モアの方でしょう。彼は一流のサポーターです。兵の能力値の底上げ、搦め手への対処。ほっとくと面倒な相手です」

「へぇ。情報共有ありがとうございます。そういうことでしたら連携されると厄介ですね。分断しましょう。ところで、シオンちゃん。けがはしてないですか?」

バーナードがタナの大鎌を私を掴んでギリギリでかわしてくれたから、私は今無傷で済んでいる。

もしあれがなかったら致命傷だっただろう。

「あ、はい。ほんと助かりました。正直やばかったかも。ありがとうございます」
私は素直に感謝の言葉を口にする。


あの2人。
自由の騎士団って言ったっけ。

強かった。
これが人間の最大戦力。

私1人で撃退できると思ってたけど甘かった。

2対1じゃ勝ち目がないことはよく分かった。

だけど、こっちにもSランク相当の魔獣2匹の加勢がある。
これならまだ戦えそうだ。



十字架ピアスの男が間髪入れずに攻撃を仕掛けようと突っ込んでくる。

バーナードが前に立ち、炎の翼を大鎌にぶつけようとする。

「え?」

炎に物理的な攻撃を受け止める性質などない。
そのままバーナードが鎌で貫かれるのではないかと私は心配した。

だが、炎の翼は大鎌の一撃を受け止め、弾き返したのだ。

「うっそ。どうなってるの?その炎」
タナも不思議そうな顔をしている。

いや、あの顔は不思議そうというよりも好奇心でワクワクしてるような顔だ。
このタナってやつがどんな人間か少しずつ分かってきた。

それにしてもあの翼。普通の炎じゃないですね。

「エル・ファイア」
そして、バーナードはすかさず翼の炎から火炎の攻撃魔法を発射した。

それは炎上網となり、人間達を閉じ込める。

ナイスです。バーナードさん。これで少しは時間ができるはず。

「さて、どうしましょうか?」
なるほど。この時間に作戦を立てるためにバーナードさんは炎上網で時間を稼いだのですね。

「真蜘羅様の命令は2つ。
人的、いえ魔獣的被害を最小限に抑える事。まして死人が出るなんてもってのほかです。
それと人間が攻めてきた場合は生け捕りにする事」

「えぇ~。あれ相手に生け捕りはクソ難しくないっすか?そりゃフェルミナ様は人間が好きな方ですし、生け捕りにできたらなぁとはおもうっすけど」
「いえ、おそらく生け捕りはセレーネ様の命令でしょう。あの方の計画のために、ご協力いただけると幸いです」
マナフが深々と頭を下げる。

「そりゃもちろん四王様方の命令は絶対ですからいいですけどぉ。結構きついのも事実なんですよねぇ。あ、そうだ。ディアボロスさんは?彼が加わってくれたら」
「…いない…ですね」

辺りを見渡してもあの悪魔の姿は見えなかった。
この状況でこないのだ。恐らく来る気はないのだろう。

「いったいどういうつもり。あ!も、もしかして逃げたんじゃ。これだから悪魔なんて信頼ならないんっすよ」

「彼の実力なら逃げるということは考えづらいんですが、なんにせよ加勢は期待できそうにありませんね」
「まじっすかぁ。私たちだけでやるしかないんですねぇ。マジだるいっす」

その時。
バーナードが張った炎上網が吹き飛ばされた。

前に出たのは大鎌を振り回すタナとその後ろからついてくるモアだ。
炎上網はタナが鎌を振り回し生まれた風で吹き飛ばされたのだろう。
さながら鎌鼬だ。

後ろには一万ほどの軍勢がいるが、ずっと待機しているようだ。動く様子はない。

どういうつもりか知らないが、そこは好都合だ。


「…もう、ですか」
「やるしかないですよぉ」

「ですね。作戦をまとめますよ。ひとまずあちらは手勢を使わない様子。自由の騎士団のお二人を分断するというバーナード氏の作戦で行きましょう。バーナードさんはタナの相手をお願いします。私はモアを。シオン氏は幻術で私とバーナード氏の援護をお願いします」

マナフが私たちに簡易的だが作戦を告げてくれる。
確かに、タナの相手はバーナードが適任だろう。
タナを真正面から止められるのはこの中じゃバーナードさんだけだし。

私もマナフさんも搦め手で戦うタイプだから。

逆にモアとかいう男の相手は私たちの方が適任だ。

「りょおーかいっす」
「わ、分かりました」

例のごとく初めに突っ込んでくるのはタナだった。

そうなれば、とめるのは

「私の役目っすねぇ」

バーナードは両腕に炎を大きく展開してタナに突っ込む。

ガキィンと鈍い音がして、タナの大鎌とバーナードの炎の翼が交差した。

「やっぱりいいね。君。その羽切り落としてあげる」
「やってみるといいっすよぉ」

クルンとバーナードは空中で一回転してそのまま踵をつかって蹴りを繰り出す。
辛うじてタナは大鎌の長い柄でその蹴りを防御した。

蹴りの勢いに飛ばされてタナは後ろに下がる。

流石鳥系の魔獣なだけはある。空中戦じゃ絶対負けないな。

「要はパワーがたりねぇんだろ」
モアが魔法の杖を片手に取り、タナに駆け寄ろうとする。

「おっと、行かせませんよ」
マナフがモアの進行方向に陣取り、行く手を遮った。

「バフをかけてタナ氏を強化する、といったところですか」
「ちっ、どけよ」

よし!分断完了。あとは私の幻術で。

「タナ!!」

「おっけー。まかせろい!」
突っ込んでいたバーナードを躱し、タナが今度はマナフの方に突っ込んだ。

「ごめん、そっち行かれたっすぅ」

しまった。これが狙いか。

分断したつもりが、こっちが分断された。

今マナフはモアとタナに挟まれている形だ。
前にモア。そしてもっと厄介なのが、タナに後ろをとられたこと。
「マ、マナフさんっ!逃げて!!」

「まずは一匹だね」
舌なめずりをし、タナが大鎌を構えてマナフに飛び掛かった。
モアも杖を構え、魔法を唱えようとしている。

「甘いですよ。このシチュエーションはまだ」

マナフは人間の体を完全に液体に変える。
まさに流水のごとくしなやかな動きで液体はタナとマナフの間を潜り抜け、タナの鎌の一撃とモアの土魔法の攻撃を躱した。
「私の予測の範囲内です」
「うぇ、あたんねぇ」
「ちっ!ちょろちょろと」

「ちょろちょろだけではありませんよ」
マナフが通り去った水の奇跡。その中にバチバチと光る何かが置き去りにされていた。

「やばっ!」
「くっ」

それは雷の魔法だった。エル・エレクトロ。人間たちが使う魔法だ。
これはマナフの魔法というより、さっき使おうとしてマナフに止められていた人間たちの魔法か。

スライム王セレーネの側近、スカルスライム・マナフの能力は解析。

自身の体で飲み込んだ相手を解析して、能力をコピーできる力だ。

といってもコピーできるのは、マナフ自身が使える可能性がある能力だけだ。

例えば真蜘羅様の糸の生成能力のように、生まれつきの身体の機能に依存する能力をコピーすることはできない。

だが、人間が使う魔法のように魔力さえあればできる能力ならいくらでもコピーできる。

故に彼の能力は対人間に特化していると言える。

魔獣が使う魔法は生まれつきの身体的な性質に寄与しているところが多く、マナフが再現できないものが多いからだ。

だが、人間の魔法は魔力さえあればあとは技術を磨くだけでいくらでも習得できる。

それに火、風、土、水、雷と適正は異なるようだが、マナフは関係なくコピーできるらしい。


マナフがコピーした雷魔法、エル・エレクトロが広範囲で放電した。

避けきれず、電撃が2人の自由な騎士団に直撃する。

「やった」
「まだまだっす!」

追撃にバーナードが燃える右翼を前に振りかざした。
すると翼から大きな炎が燃え広がり、タナとモアのある場所を広範囲で燃やし尽くそうとする。

業火が天高く燃え上がり、確実に中の2人を撃退したと思われた。でも。

「ちょ、ちょっと。やりすぎじゃ。生捕りって命令が」
「大丈夫っすよ。こいつら鬼強いっすから、このくらいがちょうどいいくらいっす」

確かにこいつらは強かったけど、でも人間だ。

人間の弱点はその耐久力の低さ。本当に大丈夫だろうか。

私の心配とは別にそこにあるすべてを焼き尽くす勢いで炎は燃え盛っていた。



__________________________________________

読んでくださり、ありがとうございます。

次回投稿は7月14日(金)の20時からになります。



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